エピソード? フィーネサイド 後編その1

 買い物もすんで今から馬車に乗ろうとした時に、クライヴから準備物の確認をするようと一緒に二人の荷物を確認した。


 あんまりアタシの荷物は見られたく無いので、お金の入った巾着袋と水袋は腰のベルトに身につけて、衣服等の着替えは肩掛けの皮袋女性サイズに急いで詰め込んだ。

 クライヴはアタシより大きな皮袋に衣服るいだけでなく、簡易なテント、ロープ、皮袋等も入れていた。 何かこういう所って頼れる男の子だよね。

 

「おっ! またアンタ達か。この前はありがとよ」

 

 あっ、ここまで運んでくれた馭者さんだぁ。


「前回みたいに無料にはできないが、サービスで安くしとくぜ。王都まで銀貨一枚のところ小銀貨二枚にしとくよ」


 やったぁ! 馭者さんありがとう! これで少しは節約旅が少しは解消するかなぁ。


「「ありがとうございます」」


「王都まではしばらく距離があるから馬を休ませる為に、小さな町や村等を立ち寄りながら進むけどアンタ達はその日程で大丈夫か」


「「はい」」


 へぇー、どんな村や町に出会えるのだろう?

 アタシには見るもの全てが新鮮だから、ゆっくりと王都を目指すのもいいかもしれないわ。


 クライヴの聞いた話では、王都まではここから北に進み一週間半程度、四月の入学までは三週間の時間がある。そして王立学院の初等部は入学金さえ払えばすぐ入学出来るらしいわ。


 考えるだけで楽しくなってきたわ。


「ねぇクライヴ何かワクワクするね」

 

 アタシはじっとしておくのも勿体ないから、馬車の後ろに付いている木の部分に腰掛けて離れていく街を眺めていた。遠くから見るとこんなに大きな街だったのね。

 

「そうだな……フィーネは本当に良かったのか?」


 クライヴが何か考え込んでいるな顔をしていた。

 アタシを王都に誘った事を気にしているのね。


「えっ何が?」


 アタシはクライヴの目を見ながら何も知らないフリをした。

 するとクライヴは少し笑みを浮かべながら優しくアタシに話しかけた。


「王都に行って王立学院に入学する事。両親は心配していないのかな……とか思ってさ」


 そこかー! 痛いとこ突いてくるなぁ。 まあでもお母様からは許可お許しもらってるし。


「あ、大丈夫大丈夫。アタシの両親は放任主義だから、むしろ他のエルフ達の方が鬱陶しいわ」


「だからさ、これからの事が楽しみでワクワクしてんのよ。まだ見た事のない街、食べ物、服、アクセサリー等をね!」

 

 アタシはこれからのやってみたい事をクライヴに言った。

 少し、クライヴは納得したのか。


「ありがとう。少し気にしていたからさあ。フィーネを誘った事に」


 ヤレヤレ、本当にお人好しなんだから。ここに座って風でも浴びれば頭もスッキリするかしら? 


「クライヴもこっち来たら。風が気持ち良いよ」

 

 そしてクライヴがアタシの隣に腰掛けた。

 馬車に揺られながら、涼しい風と鳥達の囀りが聞こえ、隣にはクライヴがいるとなんだか安心する。 

 ……でも馬車ってやっぱり揺れるわね。

 特にこんな所木の板に座っているからかしら、お尻が痛くなってきたわ。でも痛がっている姿なんかクライヴに見られるのは恥ずかし過ぎるわ。

 アタシはクライヴとは反対方向の景色を見ていたがお尻の痛みが気になって集中できない。


 しばらく経ち、痛みから気を紛らわす事が出来てきた時にクライヴが声をかけてきた。


「馬車ってお尻が痛いよね。フィーネは大丈夫?」


 アンタ! せっかくアタシが苦労して痛みを忘れようとしていたのに! なんて事をしてくれるのよ! 


 クライヴはまたアタシに言ってきた。


「長時間馬車に座っているとお尻が痛いよね。フィーネは大丈夫?」


「ぅ、うるさいわね! こんなの平気よ!」


 何なのアンタは! バカなの? もう痛みばかり気になってきたじゃない! 

 

 アタシは目頭が熱くなってきたのを感じ、クライヴに悟られまいと少し俯いた。

 するとクライヴがアタシの顔を心配そうに覗いてきた。


 バカー! こんな姿見られたくないから俯いてたのよ! 察しなさいよ!


「アンタ! 何見てんのよ! この変態! キャウッ」


 突然馬車が揺れ驚いて変な声が出てしまった……


 そして、馭者から助けを求める声が乗客にかけられた。


「車輪が窪みに挟まってしまって、引っ張り出すのに何人か手伝ってくれないか?」


 アタシ達は戦力にならないので、馬車から降りて大人達の様子を眺めていた。


 クライヴがアタシを心配するように、

「予期せぬトラブルだけども、これで少しはお尻の痛みもマシになるな」


「アタシはお尻なんか痛くないし、アンタが痛いだけでしょ!」


 本当どうしようかしらお尻がジンジンして痛いし、あっ! そうだ、シルフにお願いしてみよう。

 お願いシルフ、少しだけ体を浮かせてくれないかしら。


 そして数分程度で馬車は元に戻り、アタシはいつものポジションに座っている、否、若干だが浮いていて木の板に触れないようにしてもらったわ。シルフごめんね。


「あのさあ、フィーネ……それは?」


 どうやらクライヴは気づいたようね。


「ん? シルフに頼んで他の人に気付かれない程度に浮遊の精霊魔法をかけたの」


 数分後にやっと集落のような所に着いた。ヤレヤレだわ。


 馭者から説明を受けて、夕方前に出発しまで自由行動となった。


 へぇーアタシ達の集落とは全然違うのね。畑仕事している人がいるわ。あっ小さい子ども達もいるのね。なんだがみんな楽しそう。

 あっ! そうだ忘れてた昼食にしないと!


