エピソード27 冒険者協会と買い物
「着いたぞ」
周りの景色を物珍しそうに眺めているフィーネに声をかけた。
「えっ、もう着いたの? 美味しそうな匂いがしたした定食屋が有ったし、他にも服屋、宝石店も見えたわよ」
ん〜、フィーネさん……貴方は何しに来たの?
屋台で飯食って、服屋に行くぐらいの時間はあるか? 結構ギリだぞ!
「早く冒険者協会からお礼をいただいてからだろ」
フィーネは拗ねたように頬を膨らます。
「そうだけど、里から出た事なかったんだから、色々と社会勉強をしたいの!」
「わかった、わかった、終わったら屋台でご飯食べて服屋に行こう。オレも着替えの服欲しいし」
フィーネの為にオレも用事があるだよって感じで優しくフィーネの意思を尊重した。
しかしフィーネは何故か勝ち誇ったような顔をした。
「アンタも気になってんじゃない。素直じゃない男は嫌われるわよ」
うん、お前の意思など知らん! オレは馬車の方に歩き出そうとした。
「ちょっと、冗談よ。こんな所で置いて行かれても、困るんだけど!」
謝っているかどうなのかわからない強気の口調で言われた。
そんな会話をしながら、真っ黒に塗られた崩れそうな石壁で作られた年季の入った冒険者協会の扉を開いた。扉もギギギと音がなり立て付けの悪さが歴史を物語っていた。
「外からじゃわからなかったけど意外と綺麗だな」
「ふ〜ん、まぁそんな事よりお礼をたんまり貰って買い物よ」
フィーネは既に次の目的に頭がいっぱいだった。
ランパード様から建物内の作りはどの都市も似ていると聞いていたが、この設計技術は凄いなぁ。
冒険者協会の中は改修したのか年季も感じなく、各区画に分かれてスペースを余す事なく活用できる作りになっている。まず入って左側の壁に依頼書の張り紙がびっしりと貼られている。
そしてその奥には机や椅子やソファが並ぶ打ち合わせやリラックス出来るスペースと、お酒を提供するバーが併設されていた。右側は冒険者に必要な道具の販売所があり、その隣に素材を納品する所がある。
正面は素材採取の依頼と討伐依頼の受付が二つあり、それぞれの受付に二名の職員が対応していた。
受付奥の階段はここの支部長の部屋だろう。
オレ達は受付にいるお姉さんに盗賊のお礼を貰いに来た事を話した。
周りの冒険者達の反応が変わった。
「アイツら子どものお使いと勘違いしてるぜ。ガキどもはお母さんのオッパイを飲んで寝てな」
「ギャッハッハッハ違いねぇ」
こんな子ども達に絡む冒険者は大した事無いんだろうなぁ。
すると受付のお姉さんからも、
「ボク、そんな嘘ついたらダメよ。お姉さん達も忙しいし、あの人達を怒らせると危ないわよ。早くお家に帰らないとお母さんが心配するわよ」
全く話が通じない。う〜ん、どうしよう……
後ろの女の子の威圧感が凄い! 今振り向いて落ち着かせようと言葉をかけても、通訳がいない時の助っ人外国人並に話が通じないだろう。
威圧感が背中にヒシヒシと伝わってきたので、もう騒動を起こすのは時間の問題だろう……
オレは大事に胸元に仕舞い込んでいた一枚の手紙を受付のお姉さんに手渡した。
「えっ! 失礼しました! すぐ用意いたします」
お姉さんは青ざめた表情で他の職員に指示を出していた。
そしてその手紙の紋章を見た騒いでいたギャラリー達も、オレ達から背を向けるようにして全く絡まなくなった。
その光景に威圧感を抑えたフィーネがオレに聞いてきた。
「アンタ一体何をしたのよ!」
「ランパード家の紋章の印がある手紙を渡しただけだよ。賞金首の支払いについて記載している手紙をね」
「最初からそうしなさいよ! バカ!」
くそ! いつも言われっぱなしだから反撃してやる。
「フィーネよ! お前はいつになるとツンツンが消えるのだ! 人間関係で揉めないか心配になってきたよお兄さんは」
「ハァー、アタシの慈愛に満ち溢れた心をわかってないのはアンタでしょ! それに、いつからアタシのお兄さんになろうとしているの? 頭大丈夫? 変な物でも拾って食べたんじゃない!」
一の言葉を言うと十返ってくる。何だろうこの気持ちは。 同じ年頃の子、いやむしろ精神年齢はオレの方が上だけど……ボコボコに言われてハートが痛いです。恋じゃなくて、ストレスです。
十分程度待たされて、換金出来たようだ。
「先程は失礼いたしました。最近街道で商人を襲っていた盗賊団二名を生きたまま捕まえた事で少しボーナスがついて小金貨三枚と銀貨四枚になります」
「えっ! マジで!」
「えっ! 本当に?」
「「やったー!」」
「フィーネこれで王都に行けるな」
「服や宝石が買えるわ」
………………………………
オレは流石に少しお怒りモードで伝えたよ。
フィーネのこれからの事を心配してしている事。
王立学院分のお金を使わない範囲内で買い物する事。
「わかったわよ、クライヴごめん」
意外とフィーネはいつものように怒る事なく聞き分けが良く話を聞いてくれた。
いつもこんな感じなら可愛いのに。内面で損しているパターンだな。
その後、屋台で謎肉入りの野菜スープを食べた後に、威嚇ウサギのフライをテイクアウトして、食べながら歩いて次の目的地である服屋に向かった。
「オレもこの服一枚だし、何枚か替えがいるかな?」
「そうよそうよ! やっぱり毎日同じだと女の子にモテないわよ!」
別にモテたくない訳ではないが、オレまだ十歳だぞ、この歳の恋愛なんて手を繋ぐ程度だろ?
