それでも車輪は転がり続ける④

 部室に戻るとお願いした通りバケツに水がまれて置いてあった。俺は今買ってきたセットを袋から取り出して、作業を始める。

 女の子達は昨日俺が食べたいって言って買ってきたお菓子をつまみながらお茶会を開いている。

 俺をいない事にして弾む女子トークを尻目しりめにパンク修理は10分程度で終わった。

「終わったぞ」

 言いながら長机の上にあるクッキーを一袋開けて口に運ぶ。

「おつかれ、じゃぁ空音ちゃんもそろそろ」

清佳がうながすと、沙木はありがとうございますと頭を下げて自転車と一緒に去っていった。

 本日の任務終了。じゃなかった、もう一つ。

 俺はまだ返してない自転車の鍵と筆箱から鉛筆を取り出した。遥香に不思議そうな目を向けられる。ちなみに清佳は食べるのに夢中。たぶん鍵が戻ってきてないのにも気づいてない。

「こうやって鉛筆で鍵をなぞると滑りが良くなるんだよ。鉛筆の芯の黒鉛がツルツルにしてくれるの」

遥香が興味深そうにしてたので説明してみた。

「ほえ〜」

遥香は可愛く頷く。“ほえ〜”って可愛くない?可愛いよね?そう、可愛いんです。ちなみにカードをキャプチャーする女の子は驚いた時に“ほえー!”と言います。あれはあれでめちゃくちゃ可愛い。とても40代の声とは思えませんねぇ。

「ということで、清佳。鍵返す」

「ん」

清佳がぴょこんとこっちを向く

「あれ?私さっき返されなかったけ?」

やっぱり気づいてなかったんかーい!首を傾げて鍵を受け取った。それを見た遥香はやれやれと首を横に振る。俺はため息を吐いて目を伏せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る