エピソード74 大作戦?
「だから何でここなんだよ!」
冬の寒さは堪えるこの時期にオレは布団の中で蠢いていた。通称、寒いから布団から出たくない現象だ。
しかし、そこへ扉をノックをして返事を待たずにズカズカと部屋に侵入してくる者がいる。そして、寝室の部屋にもちろんノックをして返事を待たずにズカズカ入ってくる。
だがオレは布団から出ない! そんなオレに力一杯布団を剥がされた。
「寒い寒い……やめてくれよ、凍えるだろ」
そんなオレの懇願も虚しく、フィーネはジト目でオレを見ていた。
「アンタ、冬の休みの宿題を手伝うって言ったわよねぇ」
「フィーネ、朝食を食べてからにしよう。だから服を着替えるから外で待っていてくれ」
適当な理由をつけて後少しだけ二度寝をしようと考えてたがフィーネに先手を打たれた。
「持ってきたわよ」
「へっ?」
「だから、朝食よ! 前日に料理長さんにお願いしてわざわざ軽食を作ってもらったのよ」
「クソッ」
「ハァ? 何か言った? アンタがアタシにそんな態度を取るつもり? クライヴのクセにふざけないでよ!」
百歩譲って朝から宿題を手伝うとは言ったが、こんな理不尽な仕打ちはあるのか?
「フィーネさん……今何時か知ってる?」
オレは恐る恐るフィーネに聞いた。確信犯なのかと?
「馬鹿にしないで! 朝の三時よ」
フィーネは【アタシって早く起きれるのよ】って言いたそうなドヤ顔をしている。
(はい、馬鹿だと思います。こんな時間に朝食を作らされた方々にも迷惑をかけてますよ)
「分かったから、一回外に出てくれるか? 着替えたいんだけど」
オレはそう言ってフィーネを一旦廊下に出して、普段着に着替えた。
そしてフィーネを招き入れて、宿題に取り掛かったが、一つ重大な事に気づいた。
(オレの宿題ノートを渡すだけでよくないか? 丸写しするんだから……)
オレがフィーネにその事を伝えようとした時、フィーネはテーブルに宿題ノートを開き真剣な表情で丸写しをしていた。その姿を見て何も言えないオレは一人で軽食のクルミ入りのコッペパンを食べていた……
やっと終わった………………
時刻は午前七時……そんなに早起きしなくても良い気がするが
「大丈夫クライヴ? 目の下にクマがあるけど寝不足なの?」
モーガンが心配するように首を傾げてオレの顔を覗き込んだ。
(何その? 可愛い覗き込み方)
オレが少しモーガンの行動に驚き身体がビクッと反応したその時!
「キャー! ア、ア、アンタ! モーガンと何してるのよ! 男同士でキ、キ、キスなんて、クライヴの変態! ケダモノ!」
フィーネのせいで目の下にクマができた事が更なる悲劇を巻き起こし、盛大な勘違いによる悲鳴で、リアナが三階から急いで降りてきた。
「どうしたんだフィーネ!」
オレとモーガンがフィーネに説明しているが、オレの話を聞こうとしないフィーネから変態扱いされている。そしてリアナも勘違いしてしまった。
「クライヴ! 見損なったぞ! ケダモノって声が聞こえたから急いで来たが、フィーネが嫌がっているじゃないか! 何故モーガンも止めなかったんだ!」
激しく怒るリアナから何故かオレは説教された。
その後……誤解を解くのに二十分を要した……
そして、みんなが朝食に向かった頃に、オレは一人ハッピースマイルポテイトンの庭の進捗状況を確認しに出かけた。みんなの為に玄関カウンターの衛兵さんに行き先を伝えるのを忘れず。
(さぁ、どうなっているかなぁ?)
オレはワクワクするような、何処となく不安を感じるような、そんな心境で足を進めた。
「このタコ坊主! おせぇじゃねぇか!」
匠達は今日も来ているようだった。
「すいません。思ったより用事が長引いてまして……」
「この丸太んぼうが! 味噌汁で顔洗って出直してこい!」
(どうツッコミを入れればよいのやら)
「クライヴ殿! よく戻って下さいました!」
声のする方を振り向くと憔悴しきったショパンさんが藁にもすがるような顔で俺を見ていた。
「もう、私には無理です。あの方々が一体何を言っているのやら……こだわりが強過ぎて……クライヴ殿が必ず帰ってくると信じる事で何とか今日まで頑張れました」
「わかりました。あとは任せてください! ショパンさんはすぐに休んでください!」
多分匠達に納得行くまで付き合わされたのだろう……オレにとっては楽しい時間だが、ショパンさんにとっては地獄の時間だったのだろう……
オレはすぐ匠達に確認をした。
「進捗状況はいかがですか?」
「べらんめえ! この唐変木が! てめぇの目で見やがってんだ!」
匠達の活き活きとした表情から出来栄えは上々なのだろうか? オレは庭の方へ歩いて行った。
「どうでい!」
何と言う事でしょう。
屋内から見えるイングリッシュガーデンの庭には、円形の噴水があります。
その噴水の縁には腰を掛けて座れるぐらいの高さを作り、誰もがホッと一息をつけるようにと匠の配慮と噴水を最大限に活用する事で噴水がこの庭のシンボルとなっています。
そして驚く事がまだあります。
一つは噴水の中心にある水が飛び出る湧き出し口の中に火と水の魔道具が組み込まれていて、この世界初の水の温度調節を可能にしました。
続いてはイングリッシュガーデンの景観を損なわないように円形の噴水からは幅五十センチ程度の四本の細い水の道が人目のつかない隅の方まで続いており、その四本の水の道は一本に繋がり、地中の配管を通り噴水の沸き出し口に戻るよう循環できる構造となっています。
最後の匠の技は庭の隅の方にある水の道のすぐ側に日差し避けの大きなパラソル付きのベンチを置いて、足を水の道につけて休めれるように足湯という物を作り上げました。
足湯は、夏にはひんやりとした水が流れ、冬は丁度良いお湯を出せれるようにした事で人々の疲れを癒す憩いの場となる事でしょう。
新しく生まれ変わった庭はただ景観を楽しむだけでなく、身体を癒す事のできる憩いの場として生まれ変わりました。
そして、このリフォームに掛かった費用は…………
「てやんでぃ! こんな庭にしやがって! また新しい事しやがってお代は結構でぃ! 今日はおうすうちゃんだ!」
また庭師に支払いを断られ……
「てやんでい! 言い訳小分けするんじゃねぇ! お金は結構でぇい! とっとと行きやがれ!」
鍛冶屋さんと魔道具さんにも支払いを断られた…………
「間尺に合わねえ仕事させやがって! ふてぇ野郎だなぁ! こんちくしょうめ、次から次と新しい事しやがって! 今回は手銭を切ってやってやらあ!」
大工さん達は大勢いらっしゃったのにみなさん自腹で良いとの事だった…………
オレは今回も申し訳なくなり、匠達にお礼を伝えた後にもう一度確認した。
「前回よりも大損になりますが、良いのでしょうか?」
「「「「あたぼうよ」」」」
匠達は自分たちの技術の全てを注ぎ込み仕事をやり切ったのだろう。清々しい顔とともに声を揃えて去って行った……
まさかの無料は驚いたが、それ以上に驚いたのは……みんな江戸っ子過ぎないかい?
殆ど聞き取れなかったんだけど…………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます