第15話 貴女のことだよ。
「じゃ、行ってくるね」
「はい。気をつけて」
「そんな顔しないの」
と言って、真由美さんは私の顔に触れた。頬を軽く摘んで口角を上げた。
「だって、寂しいんだもん」
「ごめん。お土産買ってくるから。何がいい?お酒?」
「お土産より、早く帰ってきて欲しい」
「ん、わかった」
唇にリップ音を残し、行ってしまった。
「ごめんね、急に誘って。あ、この前はありがとね」
「いいよ、いつでも誘って」
ついこの間、宅飲みしたばかりなのに、ゆきちゃんを誘ってしまった。
今日は居酒屋だけど。
真由美さんと一緒に暮らし始めたばかりの、せっかくの週末なのに。
「なんで研修で熱海なんだと思う?しかも一泊二日で」
「主任研修だっけ?」
「うん、そう。前から決まってたことだけど。一人は寂しいよ」
「うんうん。その気持ち、よくわかるよ」
「ゆきちゃんも寂しいよね、祥子さん忙しいもんね」
「もう慣れたけどね」
「そうなの?慣れるもの?ゆきちゃんは強いなぁ」
ゆきちゃんはクスクス笑いながら、ビールを飲んでいる。
「美樹ちゃん、可愛いな。恋する乙女な顔になってる」
「な、なにそれ!?」
照れるじゃないか
「そっか、出石さん、主任になるのかぁ」
「前は、興味ないようなこと言ってたんだけどね」
「いずれは師長さん?理想の上司っぽいよね?」
「そうかな?」
想像したら、ニヤニヤしてしまう。
「なんで美樹ちゃんが照れるの?」
「あは、そうだね」
「んで?さっきからスマホいじってるのは理想の上司とのメッセージ?」
「あ、ごめん。バレてた?」
ってか、その呼び方!
『研修一日目、終わったよ』
『おつかれさまでーす』
『いい子でお留守番してる?』
『してませーん。悪い子(酔)』
「写メしよ」
居酒屋メニューもなかなか美味しい。
食べ物の写真を送る。
『誰と飲んでるの?』
『内緒でーす』
と、ゆきちゃんのスマホから通知音
「あっ!・・・さすが理想の上司」
「だから、その呼び方って、え?」
「見て!」
ゆきちゃんのメッセージアプリに
『ごめんね。美樹ちゃん、絡んでない?』
と、真由美さんからのメッセージが表示されてる。
「なんで、分かったんだろう?」
「美樹ちゃんのことならお見通しなんじゃない?」
「むー、なんか悔しい」
「ね、写真送ろ」
今度は、食べ物じゃなく二人の自撮り写真を送った。
※※※
そこそこ都会のターミナル駅だから、いくつかの鉄道会社の電車が乗り入れている。
1番端のホームへ上がる。
大きな荷物を抱えた人や、家族連れも多い。新幹線のホームだ。
分単位で、到着しては出発していく。
そろそろかなぁ。
帰りの時間は聞いていたので、内緒でここまで来ちゃったけれど。ちゃんと会えるかな?まぁ、すれ違ったら電話すればいいか。
あれ?
いつの間にか、ワラワラと降りてきた学生たちに囲まれてた。修学旅行かな?
人数確認したり、注意事項を確認したり。ホームでやらなくてもいいのに…と思いながら、少し離れて眺めてた。
5分くらいで学生たちは去っていって。
「美樹ちゃん?」
突然、後ろから声をかけられ驚いた。
「え、なんで?」
この時間に帰ってくるのだから、ここにいるのは不思議じゃない。
私が驚かそうと思ってたのに、逆に驚くとは。むー悔しい。
「迎えに来てくれたの?」
「た、たまたま近くまで買い物に来たから」
「そっか、ありがと」
その、なんでもお見通しっていう笑顔は反則だ。
並んで改札を抜けながら
「でも、あの人混みの中でよく見つけられたよね?」
私は全く気付けなかったのに。
「一瞬、幻かと思ったよ。早く会いたいと思ってたから。幻視っていうの?」
「私だって、早く会いたくてサプライズで…あっ」
「うん、一緒に家へ帰ろ」
「ねぇ、真由美さん」
「なに?」
夜、同じベッドに入って微睡の中、ふとした疑問をぶつける。
「主任とか肩書きには興味ないって言ってなかった?」
「あ、覚えてたんだ。私には重責かなと思ってたんだけど」
「気が変わった?」
「うん。守りたいものが出来たからね。頑張ってみようかと思ったの」
「守りたいものって?」
「それ、言わせる?」
珍しく、真由美さんが照れてる!
「うん、聞きたいな」
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