エピソード25 エルフと盗賊

 とにかく女の子の様子が気になる。


 しかし盗賊はブチ切れてオレを逃してはくれない。

 斧を持って飛びかかってくる盗賊に対してオレは転がるように避けた。

 無理無理無理無理! いい大人が目が血走り過ぎだろ! 


「クソがぁ! ちょこまかとこざかしい」


 ヨシ! 怒りに身を任せてオレの思い通りに動いてくれる。

 オレはサーベルを右手に持ち刺突で牽制し間合いに入らせないようにした。

 そして、少しずつ牽制しながら盗賊と入れ替わるように女の子側に気付かれないように近づいて………………………………

 アレ? おかしいな? 凄く順調だなぁ?

 もしかしてオレって天才策士ですか?

 


その時女の子の叫ぶ声が聞こえた。


「危ない! 後ろ!」

 

「えっ?」


 女の子と闘っていた盗賊がこっちに向かって斧を振りかぶっていた。


「ちょ! え〜 助けてぇ!!」


 オレは猛烈に情けない声をあげながら無我夢中でサーベルを振り回した。


 たまたま刃がぶつかり斧を反らす事ができた。

 しかしすぐ後ろにはオレを狙っていた盗賊が間合いに入ってきて斧を斜めに振り下ろしてきた。


「危ない! シルフお願い!」

女の子の声とともに盗賊の足に草が絡まって転倒した。

 本当に危なかった……もう少しで背中がバッサリ切られていた。


 とりあえず盗賊一人を足止め出来て、二対一の状況に持ち込んだ。

 オレは不意打ちをした盗賊に向けてサーベルで牽制し、その隙に女の子が弓矢を放ち盗賊の肩を掠めた。

 盗賊は前後から挟まれている状況を打開するためにオレと女の子から離れた。その隙でオレは女の子の側にたどり着いた。


 オレは全然怖くて大丈夫じゃないが女の子に

「大丈夫?」

 と声をかけながら女の子の方へ振り向いた。


 女の子は、緑色の長袖のチュニックの上には緑のマント、白のキュロット、緑のハイソックス、ブラウンのロングブーツのいかにもエルフという服装だった。

 そして、プラチナのストレートロングヘアーで耳は隠れているが前髪は眉ラインに切り揃えたぱっつん前髪スタイル。金色の目をした整った顔立ちに、身長はオレより少し低くて、胸のサイズも物足りなさが残る。でも足が長いモデル並のスレンダーな体型の美少女がそこにはいた。


 この世界の顔面偏差値の高さに毎度驚くが……

 だがオレはロリコンではない!

 緑のハイソックスとキャロットの間の太もものチラリズムに興奮などしない。

 むしろエルフに出会えてた事に興奮した。

 性的ではなく、ファンタジィーって感動したって事ね。

 

 闘いの最中にそんな事を考えていると、女の子に怒られた。


「アンタ前を見なさいよ、何ボォーとしてるのよ」


 前を向くと既に盗賊二人は体勢を整えており、こちらの弓を警戒しながら向かってきた。


「さっきの魔法でやつけれないかな?」

「もう無理よ。アンタを守ったので魔力が残ってないから精霊を呼べないわ」

「じゃあ弓は?」

「もう耐えられそうにないわ、後一本放つのが限界ね」

 こっちは膝がガクガクしているオレと息が上がって膝に手をついている女の子、あっちは元気な盗賊二人。

 これって詰んでる? 

 こういう時は馬車の人達が駆けつけてみんなで協力して退治するのが王道ではないか?


「誰か! 力を貸して下さい! オレ達を助けて下さい」


…………………………………………………………………………馬車を見るが動く気配もなく無音だった。

 確かに如何にも闘えますよってアピールしたオレが悪いですよ! しかしこんな小さな子ども二人を見捨てるんですか?



 そんな願いも通じず、盗賊達は隠し持っていたナイフを投げてきた。

 意表を突かれたオレは体を捻って避けようとして運良くサーベルの鞘に防がれた。


「キャッ」


 斜め後ろからは女の子の小さな悲鳴が聞こえた。

 振り向くと女の子の右の太ももにナイフが刺さっていた。

 しまった! さっきまで女の子は膝に手をついて息を整えていたから反応が遅れたんだ。くそ〜!

 そんな事にも気付かないなんて……

 更に状況は不利となり、女の子の弓の援護は期待できなくなった。


「クソガキは殺して、エルフは売る前に俺たちの怖さを教えてやらないとな」

「へへへ、そうだな。でもそれじゃエルフが高く売れなくなってしまうぜ」


 こいつら勝手なことばかり言ってやがる。

 余裕を見せて、こちらの出方を窺っている。


 まだ盗賊達までの距離は三十メートル近くある。


 オレ達は盗賊に聞こえない程度の声で話をした。


「クッ! アンタだけでも逃げなさい! アタシが引きつけるから、馭者に馬車を走らすように言いなさい!」

 女の子は強い口調だが唇は震えていた。


「そんなことできない! オレも闘うから諦めんなよ!」


「膝が震えてるアンタに何が出来るのよ! 足手纏いなだけよ!」


 くそ〜このツンツンエルフっ子め。

 本当は自分も怖いくせに……


「もっと自分を大事にしろよ!」

 

