鍵師の男性が、出口のわからない館のような場所に囚われ、尋常の人間ではない何者かに追われたり殺されそうになったりするお話。
ホラーです。あるいはダークファンタジーと読む方が素直かも。まさに悪夢としか言いようのない世界を描いた物語で、シチュエーションや絵面はゴシックホラー的な恐怖に彩られている、のですけれど。反面(あるいは「同時に」というべきか)、主人公の主観に沿って読む限り、「目の前のそれがなんであれ、とにかく生き延びるために行動する」という感覚が強く主張してくる作品でした。
ホラーとしての巨大な〝状況〟、物語の根幹に居座る「どうしようもない何か」に、ただ呑まれるのではなく。その困難を切り拓いていくような〝行動の強さ〟のようなものが見える、そこが大変に好き。主人公であるラザロさんの人格、過去の出来事やその累積としての彼自身にそのまま繋がるのがわかって、とどのつまりは「彼の生きるべき理由」が物語として存在している、その魅力。
状況そのものの正体不明さ、まさになんだかわからないからこそ恐ろしく手の打ちようがないことに対して、主人公の持っている〝意味〟の強さ。暗闇の中でも寄りかかれる、何か確かな足場のような感覚。なにより、なればこそのあの幕引き、物語からの脱出の仕方が非常に印象的な物語でした。