第23話 【回顧】上司と部下

完結後ですが・・・

少し時間を戻して




別の病院へ異動になった時の話。

2週間限定で、上司と部下という関係になる。


ーーー


「河合さん!」

「はい、主任」

「この患者さん、処置の指示が変更になってるけど、確認した?」

「いえ、まだです。すみません」

「1人で出来そう?」

「えっと、マルク?」

「どうなの?」

「やったことありません」

「はぁ、じゃ私が一緒につくから10分後に処置室に来て! 準備できたら先生呼ぶから。指示の変更は早めに確認すること、あと患者さんに対しては敬語で話すこと」

「はい。すみません」

 他にもやることがあるらしく、バタバタと行ってしまった出石主任。


「大丈夫?河合さん、異動そうそう主任に目付けられちゃったね。あの人も主任になったばかりで張り切ってるのは分かるけど、厳しいよ〜この前なんか、申し送りの時に新人の子に質問攻めして泣かせちゃったんだもん」

 そんな余計な情報をもたらしてくれたのは、先輩看護師の木村さんだ。


「そうなんですか?私はオペ室勤務だったので分からないことが多いから、しっかり指導してくれてるのかなと」

「いや、あれは後輩いじめでストレス解消するタイプだね、でも河合さんはいいよね、2週間で新病棟へ行っちゃうんだもんね、私はこれから対処法考えないと。あ、ごめん処置室行って! 時間遅れるとまた怒られちゃう」

「あ、はい」



「おかえりなさい、真由美さん」

「ただいま〜疲れたよ〜」

 出迎えたら、玄関先で抱きつかれた。

「おつかれさまでした、主任!」

「うぅ、家でそれは嫌だ」

 厳しいと言われていた主任は、家では程よく甘えてくれる、私の歳上の彼女だ。一緒に暮らしている。


「ご飯作ったよ、大したものじゃないけど」

「ありがと、美樹が作ってくれたのなら何でも美味しいよ。あ、かぼちゃプリン買ってきた」

「やった! 冷やしておくね」

 あれ、何かの記念日だったかな?と考えてみたけど分からなかった。


 手を洗って、食卓について、いつも通り食事をする。今まではだいたい真由美さんが作っていたけれど、主任になってからは帰りが遅いので、私も作るようになった。どんな料理でも美味しいって言ってくれる。昔から私には甘い人。職場で厳しいっていうのは、話では聞いてたけど実際に目にしたら、、かっこよかったな。あ、私も十分真由美さんには甘いな。


「あれ、お出汁変えた?」

 お味噌汁を飲みながら、真由美さんは聞く。

「時間があったから、出汁とってみたの」

 いつもは市販の顆粒のものを使っている。

「そっか、ありがと。美味しいよ」

 と、言ってくれたけど。

 なんとなく、いつもより表情が固い気がする。味噌汁の味が悪かったのかな? と思って飲んでみたけど、そうでもない。何か他に気になることがあるみたいだ。


 食事を終え片付けもして、ソファに落ち着いたところで聞いてみた。

「真由美さん、何かあった?」

「ん? 美樹は、今日どうだった?」

 質問に質問で返される時は、言い辛いことがあるんだろう。

「今日もいろいろ勉強になりましたよ、初めての事が多くて」


 私は看護師としての経験はそれなりにあるが、ずっとオペ室勤務だった。それが今回の異動で、同系列の他病院の病棟勤務になる。なんでも病院を増設し新たに2つの病棟が増えるという。今は開設前なので他の病棟で研修中。それが、真由美さんのいる病棟というわけだ。


「怒ってない?」

「へ、なんで?」

「キツい言い方しちゃったから」

 病院でのことを気にしていたのか。

「怒ってるように見える?」

 頬に手を触れながら、顔を近づける。

 あぁ、こんな不安気な表情もいいな、貴重だ。思わず口角が上がりそうになるが、我慢して真由美さんの言葉を待つ。

「嫌われたらどうしようって不安だった」

「そんなわけ......ない」

 泣きだしそうな表情に変わってきたのでーーこれも貴重だけれどもーー

 そっとキスをして否定する。

 私が真由美さんを嫌いになるわけがない。

「良かった。他の子に嫌われても美樹にだけは嫌われたくなくて。だから同じ職場は嫌だなって」

「私のために厳しく指導してくれてるんでしょ?新しい病棟に行っても困らないように」

 今日の処置だって、忙しいのに丁寧に教えてくれていた。

「それに、厳しいのは患者さんのためでしょ?」

「ありがとう。美樹が分かってくれてるなら、それでいい」

「でも、みんなに嫌われるのしんどくない?」

「主任は嫌われてナンボだと思ってるから」

「もうっ」思わず全力で抱きしめた。

 やっぱり、私の彼女はかっこいい。

「私が癒してあげます、主任!」

「だから、家でその呼び方、やめっ」

 まずは甘い口づけで。

 もう不安気な表情は消えていた。


「んんっ......良かった。実は今日帰ってくるのドキドキだったんだよ」

 頬を赤らめ、そんなことを言っている。


 あっ、もしかして! それでかぼちゃプリン? 全く、どこまで私に甘いんだか。。


 これからの、2週間限定の上司と部下の関係、楽しみでしかない。


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