エピソード26 旅は道連れハーフエルフ
「…………丈夫か」
「……息を……から……夫」
「お兄ちゃん大……」
「ちょっと! ……ンタ! いつま……てるのよ。目……しなさい……バカ」
ぼんやりと視界が開けてくる。
アレ? あっ倒れたんだオレ。何かすんごいエルフの女の子に顔を覗かれてるんですが……
とりあえず起きよう。
「心配かけたね。もう大丈夫だから、よっと」
あっ忘れてたオレ全身筋肉痛マックスだった。
起きあがろうとしたら片膝立ちの状態で前のめりに倒れそうになった。
「えっ! ちょっとぉ!」
エルフの女の子が慌てて身体を支えようとしたが間に合わず、オレは女の子に座りをしているエルフの女の子の両膝の間に顔から倒れ込んだ。
「いっ痛ぁぁい! 何してんのよ! 変態!」
どうやらオレはエルフの女の子の怪我した右の太ももにクリティカルヒットを決めたらしく、涙目で、思いっきり頬っぺたをビンタされた。しかも往復ビンタ……わざとじゃないのに…………
何かこう雰囲気が重たい。誰のせいとは言わないけど……俺のせい?
そういやエルフの女の子の名前を知らないや。
「えっと、さっきは申し遅れたんだけど、オレの名前はクライヴ。シェリダン領の平民で、これから王都にある王立学院の入学に向かっているんだ。君の名前は?」
「アンタ……忘れたの?」
「えっ? 以前会った事ないと思うけど?」
「ハァ? 当たり前でしょ初対面なんだから!」
えっ何でこの子こんなに不機嫌なんだ。
どうしよう話が噛み合わないぞ……
「アンタが倒れる前に名乗ったんだけど、アンタは即アタシの名前を間違ってたわ! いい! よく聞きなさい! アタシの名前はフィーネ! フィーナじゃなくてフィーネ! わかった」
「フィーネだね。よろしく」
オレは命の恩人に感謝の意味を込めて笑顔で握手をしようとした。
フィーネは少し照れたようにして握手をしてくれた。
「まぁよろしくねクライヴ。ところでアンタこんなに言われて笑顔でいれるなんてマゾなの?」
いやー本当に口の悪い子だ、オレは精神年齢が大人だから許すが、コミュニケーションに難ありだぞ。
「そう言えばクライヴはこの世界の種族がどうとかなんか言ってたわね、エルフに対してどう思うの?」
「えっどう思うとは?」
「さっきの盗賊達の話じゃないけど種族間で色々あるのよ。特に人間はアタシ達を攫ったりするし、イヤらしい目で見てくる人間もいるし」
「へぇ〜そうなんだ」
「そうなんだって? アンタってエルフの歴史とか知らないの!」
「書物で学んだけど、改めてファンタジーだなぁって思うよ」
「ハァー何それ」
「本でしか知らなかった色々な種族に会えて嬉しいと思う気持ちがあるなあ。それと宗教や倫理観とか色々あると思うけどみんなが仲良くできたら平和なのにね。オレ闘ったり、戦争するとか嫌いだからさあ、だから平和になってほしいと思うんだ」
「ふーん変なの」
「ところでフィーネはエルフのなの? さっき盗賊と闘った時には耳は尖ってなかったけど」
「アタシはハーフエルフなの。耳も尖ってないし、どちらかというと人間寄りね。寿命も成長も人間と同じ。ただ精霊に力を借りて精霊魔法を扱えるから、それでエルフだとバレるのよ。気をつけてたつもりなんだけどアイツらしつこく付き纏ってくるからイラっとして使っちゃったの。そしたら目の色変えて襲って来たの」
「へぇー色々エルフ事情があるんだね。フィーネは人間の陵域に来るぐらいだから何か事情があるんだね」
「いや、特に行くあても無いよ」
「ん……」
「だから、これからどーしよかなって思ってさ」
まさかのノープラン? イラっとして精霊に頼ったら人間に狙われるのに?
