第9話 反則

ゆきちゃんの、オペ室勤務から内科病棟への異動が決まった

寂しい限りだ


「相変わらず、強いねぇ」

「そういう美樹ちゃんも、全然酔わないじゃん」

「ほろ酔い?それくらいがちょうどいいよね」


こうやって飲む機会も減ってしまうのか


アルコールが入れば、恋バナにもなる

ニコニコ聞いてくれるから

出石さんの事もいろいろ話してしまう

って言うか、聞いて欲しい


「会ってみたいなぁ。あ、異動したら隣の病棟かぁ。休憩室で会えるかも?」

「そうだねぇ、言っとく!あ、でも今日迎えに来てくれる予定だから、会えるよ?」


つい口が滑って

今日のお泊まりもばれてしまった

まぁ、いいか。



「そういえば、美樹ちゃんとしょうちゃんの出会いは?聞いてもいい?」

「ん?あぁ、家庭教師してくれてたんだ」

懐かしい思い出だ


「えぇ~初耳だ」

「中3の時の一年だけね。お姉ちゃんにね、同級生で一番賢い人に頼んでって言ったの」


「そうなんだぁ。一美さんたち仲良いよね、みんな」

「そうだね、、あ、出石さんからメッセージだ。もうすぐ来るって。。え、なに?」


ニヤニヤしているゆきちゃんに

照れ隠しで

「祥子さんも呼んじゃえば?」

と言ってみる


祥子さんに、出石さんとのことを話そうと思いつつ、まだ話せてないから

会えたらいいなぁ

ちゃんと紹介したい




「こんばんは」

「あ、真由美さん!早かったですね。こちら、ゆきちゃんです」

「はじめまして」


さっきまで出石さんの事もアレコレ話してたから、ちょっと照れるな


「どうします?すぐ帰ります?ゆきちゃんどうする?送ろうか?」

「あ、」

スマホを確認して電話をかけに行ったゆきちゃんは、戻ってくると

「迎えに来てくれるって言うから、ここで待ってるね」と言った



「じゃ、私たちも、もう少しいるね」

「そうだね、私もご挨拶したいし」

ちょっとドキドキする。と出石さんは言う

私もドキドキだ


待っている間に、ゆきちゃんが聞く

「出石さんは、美樹ちゃんのどこが1番好きなんですか?」


は?いきなり何を聞くの?

でも、答えは気になる・・・


少し考えていた出石さんは

「えっとねぇ、ポニーテール」と答えた


「「え?」」



「昔から、ポニーテールに弱いの。仕事中の、お団子も好きだけど」

ふふふ。と笑う


嘘でしょ

「髪型ですかぁ?」


ポニーテールかぁ

もう、ショートに出来ないなぁ


出石さんはクスクス笑ってるし

ゆきちゃんは相変わらずニコニコしてるし


トイレにでも行こう


戻ってきたら、祥子さんが来ていて


「その節はどうも」

「こちらこそ」

出石さんと挨拶してた



「えっと、2度目まして。かな?」

「ですね。私、センセイに頼まれたこと、ちゃんと出来てますかね?」

「十二分に。幸せそうですよ」

「そうですか、良かったです」


何の話をしてるんだろう


紹介、、はもう必要ないのかな?


「じゃ、美樹ちゃん帰ろうか」

「え?」

「もう挨拶したから」

「あ、はい」


何故か出石さんは嬉しそうだった




「ありがとうございました」

「どういたしまして」


お店から、そのまま出石さんの部屋へやってきた


「真由美さん、今日飲めなかったですよね?今から少し飲みます?」

少しなら付き合えるくらいの酔い加減だ


「今日はいいよ!そんなに酔ってないなら先にお風呂入ったら?私はもう済んだから」

「あ、じゃ、お借りします」


お風呂上がり、髪を乾かしながら考える

ポニーテールかぁ

出石さんがポニーテールが好きだったなんて知らなかったな


そういえば、入院中も時々ポニーテールにしてたっけ

私は、気合を入れたい時や気分を上げたい時にポニーテールにすることが多い

入院中は気分が滅入ることが多かったから



よし!

お気に入りのゴムを手に取った



リビングに行くと、飲み物を準備してくれていた

今日は、ホットミルクだ


出石さんは私の髪形を見て少し微笑んだ


「センセイに頼まれたことって、何ですか?」

さっきのお店で交わされた、祥子さんと出石さんの会話が気になっていた


「あぁ、初めて会ったときにね、美樹ちゃんの事よろしく!って頼まれたの」

思い出しているのか、クスクスと笑っている


「え、最初から気付かれてたって事ですか?」

「そうみたいね」

「自分の事には疎いのに、けっこう鋭いな…」

「それだけ美樹ちゃんのことが大事なんだよ!」

「・・・妬かないんですか?」

「妬かないよ、私の方が何倍も、美樹ちゃんのこと大事に思ってるから」


全くこの人は

そういうことをサラッと言うんだから

「真由美さん、反則ですよ」

また酔いがぶり返したように体がほてる



「美樹ちゃんこそ、反則だよ。お風呂上がりにポニーテールなんて…」

赤くなってるし。と言って、うなじに触れる

「あっ…」ピクリと反応してしまった


「誘ってるの?」と言いながら

今度は髪を触ってるし

「違いますよ…たまたまです」

「そうなの?誘われたかったなぁ」

また、狡い微笑みだ


「じゃ、誘います」

私からキスをした

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