第22話 手術
持ち帰った細胞と唾液は素晴らしい価値があるものだった。
「本当に凄いですよフィルクさん! これだけの量を集められれば買い取り金も交渉が出来ます! 五十万ユロルは堅いかもしれない!」
ということでなんか一気にお金が手に入りそうだ。
「素晴らしい成果だなフィルク君! 目玉なんて売れば一生遊んで暮らせるんじゃ無いのか? 今回はその目玉を使う。チェイチェイ先生の気功経路再生が先なので、厳重に保管しておこう。とにかくよくやった! 後はコアだな!」
チェイチェイ先生ー。
「良い感じみたいだねっ。鮮度の問題で少し急ぐ必要があるね。鍼治療の間隔を短く、強度を強くするよ。結構痛みが出ると思うけど、あのこれなら耐えきれると思うねっ。フィルク君ももちろん付き合うよね」
お、おう。
それから地獄の日々が始まった。
鍼治療、痛いってもんじゃ無い。激痛だ。それを週二回も行う。痛みが抜けないまま次の痛みがやってくる。
しかもその間に依頼をこなしてユー・ワン先生の道場で稽古をする。
依頼で一番儲かるのはむき出しになっている鉱山での鉱石採掘なので凄い体力を使う。
僕はまだこれだけ動けるけど、ミクラは失神寸前の痛みが出てしまっているらしい。本当に動けないので痛みの出ないユー・ワン先生の気功訓練だけ合間合間に行っている。
「すまない、ミクラ。頑張れしっかりと、と声をかけてやることしか出来ない」
ガラン邸のミクラの部屋で、ミクラにそう声をかける。
「だいじょうぶ、です。すべてはわたしの、ため、です」
ベッドに伏せったまま、弱々しい声でそうささやくミクラ。触ってやりたいけれど、触るのすら痛みになってしまう。
今はただ、こうやってそばにいることしか出来ない。
「終わったらチェイチェイ先生お勧めの温泉に行こうな。のんびりしよう。そうそう、サウナってところもあってめっちゃ暑い部屋に入って汗を大量にだすんだって。その後水に浸かることで体と心が安定する、そういう施設だそうだよ」
「たのし、み、です」
この地獄の苦しみは六〇日、つまり一ヶ月も続いた。
ただし、後半にかけて段々と痛みが消えていった。
耐性が着いたのもあるだろうけど、経路に異常があるから痛いわけだから経路の修復や流れが良くなれば痛みが消えるわけだ。
「二人ともよく頑張ったね。Lvは上がっていなくても魔力関係のステータスは上昇しているはずだよっそもそもステータスなんて目安にしか過ぎない。潜在的な力は二人とも十分持っているよっ。
「ありがとうございますチェイ先生。今度一緒に温泉行きましょうね」
「そんなボディの子と一緒に温泉に入ったらすぐにのぼせちゃうよーっ」
そんな茶番をしてから、科学研究所へ向かう。
僕は何度か肌をつなぎ合わせた人を見ている。縫い付けられた後がよく分かるんだよね。ミクラは、どういう形になるのだろう。
「やあ、来たか。目玉の保存状態は良好だぞ。早速だが手術の説明をするぞ。今回は目玉が大きいのもあって、全身を綺麗な肌にする。ミクラ君はフィルク君に言っていないようだが、全身に消えない傷があるんだ」
「え!? ミクラ、そうだったのか! すまん、全く分からなかった……」
「必死で隠していたので……。見られたら捨てられてしまうんじゃ無いかと怖くて、隠していました」
「今回はそれも治してしまう。そして、チェイチェイ先生にも手伝ってもらって気功経路を強化するぞ。ヒゲを粉末にして新しい皮膚や肉に少し混ぜ込む。馴染めば気功経路が丈夫になり、インプラントを再生するときのリスクが減る」
「再生するときにもリスクはあるのですか?」
「今回のは言ってしまえばモンスターコアを元にした新しい生物をミクラ君に移植する感じだからな。気功経路や神経で繋がり一つになるわけだが、拒絶反応が出るかもしれない。その場合はインプラントを削除してしまう以外に方法は無い」
「なるほど。ではまずは
ミクラは体中全ての毛を剃られてから、手術台に載って手術室へ入っていって。
後は祈ることしか出来ない。
四〇時間、つまり一日経ったところでリー先生が出てきた。
「先生! 手術はどうなりましたか!」
「今半分が終わったところだ。順調だが、私やスタッフも休まないともう持たない。状態保存の魔法を厳重にかけてこれから休む。中断するが順調だから心配しないでくれ」
「わ、わかりました」
「いやあ、一日やり続けたのは初めてだよ。しかもこれからまたやるなんてね。こんなこともう一生無いんじゃないかな」
魔法が解ける一八時間後に手術が再開された。
そういえばご飯食べてないな。
でもなんか食べる気がしないや。
寝てないけど、寝る気もしない。
なんかぼんやりしながら待っていたら、手術室のドアが開いた。
「リー先生! 手術は成功しましたか!」
リー先生はにかっと笑うと、
「大成功だよ! 元々あった白い肌はさらに綺麗になったし、左腕も綺麗になったチェイチェイ先生によって気功経路は左腕の末端まで延びたし、太くなった。我々の仕事は完璧に終わった!」
「え、これから違う人が担当するのですか?」
てっきり最後までやってくれると思っていたけど……。
「ああ、再生医療の最後はここの所長で主任研究者であるショカツ・コウメイ先生が手がけているんだ」
所長……。
主任研究者……・
マジか……。
まずはお目通しをと言うことで、僕だけショカツ・コウメイ先生に会うこととなった。
主任室のドアを開ける。
そこには臓器の瓶詰めや散らかった本、よく分からない実験中の器具などが並んでいた。
「こんにちは、フィルクと言う者です」
「あらー来たのね。お話は聞いているわ、もっと奥まで来なさいな」
奥から女性の声が聞こえる。
奥に進むと、ミニのワンピースに白衣を適当に羽織っている女性がいた。
「こんにちはーフィルク君。私がショカツ・コウメイよ」
「女性だったんですね」
「親が勇ましい名前つけちゃってねえ。ここら辺は名字から呼ぶので、コウメイってのが名前よ。ここに来たのは……災難でかわいそうだったから? それとも希望を持ってやってきた? どちらかしらね」
「希望ですね。災難やかわいそうという思いはすでに去りました」
「強いわね。さて再生医療のことだけど、出来る限りよいコアを持ってきてね。それだけ良いインプラントになるから」
「分かりました。手術はどこで行うんですか?」
「それはそのときのお楽しみってやつねー。じゃあちょっとやる研究があるから、まったねー」
ミクラが安定するには三週間かかるらしい。二一歳になるな。
良い年が、迎えられますように。
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