第11話 GW

「世間はゴールデンウィークなんだねぇ」

朝のニュースを見て、真由美さんが呟いた


「うわ、めっちゃ渋滞してますねぇ」

ヘリで高速道路を上から撮影してるようだ


「どこか行きたいな〜」


「えっ」

この渋滞を見て、出掛けたいと思うとは。

真由美さん、謎ですよ

でも、言い方が可愛いかったから


「行きます?」

「いいの?」


私も、どうかしてる。



私はカレンダー通りのお休みだけど

真由美さんは違うので、休みが合うのは今日と明日のみ


特に予定も決めてなかったから

お家でのんびりするのだと思ってたけど


「どこ行きます?」

「ん〜水族館とか?」

「あ、いいですねぇ」


真由美さんと水族館。

想像したら、ワクワクしてきた


「やった、デートだ」

と、小声で呟く真由美さん


年上だけど、可愛い人。




真由美さんの愛車で向かう


「ちょっと遠いけど、美樹ちゃんと行ってみたい水族館があるの。いい?」

「もちろん、いいですよ」


すでにハンドルは真由美さんが握っているから、お任せなんだけど…

ちゃんと聞いてくれる、気遣いの人でもある


「やっぱり、混んでますねぇ」

所々に渋滞が発生して、ノロノロ運転になる


「はい、あ〜ん」

それを見越して買い込んできたおやつを食べさせたり

安全を確認して、手を絡めたり


「渋滞するとイチャイチャ出来るね」

嬉しそうな真由美さん


まさか、それが目当て?


目的地が近づくと、潮の香りがして

海が見えた

水族館自体はこじんまりしていて

古い建物だ

入場料は、まさかのワンコイン


市内にある大きくて綺麗な水族館の入場料は、ここの4倍はするぞ


「ちょっと不安?」

ニコニコしながら聞いてくる

「いえ、驚いただけで…真由美さんは来たことあるんですか?」

「あるよ。子供の頃は家族でよく来てたし、大人になってからは1人でふらっと」

「そんなに前から?思い出の水族館?」

「そうだね、好きな場所だね」

恋人と来るのは初めてだよ、と

耳元で囁き、そっと手を取り入口へ向かう


ほんと狡い

入場前から、もう、思い出の場所確定じゃないか〜



実際に入ってみたら。


凄い!めちゃくちゃ楽しい!

