第21話 ナツメウナドラゴンさん
治す道筋が出来たことを冒険者ギルドのヤミちゃんに報告。
「わー良かったですね! 後は素材と、治療と稽古をするためのお金稼ぎですね。指名は無いけど特別依頼でナツメウナドラゴンさんの唾液を採取するという依頼が来ています。見るだけで発狂すると言われているナツメウナドラゴンさんですが、唾液を取れれば当面金銭を心配する必要はありません」
「発狂するって、なにがそんなに凄いのですか」
「存在がです。宇宙的恐怖を感じます。でも恐怖耐性持っているし、亜人さんって度胸ありますから大丈夫です。インプラントに入れると急速劣化するので、馬車を借りて樽を積んで採取してきてくださいね」
「動物を借りる、か……」
「モンスターキメラ研究所の厩舎へようこそ。キュウちゃんとはよろしくやっていそうですね」
「情報が早い……。今回はシルクハットの紳士ですか」
「ブキョーは人口が多いでしょう? 農耕向けモン物に大変な需要がありましてね。さて今回は馬車引きですか。安く上げるならラバとラバを掛け合わせたララバですが……」
「ナツメウナドラゴンの近くまでいくので雰囲気負けしない子がよいですね」
ナツメウナドラゴンさんは見るだけでは無く、近くに存在するという雰囲気でも発狂させるらしいのだ。軍馬でもかなり遠くに待たせないといけないらしい。
「ケンタウロスとユニコーンを合わせたユニタウロスなら負けないでしょうが、貴族が買うような値段がします。ゴンゴロゴンは馬車引きが出来ない。うーむ……」
なんか、初めて研究所の兄弟が困った顔をしているのを見た気がする。
「ちょっと牧場見てきますね」
出会いを求めて牧場へ向かう。
いつも見る研究所の牧場とは違って広大な牧場を歩く。
牛とロバを合わせたウシーンが農耕向けモン物として大人気なんだそうだ。牛のように力強く、ロバのように粗食に耐える、とか。
「フィルク様ー!」
牧場を散策していると鍼治療を行っていたミクラおよびキュウちゃんと合流した。
「よいモン物は見つかりましたか?」
「今牧場主さんがうんうんうなっているよ。なかなか見つかりそうに無いね」
「普通のモン物では難しいですからね、しょうが無いですよね」
二人と一匹で散策をしていると、キュウちゃんが何かを察知した。
『同じきつねの香りがする』
キュウちゃんが走って行くので追いかける。
追いかけた先には白いながらも銀色に光る、白銀の小さな動物がいた。
キュウちゃんとじゃれているわ。
「この子はいったい……?」
「このこは妖狐と虎を混ぜ、その生まれた子を今度は馬と掛け合わせた第二世代のきつね馬ですね。まだ幼いので馬車引きは出来ないでしょう」
後ろからヌッと現れた牧場主さんがそう説明する。
「まあ、普通に買うならお売り致しますが。三百万ユロルです」
「持ち合わせが無いですね」
『僕このおきつねさんに着いてく! きつねの人間さんも優しいし!』
何か信念があるかのように宣言する白銀きつね。
「えぇ……。三百万ユロルを用意なんて出来ないよ」
動揺する僕。貴族じゃ無いんだから……。
「ここブキョーで馬車馬のように働けば支払えなくは無い金額ではあります。もう懐いちゃってますからね、買うしか無いでしょう。お買い上げありがとうございます。馬車引き用にはハートという動物が適していますよ。五万ユロルです」
「これもミクラのインプラントのためと思えば安いか……」
『僕はビャクヤって名前にしてくれるの! やったー! かっこいい名前だね!』
子供はいつだって無邪気である。
ナツメウナドラゴンさんがいる銛の入り口まで馬車を進める。ここから先は歩いて行くしか無い。みんなでぞろぞろと歩いて行く。
道が出来ていたので道に沿って歩く。途中看板があって、ナツメウナドラゴン直筆っぽい文字で「ここから先は発狂しちゃうから近づかないほうが良いよ。ナツメウナドラゴン」と書いてあった。
『ナツメウナドラゴンの住み処。ここから叫んでね。ナツメウナドラゴン』
「また看板だね。ここから叫べば良いのかな?」
「そうでしょうね、ナツメウナドラゴンさーん!!」
ちょ、いきなり叫んじゃダメ、心の準備が!
「なんじゃーい」
ひょあああうあああなうあのあえあおうあいあ
た、耐えきった。
もう説明が出来ない。説明したら発狂する。そんな姿のナツメウナドラゴンさんが目の前に現れた。洞窟があるので、そこを住み処にしているのだろう。
「えっと、よだれが欲しいのですが、この小樽十四個分」
「それくらいお安いご用じゃ。んじゃ口開くぞい、ぱかっとな」
ほあああうあえあええほいあかぬほいあな
SAN値直撃! 私の残りHPはゼロよ! HPが存在しない世界で良かった!!
さらなる宇宙的恐怖を味わいながら、樽いっぱいによだれを出してもらった。
「あの、ナツメウナドラゴンさん、私には今インプラントが無くて、治してもらうところなんです。そのためにはナツメウナドラゴンさんの細胞が必要なんです。分けてもらうことは出来ないでしょうか」
「ええ、インプラントが無いの? 話を詳しく聞かせてよ」
宇宙的恐怖に耐える試練はまだまだ続く。
「ひっくひっく、辛い人生を送ってきたんだなあ。ワシの細胞であればどこを取っても良いぞ」
「ほ、本当ですか!?」
「ワシの細胞がお役に立てるならなんぼでも持って行くと良いぞ。そうじゃな、ヒゲが良いじゃろう。左目とヌメヌメ細胞もつけるでの。魔法で保存させるからの。あ、どれもすぐに復活するから気にせんで良いぞよ」
そういうとどこからか取り出したハサミでチョキチョキと切り取って、得体の知れない包み紙で包んで渡してくれた。やはり急速劣化するからインプラントには入れてはいけないと言うこと。マジックパックあって良かった。
質の良いモンスターコアに関しては、カヤクと言う都市にある、オークより数段階強いオルクというモンスターが出るダンジョンが良いかも、とのこと。
お礼を言って去って行く僕らをナツメウナドラゴンさんは温かい目で見守ってくれていたのでした。
「発狂寸前なんだけどみんなは大丈夫なの? キュウちゃんとビャクヤちゃんは、じゃれていたレベルで大丈夫そうだったけど」
「私は特に怖くなかったです。優しいおじいちゃんとしか」
亜人、モン物、恐るべし。
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