「クライヴ、アタシお腹が空いたからご飯食べに行かない?」


「お、おう」


 アレ? クライヴが何かおかしい? もしかしてお腹が空き過ぎてそこら辺に落ちている物を食べたのかしら? 馬車から見た風景では腹痛に効く解毒草はこの辺り一体にはなさそうね。


「クライヴどうしたの? なんか道に落ちてる物でも食べた?」


「ううん大丈夫だよ。この集落を見渡していたフィーネの顔が可愛いかったらだけだから」


 えっ? アタシ! クライヴに可愛いって言ってもらえたの初めてだよ…………

 恥ずかしくなってきて顔が熱い。


「突然びっくりさせないでよ。そんな事言われたら恥ずかしいじゃない。クライヴのバ〜カ」

 

 いつも通り言えたはずよ。でも嬉しかったから、どうしても顔が緩みそうになっちゃう。

 

 アタシはドキドキしながら、クライヴと一緒に昼食にしようとお店に入った。


 こんな味付けあるんだ! 凄い! あっこれも美味しいわ! 

 お会計は二人で小銀貨一枚で、クライヴが支払ってくれた。

 そんな所カッコつけなくていいのに。


 「クライヴありがとうね」


  最近クライヴにありがとうと素直に言える事ができるようになってきた。まだ恥ずかしいけど……

 て言うかなんでアンタまでモジモジしてんのよ?

 よくわかんないわよ、アンタの恥ずかしがるポイントが?


 その後、また馬車の旅となり夕方ごろには町で一泊することとなったんだけど、どうしようあんまりお金持ってないし、でも大部屋とかに泊まるのも怖いし……

 少しクライヴと街を散歩にしてから一緒に宿に行き、クライヴはチェックインの手続きをしようとしていたのでアタシは小声で提案というかお願いをした。


「クライヴ大部屋にするの? 個室にするの?」


「大金を持っているから、少し宿泊費がかかるけど個室かな」

 

 クライヴ個室に泊まるんだ! それだったらアタシも一緒に泊まらせてもらったら安心だし、費用も抑えれるわ!


「だったら一緒に二人部屋に泊まらない!」


「えっ? フィーネはいいの?」


 あー! 今アタシさらっととんでもない発言をしてしまったわ……


「ちょ、ちょっと、アンタ勘違いしないでね! アタシはハーフエルフだから万が一身の危険を感じて、しょうがなくクライヴとの二人部屋に譲歩したの!」


 もう恥ずかしい、とにかくクライヴが悪いの!

 変に意識させるから!

 

「フィーネ……宿代は折半ね。後オレの着替えを覗かないでね」


「ハァー! 誰がアンタの汚らわしい身体なんか覗くのよ! バカじゃないの!」


 突然何言うのよ、アンタの着替えなんか……もう! 変な想像させないでよ!


 夕食のメニューは堅パン、獣肉の炭火焼き、野菜スープで、アタシには珍しい食べ物で美味しかったけど、クライヴはそこまでって表情ね。

 

 アタシ達はご飯を食べた後、部屋に戻ろうとした。アタシ身体臭わないかなぁ?

 宿のお姉さんに適温の水が入ったら桶を借りて、部屋で身体を拭くことにした。

 勿論クライヴには出て行ってもらったわ。

 そう言えば森から出てから水浴びしてなかったから、丁寧に身体を拭く事にした。

 

 よし! これで汚れはおちたかな? 身体を拭き終わろうとしたその時!

 外からノックをする音が聞こえた。


 えっ? クライヴ帰ってくるの早すぎでしょ!


 ちょっと待ってよ! 身体を拭き終えて急いで着替えの服を探していたら、またノックをしてきた。


 何様のつもりよ! 女の子には時間があるかかるんだからね! 察しなさいよ!


 シルフに手伝ってもらい身体や髪を乾かしてもらう。

 

その間もトントン、トントントン……ノックの一定のリズムが響いた。


 よし! 後は着替えて完成よ! クライヴめ何回もノックしてー! ちょっとアタシも悪戯してやる!


「うるさいわよ! 何回も返事してるでしょ!」


 アタシは力強くドアを開くと、クライヴの頭が後ろにそり返りながら吹っ飛び頭を壁に打ち付けていた。


「えっ! クライヴ、大丈夫? ねぇクライヴ!」


 クライヴは気絶をしていて返事が無かった。 


「アタシそんなつもりじゃなかったのに……ごめんなさい」    


 毅然したクライヴに謝り、シルフに助けてもらいクライヴをべッドに運んだ……

 

 しばらくするとクライヴが目を覚ました。

 あ、良かったわ目を覚ましてくれて……クライヴにちゃんと謝らないと! 

 謝ろうとクライヴの方を向くと、髪が濡れているクライヴがいつもの二割り増しカッコよくみえて、恥ずかしくなってきた。


「アタシが精霊魔法で音の遮断状態にしてたのを忘れてただけじゃない! 何でそんな所に立っていたのよ!」


 ………………もうアタシのバカ! こんなの謝ってないじゃない! あぁこんなアタシで、この先一週間やっていけるのだろうか…………クライヴに嫌われてしまうわよね…………

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