これはどーしようオレのお節介レーダーが反応した。
「学院に通って人間の事を学んだらどうかな?」
「そうそれ、さっきから気になってたのよ! アタシでも入学できるの?」
「入学金さえ払えば大丈夫なはず……」
「ふーん、そうなんだ。クライヴいい考えね。ちなみに入学金はいくらなの? 銀貨何枚程度?」
「実は小金貨二枚…………」
「ふざけてんじゃ無いわよ! アタシ銀貨六枚しか持ってないわよ!」
「でも入学金さえ払えば授業料や学生寮や朝夕の食事が無量だよ」
「どうやって今からそんな大金稼ぐのよ」
期待させたせいか、フィーネは項垂れている。
すると話を聞いていた馭者さんが、
「この盗賊二人を憲兵に引き渡して賞金首なら賞金がもらえるかも知れないよ」
ナイスです馭者さん、さっきの闘いでは助けを求めてもフル無視されたけど。
そして、馬車はランパード領に着いた。
いったんランパード様に報告に行こうとおもったが、このままフィーネを放っておくのも気が引ける。
「フィーネ、もし良ければ一緒に来て欲しい所があるんだが?」
オレの真剣な表情で何故かフィーネは顔を赤くした。
「ちょ、ちょっといきなり何なの? そんなにアタシと居たいの? まぁ別にぃぃ……けど……」
「ここの領主のランパード様に挨拶に行こうと思って」
「やっぱり馬鹿なの! 平民が領主に会う? 殺されるわよ? そんな事アタシでもわかるわよ!」
なんだろうフィーネのこの怒りのエネルギーはどこから湧いてくるのか? これが噂で聞くツンデレか? オレにはツン九十パーセントで残りは自己中十パーセントのような気がするが…………
「何その顔? アタシに何か文句あるの!」
もうオレは何を言ってもダメなので逆らわない事にして、フィーネと一緒に街の教会からランパード家に連絡してもらいランパード家の紋章の入った馬車が迎えに来てくれた。
「えっ! アンタが言ってた事本当だったの?」
豪華な馬車がやって来たので、フィーネはとても驚いていた。
「だから、言っただろ。ランパード様に挨拶に行くって」
「クライヴの事疑ってごめんなさい」
アレ? 突然フィーネが、しおらしくなった。
ちゃんと自分に非がある事を分かっているんだなぁ。本当は優しい子なんだろうなぁ。
そう思いながら馬車に乗りランパード家に向かった……
馬車から降りると使用人やメイドさん達がずらりと通路の脇に並んでいた。
オレの隣のフィーネは嘘のように大人しくなって後ろをついてくる。
そして、エントランスにはランパード夫妻とルーシーがで迎えてくれた。
「クライヴ君久しぶりだね。背も少し大きくなったね」
ランパード様が笑顔が眩しい。
「クライヴ君。よく頑張ったわね」
物凄い勢いでローズ様ロケットが飛んできてガッチリとホールドされた。
凄いや全く外せない……
「おいおいローズ。嬉しいのはわかるがクライヴ君が苦しんでいるよ」
ランパード様のその一言でローズ様は冷静さを取り戻した。
「ごめんなさい。全然頼ってくれなかったから心配だったの」
ローズ様はオレの身を案じていてくれた事がとても嬉しかった。
「お気遣いありがとうございます。無事に入学できそうです」
「そうか、ところでクライヴ君? 後ろにいるお嬢さんは?」
ランパード様の問いかけにフィーネはモジモジしていた。
フフッこいつランパード様のイケメンにやられたな。しょうがないオレが紹介してやるか。
「こちらに向かう途中に盗賊に出会いまして、その時一緒に闘ったフィーネさんです」
「あの、その、フィーネって言います。クライヴ……クライヴ君と一緒に王立学院の入学を目指しています」
その時、エントランスホールの奥から何かが駆け出してきた!
「クライヴ〜久しぶり! クライヴも王立学院に入学するんだよね? じゃあ中等部になったら私と会えるね。楽しみだね」
ルーシーはそう言いながらオレに抱きつき、その後はオレの髪をわしゃわしゃしていた。
おい! オレは犬か?
フィーネにやれやれ大変だろうとジェスチャーをしようと振り向くと、多分オレに軽蔑の意味が込められているだろう! ジト目なフィーネがいた。
「フィーネよ、よく聞きたまえ、これはねルーシーの愛情表現なんだよ」
「愛情!?」
あっ言葉間違えた。どうしょう……
「愛情表現と言うか、クライヴとは女の子の服着たり、ママゴトとかお犬さんごっことかする弟のような感じだよ」
あー! ルーシーよ、ワードがまずい! 勘違いされる!
「えっアンタ、女装が趣味で犬になるの……」
はい引いてますよー! ここのハーフエルフが!
多分オレが女装をしてルーシーに首輪をつけられて四つ這いで散歩していると思ってる顔だね。
普通に考えよう、エルフ族にも存在しないでしょ? そんな遊び? 女装はわかるよ。身体と心の性別に違和感を持つトランスジェンダーの人とかいるし、でも流石に前世でも女装で
何とかフィーネに誤解を解いて、ランパード様に気になっていた事を聞いた。
「そう言えばテリー様とジェイミー様の姿が見えませんが」
「テリーは高等部一年生だから、王都から戻る事が少なくなったんだよ。ジェイミーはルーシーと一緒で中等部からの入学だから、今は家庭教師の時間かな?」
そっかテリー様は高等部なのか……
「そう言えばクライヴ君達が捕まえた盗賊なんだけど、どうやら賞金首らしくて、冒険者協会からお礼がもらえるよ。出発前に行ってみるといいよ。」
確か南地区にあったはずだ。
「ありがとうございます。早速行ってきます。王都行きの馬車もそろそろ出発するので失礼します」
「いつでも歓迎するからね」
ランパード夫妻に見送られ、ランパード家の馬車で冒険者協会に向かった………………
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