ワクワクする

水族館というより動物園っぽい


魚の説明が、手書きで内容もクスッと笑える

本屋のポップみたいだ


展示されてるお魚たちも

一般的な水族館と、ちょっと違うような気がする

「この辺りの魚らしいね、飼育員さんが自分で採ってきてるのもあるんだって」

「地元愛だね」


深海魚とか珍しい魚もいるし

タッチングプールで触れ合えたり

時間が合えば餌やりも出来る


「え、カピバラ?」

可愛いすぎる

「カピバラのショーもあるよ」

ゆるい、ゆるすぎて癒される



「うわっココも癒し空間だね」

クラゲがフワフワ浮かんでる


ずっと見ていたい


気付いたら、隣にいたはずの真由美さんがいなくなっていて、振り向いたら目が合った

「気が済んだ?」


「あれ?いつの間に...」

「クラゲに夢中になってたよ」

「ごめんなさい」

「いいけど...そんなに好き?」

ちょっと拗ねたように言う

「え、クラゲに嫉妬しないでくださいよぉ」

手を差し出す


当然のように手を繋ぎ

「クラゲに負けたか」と

わかりやすく肩を落とし

クスクス笑い出した





広くはないけど一つ一つゆっくり見て歩いてたら、あっという間に時間は過ぎて、外へ出たら夕方だった


「ご飯食べて帰ろうか」

と、連れてきてもらったのは

海沿いの、小さな居酒屋さん


『いらっしゃ~い!お、真由美?久しぶりじゃね?』

「うん、たくちゃん。美味しいご飯食べさせて」

『おう!』


「真由美さん、知り合いなんですか?」

「うん、従兄の拓海くん」

なんだ、いとこか。

ホッとしてたら


「昔は好きだったなぁ」なんて言う

「えっ」

「子供のころの話だよ、そんな顔しないの」と、ほっぺを触る

むー

「妬かないの」

「クラゲに嫉妬する人に言われたくないですぅ」

「ごめんごめん。今日は奢るから。美樹ちゃんは飲んでもいいよ、ちゃんと連れて帰るから」

「じゃ、お言葉に甘えて」


おすすめの美味しい海鮮を食べながら、日本酒を頂いた

「真由美さん、この辺りの出身なんですね」

お花見で出掛けた場所も、この近くだった

「そうだよ」

「ご家族は?」

「両親は、もう亡くなってる。兄の家族がこの近くに住んでるよ」

「そうなんですね、近くに来たのにお兄さんに会わなくていいんですか?」

「いいのいいの、急だし、美樹ちゃんいるし」

「あ、そうですよね。私がいたら会えないですよね。ごめんなさい」

「・・・」

「・・・」

なんとなくおかしな空気になって

「そろそろ帰ろうか」

「はい」


真由美さんの部屋へ帰宅した


「帰り、寝ちゃってごめんなさい。真由美さん、何か飲みます?」

勝手知ったるキッチンへ行きながら聞く

「いいよ、そんなに渋滞もなかったし。じゃ、コーヒーお願い」

「は~い」

「ねぇ、クラゲ飼おうか。難しいのかな?飼育するのって…」

真由美さんは、コップを準備しながらもスマホで検索を始めた

「え?ここで?」

「うん、そしたら美樹ちゃん癒されるでしょ?」


私はスマホを真由美さんの手から外してテーブルに伏せた


視線を私に向けた真由美さんに

「私は・・真由美さんがそばにいれば癒されます」

私の気持ちを伝えた。

「私は真由美さんの家族になりたいと思ってます」




「美樹ちゃん」

そう言って、真由美さんは私をそっと抱きしめ話し始めた

「私はね、いつか美樹ちゃんを私の家族に会わせたいと思ってるよ。でも美樹ちゃんを縛りたくはないの」

「縛る?」

「そう、美樹ちゃんまだ若いんだから、貴重な時間を無駄にして欲しくないの。自由に羽ばたいてほしい。好きにしていいんだよ」

いやだ

反射的にそう思った

「やだ!なんでそんなこと言うの?」

「美樹ちゃん?」

思わず真由美さんにしがみついてた


「ごめんなさい・・先にシャワー借りてもいいですか?頭冷やしてきます」

「うん」


なに言ってるんだろ、私は

いい気になってた

まだ、付き合いだして間もないのに

家族なんて、重いよね

シャワーを浴びながら、目を瞑る

浮かんでくるのは、やっぱり真由美さんの笑顔で。

目を開けると、そこには鏡に映った自分の姿で。

あぁ、そうか

これが自分か


私には迷ってる時間なんかない…



浴室を出て、リビングへ行くと

「大丈夫?長いからのぼせてないか心配で、、アイスコーヒーにしたよ」と

グラスを渡されて

そのまま

「ここ座って!髪、乾かしてあげる」

「ありがとうございます」


「やだ!」

「え?」

「敬語は、嫌」

「あっ」

「さっき、やだって言われて嬉しかったよ。敬語じゃない方がいいな」

「わかり…わかった」

「ん」

ブオォーとドライヤーの暖かい風と

真由美さんの手の温もりを感じながら目を閉じた



「じゃあ、私もお風呂入ってくるけど…すぐ出てくるから待っててくれる?」

いつもは’’寝てていいよ’’って言うのに…


「同じこと言おうと思ってた。私が髪を乾かすので、起きて待ってるね」


照れながら

「速攻で出よ」と呟いていたから

「いやいや、ちゃんと温まってきてよ」と送り出した




だいたい乾いたので、真由美さんの髪を梳きながら話す

「私は真由美さんのそばにいます」


気持ち良さそうに目を閉じていた真由美さんは、目を開け振り向こうとしてたから

「そのまま聞いてください」とお願いした

「束縛とかじゃなくて、私が私の意思で真由美さんと一緒にいたいから。真由美さんが嫌だって言っても離れないから、覚悟してくださいね」


真由美さんは、今度こそ振り向いた

「美樹ちゃんそれ、ほとんどプロポーズじゃない?」

「そう取ってもらって構いませんよ?」

「また敬語になってるし」

「だってプロポーズですから」

「美樹ちゃん…」

「え、なんで泣くの?」

「みきちゃん…かっこよすぎ..」

「真由美さんは可愛いよ..」

「もう、、」


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