恋愛相談

 黒猫紳士は驚いた。目の前に座る少女が、今まさに読んでいる本のジャンルを見て。

 紅茶の最後の一口を飲み終え、ティーカップを小皿に置く。カフェの窓から見える歩道には、人だかりができている。図書館へ行く前より、さらに大きくなっていた。

 気になりつつも、少女の方を向き、口を開いた。

「さっき行った図書館は、この国はおろか、近隣の国の中で最も大きい。蔵書数は断トツの百万冊。私たちのように、国外からも本好きが集まるほどだ。そんな図書館で選んだ本が、恋愛本とはな」

「意外?」

「君は、そういうのには興味がないタイプだと、思い込んでいた」

 漆黒の髪、同じく黒いジャケット、そしてスカートとニーソ。おしゃれとは無縁の少女は、本を閉じ、人だかりを指さした。

「さっきは、時間がなくて飛ばしたけど、やっぱり気になるし」

「では、次の予定は決まりだな」


 人だかりをかき分け、ようやく店頭にたどり着いた。ガラスの奥で、数人の客が、椅子に座って並んでいた。奥はカーテンで仕切られており、見ることができない。

「ねこさま、あれ」

 連れの少女が指さした先に、看板が立っていた。『出張恋愛相談所』と書かれている。

 相談師の写真も貼られていた。黒い学生服を身にまとった女性。胸まで届く、光沢を帯びた黒髪。挑発的な釣り目と、妖艶な笑み。手には黒いボールペン。プロフィールを読むと、どうやら短期留学生らしかった。

 黒猫紳士は思わず苦笑いする。

「嘘つけ、どう見てもモデルだろう」

「にしても、どうしてあんなに人気なんだろう? 美人だから?」

 少女はそう言いながら、豊かな黒髪に手を通した。相談師と同じ黒い長髪と、釣り目。意識してしまうのは当然だろう。

「実際に、体感するのが一番早いだろうな。旅行記のネタにもなるかもしれん」

「で、最後尾どこ?」

 黒猫紳士は、両手のひらを天に向け肩をすくめた。

「右だ」

 遥か彼方に、プラカードを持った係員がいる。

 少女がポツリと呟いた。

「待ってる間、話題、ある?」

 行列に並ぶ。ときおり横入りされたり、抜かされたりした。黒猫紳士はその間も、ずっとしゃべり続けた。

「部屋にいる猫が、いっせいに見上げることがあるだろう」

「あるある。なんだか、幽霊を見ているみたいで怖い」

「あれは、人間には聞こえない、微弱な音を拾っているんだ。両耳を細かく動かせるおかげ、音の発生位置も、正確に把握できる。猫は、音をまるで見ているかのように、追えるわけだ。だから幽霊の正体は……」

