エピソード32 貴族さま? 平民さま?

 オレはボクっ娘のリアナに対して、一瞬だけ不思議そうな顔をした。


「ん? ぼくの顔に何かついてるかい」

 

 おっとそう言えばリアナは貴族だ。失礼に当たるところだった。


「私の名前はクライヴと申します。先程はすみませんでしたヘンダーソン様。まさか貴族の方が入寮するとは思いませんでしたので少将驚きました」


「止めてくれ、ぼくは騎士になるの夢があり、父上に反対されて勘当された身なんだ。だから家を出て来たので気軽にリアナと呼んでくれないか? それに同じ学院に入学するルームメイトではないか? 言葉を崩してくれると嬉しいんだが」


 何このイケメン、花がキラキラ周りに輝くようなイメージだな。


「わかったよ、よろしくリアナ。他の二人を紹介するよ」


 紹介しようとしたのだがフィーネロケットが発動した。


「リアナ、カッコいい! 騎士みたいね。アタシはフィーネよろしくね。やっと女の子が来てくれたから嬉しいわ。リアナの部屋が決まったら後でみんなと食堂に行かない。もうお腹ペコペコなんだぁ」


 何かリアナも嬉しいのか圧倒されているのか、少し照れてるぞ。もしやこれはフィーネロケット成功か?

 

「初めまして、ボクはモーガンだよ。ボクも今日入寮してきたよ。リアナよろしくね」


 流石だぜ男の娘の最高の笑顔を見せたなモーガン!


「いや、こちらこそ。使用人がいない環境には慣れておらず、少しわからぬ事があり色々と迷惑をかける事が多いと思うがよろしく頼む」

 

 だが、リアナは動じないぞ。これが騎士道精神か!


 そしてフィーネとリアナ部屋を選びに三階に向かった。


 オレとモーガンは一旦自分達の部屋に戻ろうとした。


 するとリアナが驚いた顔をしていた。

「モーガン、どうしたんだい? 三階に上がらないのかい?」

 

 まさか、ボクっ娘リアナは男の娘モーガンを本当の女の子と思っているのか?


(ボクっ娘や男の娘って言ってる自分がややこしい)


 モーガンは苦笑しながらリアナに伝えた。


「背も低いし、声も高いからよく間違えられるんだけど、ボクは男だからクライヴと同じ二階のエリアに住んでるんだよ。あっでも言われ慣れているから気にしなくて良いよ」


 リアナは【まさか】それとも【しまった】どちらかわからないが驚愕な表情をしていた。


「すまない! ぼくが勝手に勘違いしてしまい、モーガンに不快な思いをさせてしまって……せめてもの償いとして、ぼくに出来る事があれば何でも言ってくれたまえ!」


 何その優しさと包容力! すまぬリアナよ、オレにはそんなに全てを受け止める男子力は無い!


 三十分後、リアナの部屋が決まったとフィーネが呼びに来てくれた。

 リアナはフィーネのお向かいの部屋の角部屋でモーガンの真上の部屋に決めたようだ。


 そしてみんなでリアナの部屋に入ると、殺風景というか、余計なものがないというか。ヘンダーソン家の家紋入りの剣が一つだけ立てかけられていた。

 服もフリルとかのないシンプルなチュニックにズボンスタイルで、ロングスカート等は持って来てないらしい。


 「「「へぇ」」」

「なんというか」

「余計な物を置かない少しシンプルな部屋なんだね」

「シンプル過ぎない? アタシには寂しく感じるわせっかくなんだから明るいレイアウトにしたいのに! リアナって、これで良いって言うのよ」


 モーガンとフィーネ、ナイスフォロー。オレは言葉が出ない。

 前世でもこんな女の子の部屋に入った事ないよ……


 きちんと女の子の服装をしたら、ハリウッド女優みたいで良いと思うけどなぁ……


 その後、みんなで少し遅い夕食を取った。オレは【どんなもんだい! カラッと揚げたて! これがホンモノの味だ】というアジフライ定食を食べた。


 他の三人は【昨日の事はジメジメしない! 連絡もマメにしてたじゃない! ちょっとあるってパスされるのも】というキノコと豆のパスタを食べながら、それぞれ明日の予定について話をした。


「ぼくは特に買い足すようなものはないかな」


 リアナはミニマリストかな?


