第26話 戦争!

 僕たちがCブロックに到着したときは、塹壕の中が死体と血だまりであふれかえっていた。

 塹壕は狭い場所とはいえこれは酷い。


「『何でも屋「器用貧乏」』、今到着しました!」


「破られた有刺鉄線に一番近いところに出て増援を止めてくれ! 軍も冒険者も壊滅寸前だ!」


 指揮者なのか一般なのか、誰か分からないけど筋の通る話だったので、その通りに事を進める。


「ミクラはケアでけが人の手当を!」

「分かりました!」


 僕とミクラは二手に分かれて行動した。

 僕はオルクが次々と飛び降りてくる場所へ行き、片手半剣を振り回し始めた。


「攻撃と攻撃はつながる物であり、また行動と行動は水のように流れる物である……。ユー・ワン先生、やります!」


 ステップ! 一刀両断! 振り下ろしからの切り上げ一刀両断! さらにステップからの踏み込み一刀両断!


 塹壕は横に広いが縦は狭い。僕の片手半剣は百二十五センチメートルほどの全長がある。これだけ長いと横に振り回すのは少々厳しい。だから切り下ろしと切り上げをスキル一刀両断で強化して攻めていく。


 オルクは二メートル五十センチはあろうかという巨大なモンスターなので片手半剣で思い切り斬っても一撃で即死させることは出来ない。けれど縦に切り裂けば行動不能にさせることは出来る。


 チェイチェイ先生によって魔法関連が向上したので、思う存分スキルを使って攻撃していく。


 防御に関しては、避けるのは難しい。だけど攻撃を食らってもしっかりと固めてある基本防具と、魔導防御そしてマジックコートを重ねがけしているため皮膚まで攻撃が貫通したり、衝撃が届くことはそうそうない。


 スタンピードモンスターの特性上知的な行動はしないというためか、どんどん切り倒していけるし、僕にヘイトがどんどん集まる。

 そうだ、どんどん来い! どんどんどんどん!


 何分戦っただろうか。片手半剣が血と刃こぼれで切れなくなってきた頃に軍の増援部隊が到着した。


【ここを放棄する! 塹壕はまだある! 我々が殿を務めるから総員待避せよ! 繰り返す、ここを……】


 せっかく守ってきたのに撤退!? いやいや冷静になるんだ、撤退してまた有利な状況で戦う方が正しいはずだろ。


 目の前のオルクを叩き潰してから魔法の発煙筒を地面に叩き付け、瞬間的に発生した煙の中後退する。


「フィルク様!」

「ミクラ! 負傷者は!?」

「百名は治しましたよ! みんな撤収を開始しています! フィルク様も後退を! 体が血で真っ赤です」


 ミクラと一緒に一つ後ろの塹壕へ下がる。途中さらなる増援部隊と遭遇したけど、全員魔導銃を装備していた。ブキョーは魔導銃を基本兵器としているのかな?


 後方に下がったので一旦休憩。ミクラがお湯を魔法で出してくれて、それで血を洗い流す。


「ありがとう、血と油で滑ることもあるからね」

「激戦だったんですね、複数箇所に攻撃が貫通して傷になっている部分があります。感染症の心配もありますので消毒してケアしますね」

「ありがとう」


 そういえば百名をケアしたということだけど、百名もの相手に対して抱き付いたのかな。ミクラのケアは抱き付かないと効果でなかったもんな。


「左手の手術の際に行ったチェイチェイ先生とユー・ワン先生の治療によって、手から十分魔力を出せるようになりましたよ。嫉妬してるの顔に書いてありますよ」


 あ、そっか。よかった。ふう。


 若干気持ちが緩んだところで、


【東側Aブロックにエース級が登場した! 付近のAクラス冒険者と特務部隊は迎撃にあたれ! 繰り返す……】


「休んじゃいられないね。行こう」

「はい、でもスタミナポーションを飲んでからでお願いします」


 グビッと飲んでAブロックへひた走る。

 この付近の軍は筒から炸裂する砲弾を発射したり、魔導銃で三百メートル以上はなれているオルクを撃ち殺したりしている。

 圧倒的な遠距離火力だ……。


 Aブロックに到着すると、場面は一転。地獄絵図となった。

 このブロックは人間側が完全に崩壊しており、次々とオルクによって肉片にされていた。


「毎回凄惨な場所に移動させられるなぁ!」


 そういってオルクの群れに飛び込む。片手半剣はもう使えないので予備の剣を持って。


 今まではオルクに対して有利に戦えていたが、ここはオルクの動きが賢い。なんでだ?