服屋に着くとフィーネはショーケースの衣装に釘付けだった。
「へぇ〜アレ可愛い」
マネキンのような石の彫刻には頭に大きなリボンが結ばれており、肩がチラリと見えるフリル付きの黒シャツ、フリフリの黒のスカート、小さなリボン付き白色のサイハイソックスの衣装を身につけていた。
ロリータ系かい!
「へぇー意外、フィーネはそういった服装が好みなんだ」
「ち、違うわよ! ア、アタシは初めて人間の街に来たから、何見ても新鮮なのよ!」
成る程、フィーネは楽しくて仕方ないんだな可愛い奴め。
「じゃあ中に入って、服を買いに行きますか〜」
「ちょっと! 絶対こっちに来ないでよ!」
「はいはい! 買い物終わったらこの会計の所で待ち合わせにしようか?」
「わかったわ」
「馬車の時間もあるから、なるべく早めにね」
「わかってるわよ!」
そして、それぞれ男性と女性の売り場に消えていった。
オレの服装は動き易さと耐久性を考えて作業着のような服を着ている。確かに王都に行くには、少し場違いになるかな。
そんな事を考えていると、四十代ぐらいの紳士な店員さんがやってきた。
「これはこれは小さなお客様だね。どのような服を探しているのかな?」
「これから王都に向かうのですが、平民なのでコレ一着しかなくて、なるべく安くて王都に行っても恥ずかしくない服がないか探しています」
紳士な店員はオレの服を親身になって考えてくれた。
「そうですが、あまり煌びやかな衣装は貴族様に目をつけられますよ。貴方にも似合う普段着とオシャレ着を何着か持ってきましょうか?」
これはありがたい。正直言ってこの世界のファッションセンスが分からないので、助かります紳士さん。
「普段着は二着あれば良いと思うので、白色のチュニックに赤色のズボン。緑色のチュニックに茶色のズボン。この二種類はいかがですか? 靴はその靴はもうボロボロだから、茶色の革靴を新しく購入したらどうかな?」
「はい! お願いします」
紳士さんすごく親切だ。つい即答してしまった。
「次はオシャレな服ですね。一緒に来た可愛い彼女にも気に入ってもらえるような服にしましょう」
「アレ彼女じゃないです」
無表情でのオレの即答に、紳士さんのまゆがピクリと動いた。少し動揺したようだ。
「しかし、これから王都で必要になるかもしれませんので、こちらの……」
「あっボクこれがいいです」
オレは襟付きで胸元に少しだけフリルがある白の長袖シャツと腰より上の高さで巻く黒色のベルトと黒色の七分丈ズボンに決めた。
「かしこまりました」
紳士さんはそう言って会計のカウンターに進み計算を始めた。
「お客様、お会計はこちらになります」
「ほっ!」
オレは目を擦りもう一度じっくりとお支払いの金額をみた………………小金貨一枚と銀貨二枚……
「フッ、流石紳士服を売る紳士さんだ中々やり手だね」
「お褒めいただきありがとうございます。それが私の仕事ですので。勉強料も兼ねて銀貨一枚分のサービスはしております」
成る程、親身に選び客の心を掴み、待たす事なくスマートにオレがチラチラ見ていた服を瞬時に持ってくる。
そしてお会計までの流れの速さからのお支払い時にダメ押しでこの言葉………
まさか紳士服売り場で紳士の中の紳士に出会えるとは………………オレの完敗だぜ。
そしてしばらく待つとフィーネが笑顔でやってきた。早速買った服に着替えており、白色のチュニックの上にノースリーブの赤紫色のロングワンピースに革靴を履いた姿が新鮮だった。
「アタシ似合うかな?」
なんかちょっとフィーネが照れているぞ。
「さっきのショーウィンドウに飾ってあったのより似合っているよ」
オレは最高の褒め言葉を言ったつもりだ。
そして彼女の顔は真っ赤になり俯いていた。
(可愛い奴め、褒められ慣れしてないな)
「ふざけんじゃないわよ! 何でアンタなんかに言われないといけないのよ!」
えっ! ちょっとフィーネさん? 貴方が聞いたから答えましたよ。
女性伝員が困り顔でフィーネに、
「お会計は小金貨1枚、丁度いただきます」
そして店員さんはショーウィンドウに飾られていた衣装を袋に包みフィーネに渡してした。
そんなんわかるか! ハーフエルフに少々のロリータファッションって一部の層を狙いすぎだろ!
外に出てもフィーネさんの機嫌が治らない。眉間にシワを寄せてムスッとしたままだ。
オレは馬車に辿り着くまでずっとフィーネに謝り続けていた。
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