第27話 手術!!
戦争処理が終わって数日後、僕たちと特殊部隊に勲章が授与された。
僕たちはかなりの数のエース処理をしたため。
特殊部隊はボスを撃破したため。
まあ勲章は名目で、本当はボスオルクのモンスターコアを僕たちにわたすためだったんだけど。副賞でもらったことになった。特殊部隊はお金をもらったようだ。
「これがボスオルクのモンスターコアか……」
「めっちゃでかいですね」
「ミクラが抱えるくらいだもんな。まあこれならコアとしては申し分ないよね。僕のインプラントに収納して、所長のところへ行こう」
もう少しで、ミクラにインプラントが……。
冒険者ギルド職員のヤミちゃんにアポイントを取ってもらって、科学研究所へ。
あの汚い所長室に到着した。
ノックをして室内に入る。
「フィクルとミクラです、こんにちはー」
「やあ、君達か。今ホムンクルスの実験をしているんだ、もう少し待ってくれ」
なにやら中くらいの大きさのフラスコを揺すって作業しているぞ。
「人造人間ですか? 私も興味なくはないですね」
「え、そうなの」
「ふふ、人工生命は人類と科学が追究する最高の存在さ。あ、硝酸を増やしたんだがちょっとこれはまず――」
ドカーン
中くらいのフラスコが爆発したー!
汚い所長室に爆散するフラスコのガラスと液体。
もうベットベトだよ……。
「はっはっは、すまんすまん。ちょっと来る時間までに実験を行っておきたくてな。さて、オルクのモンスターコアはどうだ、質は良いか」
僕はインプラントからモンスターコアを取り出す。
「はい、これですどうぞ」
「ふむ、デカいな。内部魔力も申し分ない。コアの強度も良い感じだ。では作りに行こうか」
「え、ここで作るんじゃないのですか?」
「こんな汚い部屋で作れるわけないだろう。車を出すから乗ってくれ」
……汚い自覚はあったんだ。
科学研究所の裏手に四人乗りの車が出され、それに乗り込む僕ら。
一体どこに行こうとしているのだろう。
一時間ほど走ると山あいの道を走る感じになってきた。
途中、とても大きな門があって所長が鍵を開けて通過。
「この門は私しか鍵を持っていないのだよ。ふふふ」
さらに走って二時間。道がなくなった。「ここからは歩くぞ」ということで歩き始める。
一体どこに連れて行こうというのか。
歩いて歩いて三時間。山の切り立った一面に到着した。
「着いたぞ。いやはや、毎回思うがなかなかにしんどい旅だな」
「モンスターは出ませんけどね。それで、ここに一体何が? 当たりには何もありませんが」
「まあ、こうするのさ」
所長が自分のインプラントを山の切り立った一面にかざすと、ゴゴゴゴゴ、と言う音とともに切り立った一面が横にずれた。
「山の切り立った一面じゃなくて、壁……?」
「まあ内部へ入ろう。驚くぞ」
内部は工場だった。工場と言っても魔道文明の時のモノだろう。僕にだってそれくらい分かる。そこかしこに魔法陣が張ってあり、施設全てが金属で出来ていたからだ。
「さて。ここは古代のインプラント再生工場だ。インプラントという寄生虫を再移植する施設、かもしれない」
「インプラントが寄生虫? そんな馬鹿な」
「私聞いたことあります。インプラントの効果は明らかに人としての機能を超えている存在だって。古代に遺伝子移植をして備え付けたんじゃないかって」
「そ、そっか」
くっそ、さっぱり分からない。これは僕も高等教育を受けないとだめだ……。
「ミクラ君は分かっているようだね。ここでコアをインプラントに作り替え、移植する。インプラントは移植するまでは個体として意識を持つ。工場だから意識をどうこうすることなく移植できるが、インプラントと意識が統合されるまでは相当きついぞ。大丈夫か、ミクラ君」
「大丈夫です、ここまで頑張っていただいた皆さんのためにも、私は負けません」
ミクラの気持ちは本物だろう。彼女はインプラントが無い状態で、亜人として少々いやがらせを受けながらもここまで来た。もうここまで来て引き返すことなんて出来ないし、そんなことミクラ自身が嫌がるはずだ。