「えぇえええい! ライトニングショット!」


 ミクラが電撃を放つ。

 ものすごい轟音とともにオルクが数体爆発した。

 今のミクラは魔法を放つのに最適な体になっている。インプラントが無い以外は、だけど。

 そのミクラの恐らく最大威力の雷撃。かみなりに打たれたような物なんだろう。

 原理は分からないが連鎖するようだ。


「やば、強すぎました! これだと味方も感電させちゃう! 爆発させても意味ないし!」


 ……ミクラは原理が分かっているようだ。何でも吸収するし、専門教育まで進ませるべき何だろうか。


「キェーッキェッキェ!」


 オルクもミクラが危険と判断したのか、ひときわ大きいオルクを中心にミクラを取り囲む。


「俺のミクラに手を出すなぁ!」


 ミクラの方へ切り進んでいく。くそ、数が多くてたどり着けない。

 馬鹿の一つ覚えで飛び込んだのが不味かった。


「わたしはぁ! ちかくないとぉ! こうげきできないんですぅ! 突き刺せ、コールドアロー!」


 ミクラは逆に飛び込んで高速連射される氷の弾でオルク達を穴だらけにする。


「ウインドエッジ! ファイヤアロー! アースショット! 飛びかからないで下さい気持ち悪い!」


 ミクラはギャアギャアいいながらも、ものすごい勢いでオルクを屠っている。つ、つよいですね。


「キェーッキェキェキェキェ!」


 ひときわ大きなオルクが攻撃態勢に入った。


「ミクラァ! 危ない!」


 急いで駆けつけるが全然間に合わない。


 時が遅く感じる。



 ミクラが、ミクラが!


「ライトニングショット!」


 ドドーン!


「うおっし、周辺に誰もいないので威力マシマシで雷撃放させていただきました。でかいオルク含めて周辺のオルク爆散しましたね」


 え、あ、はい。


 でかいオルクが爆散した直後から周辺のオルクの動きが鈍く愚かになった。

 多分動きを速く賢くする能力があるオルクが死んだのだろう。大きいやつがそうなのかな。


「お嬢ちゃん、エース撃破だな、これは! エースは周辺のオルクの動きをよくするんだ。 ここは俺達でやれる、次のエースがいるところにいってやってくれ! これは特務部隊が使う通信機だ、いま上に状況を伝えるから、後はそれを使って遊撃するといい」


 軍の方がそう言って通信機を渡してくれた。


「まかせてくださいぃ!」


 その後は僕が護衛しながらミクラが攻撃するという形でエース級をどんどんと撃破していった。

 ミクラが大活躍している。

 そう、ミクラが大活躍している。


 み、ミクラ防御は全然ないし。戦闘経験も少ないから僕が防御してあげないと攻撃食らっちゃうし。僕は防御の役割をしているだけだし。いじけてないし、いじけてないし。




 とにかくエース級を潰していたら、急にエース級含めて全体の動きが激しく鈍くなった。


【たった今軍の特殊部隊がボスを撃破した! もうスタンピードのモンスターは烏合の衆似すぎない! 塹壕から出て駆逐を開始する!】


「勝った、勝ったぞぉ!」

「やりましたねフィルク様!」


 僕らも駆逐に参加したよ。

 スタンピードオルクを完全駆逐するまでスタンピード発生から十時間かかった。一日の四分の一戦い続けた感じだ。

 僕らはエースを潰すために休みなく動いていたけど、他は交代交代で戦闘にあたっていたみたい。

 ボスクラスへの特殊部隊急襲は事前の作戦通りに行われたようだ。


 二回の出現で合計十万はオルクが出たみたいなんだけど、それも計算に入れて計画を立てて、実行して殲滅した感じだね。

 ブキョーすげーや。

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