レインコート

 我が家は大のサッカー好きだ。とあるJリーグチームを応援している。コロナ禍の前年までは、ホームゲームを皆勤賞。ただ、よくニュースとかで見るような全身クラブチームのグッズで固めた格好やフラグを振ったり、飛び跳ねたりして応援するサポーターではなく、静かに集中して観戦するタイプのおとなしいサポーターである。


 先日ニュースで、南九州が梅雨に入ったという天気予報をしていた。今年は梅雨入りがだいぶ早そうだ。梅雨でもサッカーは開催されるので、この時期は天気予報とにらめっこの時間が続く。私には雨とサッカーで忘れられない思い出がある。

 

 試合の時間が雨予報で、私はいつものポンチョ、相方はレインコートを持って試合に出かける準備をした。いつも選手を近くで見たい願望から、前方の座席で風向きによっては雨にあたる席なのだ。昔は、「雨ならテレビで観戦すればいいじゃん。わざわざ濡れながら見るなんて理解不能。」と思っていたのだが、相方に連れられて観戦するようになって以来、そんな発想は吹っ飛んでしまった。すっかり1サポーターとしてガッツリ応援するようになってしまったのである。


 スタジアムに到着し、前半戦は天気もよかったのだが、後半戦に入るころポツポツと雨が降り始め、小雨の状態になった。ポンチョの出番だ。私はリュックからポンチョを取り出し羽織った。相方はなぜかその様子を眺めて余裕の表情。

「早く着ないと雨が本降りになるよ」

と声をかけると、

「今日はいつもと違うレインコートなんだ」

と言って自慢げにリュックから取り出したカーキ色の筒状のそれらしきもの。

いつもは半透明なレインコートだが、今朝、クローゼットの奥から使っていなかったレインコートが出てきたらしい。

「じゃーん!!」

いい年のおっさんが、子供のようにそのカーキ色の物体を高々と掲げて見せた。

早速収納袋から取り出して広げると・・・なんだか様子がおかしい。

「あれ?!ユニクロ?」

そこには、梅雨にふさわしくないカーキ色のライトダウンが。。。

ガッカリした相方の様子と、どんどん雨に濡れていく白髪交じりの天然パーマが、滑稽に見えて私は笑いをこらえるのが精いっぱいだった。


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