「わかった。ではこの手術着に着替えてくれ。滅菌だなんだはすべて移植設備がやってくれるから心配ない。ああでも一応風呂に入ろうか。こっちだ。フィルク君も来るかい?」
「ここで待ってます!」
「ははは、可愛いヤツだ。ではミクラ君、こちらへ」
風呂から出て、綺麗になったミクラ。
「待ってるからな」
雑菌がつくということで触れないし、しゃべるだけでも雑菌が飛ぶらしいから、マスクをつけて遠いところから話しかける。
「はい。待っていてください」
ミクラは元気いっぱい手を振り回すと、移植設備へ入っていった。
待機室らしきところで所長と待つ。
「後は待つだけだ。暇つぶしに手術内容を聞いておくか?」
何をされているのかは僕も知りたい。「はい」といって続きを待つ。
「まずは身体測定からだ。その人に合ったインプラントを作成しないと暴走したり力が出なかったりするからな。はっきりとはしていないが毛細血管の一本まで測定するらしい」
「細かいんですね。はっきりとはしていないのですか」
「今みたく、入れないんだよ、作業をしている手術室にね。古代の資料だけが頼りだ。まあ、最終的にはかなり微細な作業になるようだ」
「なるほど……」
「その次はモンスターコアをインプラントにする。あのデカくて堅いコアを人の血液が通り栄養が行き渡らせるように細工をし、移植する人の左腕に合うように圧縮する。今回のオルクモンスターコアは相当大きい。かなり強力になるだろうな」
所長は話を続ける。まあ、ここら辺は僕には分からないので頷いているだけなんだけど。
「後は埋め込みだ。ここが一番きついらしい。なにせインプラントのハマる場所を作って埋め込み、インプラントの神経と手術者の神経をつなぎ合わせた後に手術者優位にして精神を融合させるからな。手術者に聞いたが意識がゴリゴリとやられるらしい。上手く融合したら完成だ。あとはインプラント操作の基礎訓練を受けておしまい、だな」
「凄いですね、古代文明」
「全くだ。こんなのブキョーでは全く出来ない。解析すら出来んよ。こんなことがあるってだけで騒ぎになる。存在だって秘匿するしかない。だから施設があるのはかなり上の幹部なら知っているが、場所を知っているのは私だけだ。あの車は位置を揺らがせる装置がある、特注なんだぞ」
「古代魔道文明、かあ……」
一〇時間待ったがまだミクラは出てこない。まだかな……。
二〇時間たった。もう半日だ。慌てるな、慌てるな。
三〇時間たった。胃が口から出そうだ。なにかあったのか……。
四〇時間、丸一日たったところで手術室の扉が開いた。
「ミクラ!」
走り寄って内部へ侵入する。
「あ、フィルク様……」
「大丈夫なのか!? インプラントは……赤い!?」
ミクラが腕に装着しているインプラントは、通常の青色ではなくて発色の良い赤色だった。
「あ、はい。手術中は寝ていたので分からないのですが」
なんじゃそりゃ、あっけにとられていると。
「手術ログなら見ることが出来るぞ。……きつね亜人の中でも希少存在らしいな、ミクラは。なのでコアに十分血液を取り込んでからインプラントンを作成したようだ。逆にこれで一体化するときの負荷が減ったんじゃないか?」
「あー、特に違和感はないかもしれません」
「それで赤くなったのか……」
「他にも色々と反応してその色になったようだが、まあ概ねその通りだな。それじゃあ、帰るか。長居は無用だ」
タンケイの科学研究所所長室に戻り、インプラントの操作訓練のプランを立てて帰還。
「結構良いホテルをわざわざ取ってくれたんだね、所長は」
「丸一日あそこで待機してくれていたんですよね、綺麗なお風呂に入ってふかふかの布団で寝るのも良いんじゃないですかね!」
「そうだね……でも」
僕はがっちりとミクラの両肩を抱き、その目を見つめる。
「インプラントはとりあえず装着できたよね。言いたいことが、あるんだ」
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