「フン! その言葉そっくりあなたに返すわ!」


 このままだと埒があかない。

 オレは真剣な顔で女の子に小声でいった。


「盗賊の一人を何秒足止めできる?」


「この足だと踏ん張れないし、デタラメに打って一発で、弓がダメになると思う。魔力が残ってないし、精霊魔法も大技は手の内がバレているから、小さい竜巻を起こして砂埃を上げるぐらいしかできないわ」


「えっ無理してない? そんなに動けるか?」


「そんなこと知らないわよ! こっちも命懸けよ! ダメだったら意識を失ってアイツらに捕らえられるだけよ!」


 女の子は肩が小さく震えている。

 痛みと恐怖で潰されそうな心を何とか奮い立たせているんだろう。


 オレも腹を括ろう。怖い! 怖いよ! 死ぬかもしれないし! コンティニューなんか無いし! 

それでも……女の子にしてみれば、お節介かも知れない。

 それに自分から自殺しに行くようなもんだけど、オレは人として間違った事はしたくない!


 笑顔で女の子に作戦を伝えた。

「相手が三メートル以内に来た時に竜巻を起こして、そしてすぐに矢を放って、当たらなくていいから」


「えっ! アンタ何言ってんの?」


「説明している時間はないから」


 そしてオレは呼吸を整えて相手に一歩だけ近づき、ニヤリと笑ってやった。


 その態度が気に食わないのか盗賊達は間合いに を気にしながらこちらにゆっくりと向かってきた。


 残り二十メートル……

   十五メートル…………

    十メートル………………

    八メートル……………………

    五メートル…………………………

 まだこちらの間合いには入ってない。

 盗賊達と目が合った。オレにターゲットを決めたようだ。二人は斧を持つ手に力を入れて、こちらに走り出した。


「このガキが! 死に晒せ!」


そして、残り三メートル以内に入って来た。


「頼む今だ!」


オレが指示を出すと女の子の声が後方から聞こえた。


「シルフよ竜巻を巻き上げて!」


 盗賊達に砂が舞う程度の強風が一瞬駆け抜けた。

 そしてすぐに後方から矢が飛んできた。盗賊達に当たらないが、オレが右手を横に伸ばした位置に飛んできた。


「後は任せろ」


「【クロノス】」


 この数年の水配達での体力強化やヒューゴとの訓練のおかげで効果が一・五秒間に伸びた。

 更に身体強化をかけて、オレの右側を飛んでいる矢を掴み盗賊の右手を狙って投げた。

 身体強化をかけた事で矢が物凄いスピードで飛んでいき、盗賊の斧の柄の部分と右手を貫いた。

 そして次の盗賊に向かっていき、サーベルを右下から右上に斬り上げて振り下ろそうとしていた盗賊の斧を遠くに吹き飛ばして足払いをして尻もちをついた体勢にした。

 そして【クロノス】と身体強化の効果が丁度タイムアップとなった。

 

「グワァー! オレの右手が」

「ケツが痛え! 何で右手が痺れてやがるんだ、あれ斧がねぇぞ」

 

 盗賊達は一瞬の強風の間に何が起こったか分かっていない様子だった。

 そしてオレは何とか気力だけで立っている状態を悟られないようにして、尻もちをついている盗賊の首元にサーベルの先を軽く押し付けていた。

 

 盗賊の首から胸の方へ僅かな血がつたっている。


 オレは相手を怖がらせるように感情のない声で警告した。


「いい加減にしないとこのまま刺すよ。それかもう一度同じ事しようか」

 

 もちろんハッタリである。

 内心は神頼みでハッタリが効きますようにと心の中でいのっている。


「くそ、引き上げろ! 馬車の中にも動ける奴がいるはずだ! このまま捕まるのは馬鹿らしいぜ!」

 

 負傷した三人の盗賊は仲間を見捨てた逃げていった。オレは倒れる寸前の中盗賊達が逃げていくまで見届けていた。


 盗賊達が見えなくなると馭者さんが馬車に乗っている人と協力して気絶している盗賊二人を縄で縛っていた。

 

 そして、今だに馬車から少し離れた場所で立ちっぱなし状態のオレに右足をひきずりながら歩いて来て女の子が声をかけて来た。


「ありがとう助かったわ! アンタやるわねぇ。そうだアタシの名前はフィーネ。あなたの名前は? えっ? ちょっと?」


………………オレは身体の限界と女の子を守れた事に安堵して、緊張が途切れて女の子へ倒れ込んだ。

 意識を失うことは寸前にオレの頭を肩で受け止めてくれた。  


「ごめんフィーナ、足……大丈……夫」


 そしてオレは意識を失った………………


「アタシの名前はフィーネ! フィーナじゃない!」


 ミントのような香りと、そんな怒声だけ耳に残った…………………………

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