「音だった、ってわけね」

このほかにも、旅行記の次回作の話、以前訪れた街の話などなど、とにかく話し続けた。

 苦労の末、ようやく相談所が見える位置まで、たどり着いた。

「本日の恋愛相談はここまでです!」

 眼前で、断ち切られた。

 こんなことある!? とでも言いたげな表情で、少女がこちらを見る。黒猫紳士は、首を横に振ることしかできなかった。

「お昼時から夕方まで、ずっと並んだのに!」

「明日また来るか」

 そう言った矢先だった。係員が、申し訳なさそうに言った。

「今日で最後なんです」

「そんなー。やーだぁー!」

「おい、素が出てるぞ」

 あきらめて帰ろうとした、そのときだった。背後から、妙に艶やかで張りのある女性の声。

「待ってください。ちょっといいですか?」

 あまりにも聴き触りが良すぎて、耳がゾクゾクする。

振り向くと、地味な茶色のコートを着た女性がいた。帽子とマスク、そして眼鏡で顔を隠している。

「私、あなたが好みなの」

 それは光栄だ、と言おうとした黒猫紳士の脇を、女性はすり抜けた。そして、少女の前でかがんで膝をつき、手をとった。

「あなたの!」

「はい!? わたし? ねこさまじゃなくて?」

「ええ。もしよければ、お話してもいい? あそこで」

 女性が指さした先は、恋愛相談所だった。

「そういうことか」

「ええ、そういうことよ」

「え? どういうこと?」

 女性は、眼鏡を外し改めてあいさつした。

「あなたたちが会いたがっていた恋愛相談師よ。よろしくね」


 少女はテーブル越しに、女学生と向き合っていた。テーブルの上には、卓上メモと数本のボールペン。そして黒い筆箱が置かれている。

部屋の奥には本棚、衣装棚、化粧台などが綺麗に並んでいた。よく見ると、仮眠用の寝台まで用意されていた。ほのかに甘い香りが、鼻孔をくすぐる。

 額から頬へ、汗が滴った。いつも頼れる黒猫紳士は、別室で待機中。

「あっあの、質問は以上ですか?」

「ええ」

 少女の前で、ボールペンがひとりでに動き始めた。圧倒的早さで、卓上メモが埋まっていく。一枚埋まる度、もう一本のボールペンが、器用にページをめくる。

女学生は、こちらに視線に気づくと、怪しい笑みを浮かべた。

「私、ボールペンを自在に操れるの。これ、いろいろと便利なのよ。例えば……あなた、椅子からゆっくり立ち上がって」

「立てばいいの?」

「そう、ゆっくりと」

 少女は、音を立てないように、ゆっくりと立ち上がった。見下ろしているのに見下ろされているような、不思議な感覚に陥る。女学生の美の前に、体が恐怖しているかのようだった。

「いい子ね。素直な子は、好きよ」

 卓上の筆箱が勝手に開き、二本のボールペンが飛び出した。ボールペンは、少女の左右の肩や腰、太ももに触れる。

 驚いて、思わず声が出てしまった。

「うっ!」

「敏感なのね。ますます気に入ったわ」

 そう言うと、女学生は舌をなめずった。扇情的なピンク色が、ちらりとのぞく。少女は、胸の高鳴りを感じた。何に期待しているのかは、自分でもよくわからない。

「体形はいいわ。旅をしているだけあって、余計な脂肪がほとんどついていない。線もしなやかで、申し分ない。童顔で愛嬌があるのも素敵。武術の素養があるところも好きよ」

「え、なんでわかったの?」

「筋肉の付き方と手のタコ見れば、大体わかるわ」

 こともなげに女学生は言ってのけた。

少女は両手で胸を押さえた。心の奥底を見透かされているような気がして、少し怖くなったからだった。

「すごい」

「まだよ。まだまだ。気持ちいいのは、ここからなんだから」

 女学生は、卓上メモをざっと眺めてから、言い放った。

「なんであなたの恋愛が、うまくいかないのか。その原因は、たった一つ。ずばり、自信がないからよ」

 図星だった。

「特に、容姿や魅力に関しては、からっきし」

 少女に異論はなかった。

寝食を共にしている黒猫紳士ならまだわかる。しかし、今日初めて会った彼女が、ここまで自分のことを理解してくれるとは。この人の助言なら、信じてもいいかもしれない。そう、思い始めた。

「自信を持てとは言わない。自身があるフリをなさい」

「どうして、フリをすれば自信がつくの?」

 素直な質問に、女学生はさらりと返答した。

「根拠のない自信を持って百回ナンパするとしましょう。一度でも成功すれば、一度分の根拠のある自信が手に入る。真の自信は、根拠のない自信から生まれるの。ナンパでなくても、コストゼロに近い挑戦はたくさんあるわ。手あたり次第、チャレンジすればいいの。失敗しても傷つくのは、自分のプライドだけだから」

「じゃあもし必死に頑張っても、失敗したら?」

「失敗が怖いのなら、こう考えなさい。失敗は学習。失敗する前と比べて、自分は確実に成長している、ってね。まぁ。私の場合は、『失敗とは結果を出すための一過程にすぎない』って考えてるから、そもそも傷つかないけど」