「ボクは、今日はクライヴの荷物持ちでクタクタだよ……午前中は休みたいけど、午後からみんなでランチなんてどうかな?親睦を深める目的も込めて」


 モーガンは協調性というか気が効くと言うか上手いんだよな、こう言うとこ。たまに腹黒になるけど。


「良いんじゃない! アタシも欲しい者は揃ったし、暇してるのよね」


 おいフィーネ! 暇じゃないだろ! お前はオレに金返せ!


「しかし、今日は所持金の半分も使ったからな……何か稼ぐ方法を見つけないとな」

 

 オレは呟いたつもりだったが、モーガンが反応した。


「そうだね。二年後の王立学院の入学には小金貨三枚必要だし、生活にもお金は必要だから、ボク達でも出来る依頼とかあるかな? 明日冒険者協会にみんなで行ってみようか?」


「フフ、腕鳴らしにいいな」


 リアナさんは喜んでいる。


「良いねぇ! これでランチ代を稼ぐぞぉ!」


 フィーネさん借金の事忘れてませんか?


「まぁ、危なくないんだったらオレも賛成するよ。討伐依頼とか痛いのは勘弁してくれ」


 オレの発言にリアナの目が光った!


「クライヴ! 男なのに何を情けない事を言っているのだ! 王都は治安が良いが、他の街やその街道等危険はいくらでもあるんだぞ! 自分の身を守る術を身につけないと、他の人を危険に晒す事にも繋がるんだぞ! その為まずは一つ一つ自分達の力量の範囲で己を高める事も必要じゃないか! 君はそういう事も考えての発言なのか!」


 あっ! リアナの地雷を踏んだっぽい……確かに帝国から逃げて王国に亡命し、王立学院の事を聞いてここにやってきた。

 リアナは自ら全てを捨てて、平民として生きていく覚悟も決めてここにやって来た。 

 そんなリアナの性格がオレのような考えを許せないんだろう……まだお互い若いんだし自然と打ち解けていくだろう。


「リアナ、クライヴはそんな奴じゃないよ! アタシを命懸けで守ってくれたもん!」

「ボクもフィーネから話を聞いたけど、あんまりクライヴは自分の事話したがらないから誤解されやすいんだ。さっきの発言もみんなの事を思っての発言だと思うよ」


 まずフィーネ、ありがとう庇ってくれて……でも誤解されやすいのはお前の方だ! 何モーガンに吹き込んでんだよ!

 そしてモーガン、本当にありがとう……でも、さっきの発言は本当に怖いからです。そんなのに巻き込まれたくないからです。


「そうとは知らずクライヴすまなかった。ぼくは少し冷静さを欠いていたようだ。これではまだまだ岸の道は遠いな」


 いや、だから、いちいち言動が男装ミュージカルなんだよ。


「それじゃクライヴの言っていた稼ぐ方法に向けて今日ははやく寝ようか? その前に明日の予定を変更しよう」

 

 モーガン、今日は荷物持ちで疲れてるのに、何で優しいんだ。女の子だったらこの中で一番人気だよ。


「午前中に王都内を散策し何か案がないか考えるのはどうかな? クライヴとフィーネは王都に慣れてないから二人で行動して、ボクとリアナはそれぞれ行動して、ランチの時に話し合うのはどうかな?」


 賛成です! モーガン先生!


 その時フィーネが恥ずかしそうしていた。 


「アタシお金を持っていなく」

「フィーネ! オレが出すから良いよ。だからその作戦で決定で」


 オレはフィーネの言葉を遮った。


「ぁ……りが……とぅ」


 フィーネは俯いてゴニョゴニョと呟いていた。


「えっ? なに?」

 

 フィーネ、声小さ過ぎて聞こえないんですが?


「痛ッ」


 フィーネ? 何で無言でオレの足を蹴ったの?


 それぞれ意見が一致して、明日朝食後に出かける事となった。



 まぁそんな事より、相変わらずのメニュー名だったな料理長………………

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