 そんな鋼みたいな心を持っていたら、ここには来ないんだけど。

口を開く前に、女学生は断言した。

「何事も、自分で選んで決めていく。選択を積み上げ、自分の将来を自分で作る。これが、本当の自信をつけるための原則よ。最初は小さなことからで構わないから、やってみて。あなたはそれができるし、そうするべきよ」

 少女は、言葉に詰まり、しどろもどろするしかなかった。

「でっでも、わたしはあなたみたいに、とびぬけてかわいくもないし、魅力的でもないし、聡明でもないし」

「へぇ、じゃあ、私の目を疑うっていうの? とびぬけてかわいくて魅力的で聡明な恋愛相談師である私の目を? そう、残念ねぇ~」

「ごっ誤解! 誤解だから! ごめんなさい」

 少女は、両手をぶんぶん振ってアピールした。女学生は、クスリと笑顔をこぼす。どうやら、冗談だったらしい。

「いいわ。じゃあ、私が変身させてあげる」

 衣装棚が勝手に開く。衣服が、速やかに女学生の前へ運ばれた。

「これに着替えて頂戴」

「えっ……ここで? 脱ぐの?」

「女の子同士なんだから、いいでしょ? もし、気になるようなら、後ろ向いてあげようか?」

「そこまで、気を使わなくていいです!」

 少女は、若干恥ずかしがりながら、服を脱いだ。そして、女学生から渡された、衣装に着替える。ふわふわのフリルがついた黒いドレスと、ヘッドドレス。どうして、こんなものが平然と用意されているのか、理解できない。

 着てみると、想像以上にしっくりきてしまった。鏡の中の自分はまるで、童話の主人公。

「はわわ」

 自分の姿に見とれていると、耳元に甘いささやきが聞えた。

「ほら、かわいい。まるでお人形さんみたい」

すぐ横に女学生の顔。彼女のしなやかな髪が、頬に触れた。少女は、驚きのあまり硬直。

 女学生が、こちらの額に人差し指を乗せてきた。指は鼻頭を通り、唇に軽く触れ、顎の下を掻く。皮膚から伝わる淡い感触に、鳥肌が立った。

「言うことを聞いてくれて、ありがとう。お礼に、コレあげるわ」

 女学生が指を鳴らすと、ボールペンにぶら下がった黒いカバンが飛んできた。女学生は中から、黄色くジューシーな皮で覆われた、お菓子を取り出した。

「シュークリーム?」

「さあ、キスの練習、しましょ?」

 女学生はちぎったシュークリームを摘まむ。そして指ごと、口へねじ込んできた。

「んぐぅ!?」

「ほら指の周りを丹念になめまわして! そうよ。その舌使いを覚えて。使えるから!」

 突如豹変し、愉悦の笑みを浮かべる女学生。少女は驚愕と、恐怖と、恍惚に脳を支配され、言われるがまま、必死に指を舐めだした。

「クチュ……ピチュ……レロッ……んぷ!」

「そうよ、そう! そう、そう、そう! もっと激しく! 激しく! 激しく!」

「ジュル……んぐ……あぅ……ん」

 残りのシュークリームも突っ込まれた。少女は、砂糖とバターの塊を、口の中に収めることができずにむせこんだ。

「けほっけほっ……うぇぇ」

 頭がふわふわになって、視界がぼやける。少女は下を向き、口で呼吸した。よだれが垂れ、涙がにじんでいる気がしたが、それどころではない。

「ぜぇ……はぁ……ふぅ……」

「あら、こぼれちゃったじゃない。汚れがシミにならないように、すぐ洗濯しなきゃ」

 手が伸びてきた。白く透き通った、陶器のような色。白蛇だ、と少女は思った。蛇は獲物を絡め、口を大きく広げた。

「ま、待っ!」

 見た目に反し、万力のような力だった。少女はろくな抵抗もできず、下着姿にされてしまった。胸と下腹部を隠し、床にかがむ。

「うぅ……」

「あらら、顔を真っ赤にして。かわいいわぁ~。食べちゃいたいくらい。フッ……フッ……フッ! 服を汚した罰、何にしようかな」

「あなたが、無理やり!」

 振り向きざまに叫んだつもりだったが、ほとんど声が出なかった。女学生は、紅の瞳をぎらつかせて、迫ってくる。

「じゃあ、外に向かって叫んでみたら? 助けてくださいって」

「助け……ぇ……」

「お香が聞いたわね。今のあなたは、まな板の上の鯛。助けも呼べない、抵抗もできない、可哀想なお人形さん」

 女学生は、目前まで迫ると、後頭と腰のあたりに手を回してきた。

「さあ、目を閉じて。力を抜いて、身をゆだねて」

 そのまま、お姫様抱っこされた。手の触れている部分が火照る。体がゾクゾクし、未知の快感に体が震える。思考が霧散し、何も考えられなくなる。

「いやぁ……」

「あなたの好奇心と、渇望を感じるわ。さあ、思考も、悩みも、何もかも置き去りにして、一緒に気持ちよくなりましょう?」

 ふわりとした場所に降ろされた。薄目を開けると、女学生が乗りかかっていた。もはや、抵抗することも、逃げることもかなわない。

「あうぅ」

 全身が火照り、熱く燃える。肌が、寒い。心が寂しい。少女は、絶余の美女に向けて、手を伸ばし……。

 

 黒猫紳士は、扉を開け放った。

「お前は盛りのついた猫か!」

「あら、なんて絶妙なタイミング」

「たとえ防音だろうが、猫の聴覚を用いれば、大きな物音くらいならわかる。そして、音の発生位置が寝台近くとなれば、さすがに疑わざるを得ない。もっとも、扉から漏れ出したお香の匂いで、バレバレだがな」

「あら、かっこいい。でも、黒馬の王子様。世の中は童話のように、うまくはいかないの。ごちそうは、多くのけだものが、狙っているものですよ。興味なさげなフリをして、目をぎらつけている、けだものが、ね!」

 黒猫紳士は、女学生の手をつかもうとした。しかし女学生は、驚くべき速さで跳躍。そのまま宙を舞い、黒猫紳士の頭上を越え、距離をとる。

 そのまま、地面から少し浮いた状態で静止した。

「ボールペンを操る能力だけじゃないのか?」

「いいえ。ボールペンを操っているだけですよ」

 だとしたら、宙に浮いているのは、靴底にでも仕込んだボールペンによるものか。なるほど、身体の動きに合わせて、服に仕込んだボールペンを動かすことで、身体能力を大幅に向上させる。理にかなった戦い方だ。

 黒猫紳士は改めて、女学生に近づこうとする。しかし、テーブルの筆箱から放たれたボールペンが高速縦回転し、行く手を阻む。

「ずいぶん、芸達者だな」

「ええ。私、欲しいものを手に入れるための自分磨きには、余念がないの!」

 部屋が狭く、思うように杖を振れない。よく見ると、家具が黒猫紳士を邪魔するかのように、少しずつ移動している。キャスター付きの家具に、ボールペンを取り付けているのだろう。きっと家具だけではなくあらゆる物に、取り付けているに違いない。

「その分だと、同時に動かせる数には限界があるようだな」

「十五本を二十分間。それが私の限界。さあ、残り十八分、がんばって」

 バッグの中から、ペンを括り付けたナイフが出現。まっすぐこちらへ飛んでくる。同時に、踵をボールペンがなぎ払ってきた。

「くっ!」

 態勢を崩した瞬間、女学生が急接近。腹に強烈な一撃を受け、壁まで吹っ飛ぶ。

「武器……ボールペンを頑丈にして、柄をとがらせた……武器!」

 突きや蹴りの速度・威力共に人間離れしている。各関節を、ボールペンで強化しているに違いない。

「ほら、立ちなさいな。まだ、私の講義は終わってない」

 小型のボールペンが飛んできた。キャッチした途端、ボールペンが暴れ、抜け出そうとする。黒猫紳士はそのまま握りつぶした。

 一息ついた時、十本もの小型のボールペンが同時に飛来した。それぞれが独立して手を避けて動く上、フェイントを駆使し、不規則に動く。

 黒猫紳士は口を固くつむぐと、猫の動体視力を用い、ボールペンを次々つかんでは潰した。

「安心して、水性インクだから洗えば落ちるわ」

 そんなことを心配しているのではない、と突っ込みたかったが、耐えた。口に入ろうとしたペンをキャッチ。最悪の事態は免れたかのように、思えた。

 そのとき、足元と手首に違和感。

「袖口から!?」

 手から侵入した二本は止め、砕いた。しかし、足から侵入した一本は、逃してしまった。手で掴もうにも、ズボンの中を縦横無尽に動き回るのでは、どうにもならない。

「ぎにゃぁああ!?」

 脂汗が噴き出た。全身を貫くような激痛に、股間を抑える。

 最悪だった。相手は、黒猫紳士の間合いを完全に把握しており、近づいてこない。杖の機能を解放した所で、敵を打ち倒す前に、股間が死ぬ。

 ダウンした黒猫紳士の首や両手首、足首に、高速回転するボールペンが突き付けられた。ペンが空気を切る、キュイーンという音が、部屋を満たす。

「何をする気だ!?」

 女学生は、黒猫紳士の上に馬乗りになった。

「わかんないの? 美男が無防備な状態で、横たわっているのよ? やることは一つじゃない。ああ、そそるわ! 欲の炎が我が身を焦がし、あなたと絡めと心が叫ぶ!」

「やっ、やめろ!」

「こんなところでやめるもんですか。据え膳食わぬは男の恥、でしょう?」

「お前は女だろう」

「心の中に、雄を飼ってるからいいのよ」

「そんな無茶な!」

 恍惚とした笑みを浮かべ、女学生は言い放った。

「無駄話はこれくらいにしましょう。さぁ、処女を奪われたくなければ、静かになさい」

 黒猫紳士は意味を察し、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「このド変態がーッ!」

 だが、この状況では体をもぞもぞするくらいしかできない。尊厳という尊厳を、全部はぎとられてしまった。

 黒猫紳士のズボンのチャックを、女学生が摘まんだ。

 もうだめか、と黒猫紳士があきらめかけた瞬間だった。女学生は、急に興味が失せたのか、横を向いた。

「ね、これくらい積極的にいかなきゃだめよ」

 ぽかんとしている少女に対し、女学生がぴしゃりという。

「返事はぁ?」

「ふぁあい……」

 あまあましい声を聴き、満足げに女学生が頷く

「大分よくなったじゃない!」

 黒猫紳士は露骨に不快感を顔に出して、言った。

「私は、ダシか!」

「ごめんね、ぶっちゃけあなた、私の好みじゃない」

「グサッとくるからやめろ」

「それに私、私に惚れたかわいい子とイチャイチャするのが好きなのであって、略奪愛とか趣味じゃないの。そういう本は好きだけど。あ、もしよければ読む? いい本あるけど。その子の前では開かないようにね」

「遠慮しておく!」

 女学生は最後に、ベッドと床に突っ伏した来客たちへ向け、言い放った。

「そうだ、媚薬のお香吸った上、二人とも私に襲われかけた挙句、お預け食らって、ムラムラしてるでしょ。せっかくだし私の部屋貸すから、ストレス発散でも……」

「遠慮しておくと、言っているだろうが!」

 顔を真っ赤にした黒猫紳士を見て、女学生はゲラゲラと、いつまでも笑っていた。


 相談室を出た二人は、向かい側のカフェに再び入店。

 テーブルに着いた黒猫紳士は、胸ポケットからジョッターメモを取り出し、ペンを握る。少女は飲み物をオーダーすると、腕を枕代わりにして突っ伏した。

「で、彼女の人気の秘密はわかったのか? 本と何か違いはあったのか?」

「ええ、回答自体は至極まっとう、あ……」

 少女が突然、フリーズした。

「どうした?」

「後半強烈すぎて、真面目な回答、全部忘れた」

 黒猫紳士は額に手を当てて、唸るしかなかった。

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