第11話 闇の実験

「なーミクラ。野営をしているといろんな事が目に入るなあ」

「いろんな事ですか?」

「ああ、燃える薪の香り、肌を撫でる風。そして……」

「そして?」

「この満天の星空だよ。月が二個あって、夜でもほんのりと明るい。それでも星々は光って僕たちを照らしてくれる」「急に詩人ですね。でも、確かに素敵な星空です」

「僕たちもこの星空のように光り輝けると良いな」

「そうですねぇ」


この日ばかりは見張りなんて忘れて、二人で横に並んで寝てしまった。



野営は大変だけど、野営は楽しい。



夜型のモンスターや動物に襲われるときもあるから気は抜けないけどね。


野営をしつつ、歩きつつ。


移動中は気配は殺しつつではあるけどミクラとずっとおしゃべりし続けて、僕の中でのミクラの存在が大きくなった感じがする。この気持ちはきっと好きという訳じゃあないんだけど……。大切な仲間だ。解雇なんて出来やしない。


王都から辺境まで歩くので本当に時間がかかったけど、密かにウェルドア辺境伯の首都まで潜入することが出来た。


寝床なんかはスキルオーブを手に入れるために接触した闇ギルドの施設を借りた。お金を払えば別に悪いことはしてこないのだ。高いけどね。


ウェルドア辺境伯の都市は城塞都市となっていて、もし悪事が見つかると門を閉められて逃げられなくなるかもしれない。まあ、都市の中で逃げ切る自信はあるけど。


ウェルドア辺境伯の住んでいる場所を見つけたい。夜が得意な僕が何度か潜入して探して見るも、なかなか見つけることが出来ない。魔法の罠が仕掛けてあってうかつに城の内部を動くことが出来ないんだ。城主がすむところにある壁は楽に越えたんだけどねえ……。

ウェルドアには僕が、嫌、俺がやりたいことがあるんだけれども。


意外とウェルドア兵士は士気が高くて賄賂作戦が効きそうに無いんだよね。重税で手に入れたお金を兵士に存分に与えているのかな。


ウェルドアを探しつつもマッピングもしていく。ウェルドアは複目的、本命はインプラントの闇研究だ。


僕があくせくしている間にミクラはおきつねパワーである程度研究所の目星をつけたみたい。さすがおきつねやることが違う。

でも僕のマッピングと合わせると厳重に魔法の罠で防御されているんだよな。


「私の透明化なら多分魔法の感知を受けないはずです。乗り込んでみます」

「危険すぎないか?」

「危なくなったら助けに来てくれる人がいますから」


試しにすぐに逃げられるところにある魔法の罠を通過させてみる。全く何もおこらない。大丈夫……なのかな?

準備は整えた。侵入の機会だ。ミクラを研究所に向かわせる。

少し経つと、けたたましサイレンが鳴った! 透明化を上回る強さの罠だったんだろう。


こうなったら強攻策だ。

僕の存在はバレていないので警備兵を片っ端からバックスタブで殺していく。後ろに回り込んで鎧の隙間から喉元をスパッとやれば誰だって喋れずに死んでいくもんね。


血の海にいくつもの死体があれば士気の高い兵士でも躊躇する。その隙を狙ってサイレンが鳴った方へダッシュする。


奥には広間があった。そこはまがまがしい魔法の何かがかかれている部屋だった。そこにミクラはいた。

その隣には奴隷らしき人がいる。

ああ、多分奴隷がインプラントを取られるところを見て動いちゃったんだな。

ミクラならそうしてしまうだろうね。


「ミクラ! 大丈夫か!」

「うん、でもこの人のインプラントが抉り出されそうなの!」

「インプラントも体の一部……ケアでなんとかならないか!?」


「やってみる!」


そういうとミクラは奴隷に抱き付いて全身全霊でケアをし始めた。




ズドドドドド


兵士が一気にやってくる。みんなで渡れば血の海も怖くないってか!


「ゆうて、数が多すぎるな、装甲した兵士相手にどれだけ持つか……」


ガキンガキン!グサッ!


うぐ、LvアップのDEF効果と魔導防御でなんとかなったけど何度も喰らうと足にくる。持久戦は無理がある。


「ステップからのダブルファング! 狙う強斬り!」


MPを惜しむ状況じゃない。魔法とは違ってスキルはさほどMPを使わないんだからどんどん使おう!


それから五体の兵士を切り刻んだときに。新たに十体の兵士が登場した。

城塞都市の兵士全てお相手しないといけないのか!?


「ケアできた! フィルク様下がって!私の魔法でなんとかする! 奥にはまだ道がある!」


「怪我するなよ!」


ケアで治った奴隷を担いで奥へと進む。後方からは莫大な魔力で生活魔法を応用した魔法が乱射されている。勢いつけりゃ水生成はウォータープレッシャーになるし、マッチだってでかい火球には成るもんな!


魔法で目くらましをしたところで二人合流して奥へと進む。どん詰まりなきもするが、今はこっちに逃げるしかない。

壁のまがまがしい模様は熾烈さを極め始めている。

いったい何なんだ?


恐らく最奥についた。なんなんだここは?


「めちゃくちゃでかい左腕と、めちゃくちゃでかいインプラント……?」


そのインプラントは紫に染まっており、腕は動けないように柱に指を鎖で巻き付けられていた。


我々を負ってきた兵士も、呆然とみている。


「いやぁお見事お見事。この研究所を見つけるなんてねえ」


声の方を見ると、パジャマ姿のじじいがいた。


「辺境伯……?」


「いかにも私がウェルドア辺境伯だ。将来の国王だぞ、頭が高い」


「ここでいったい何を」


「見てわからんかね、インプラントを集めに集めて能力を強化するのだよ。インプラントは合成すればするほど強力になる。そしてその力を私に移植して、この国の王へとなるのだ!」


「それで奴隷や亜人のインプラントを抉り出していたのか!? 非道にもほどがある!」

「奴隷や亜人に生きる価値はないのだ。強化に使われるだけ幸せであろう」


「ふざ! ける! なぁ!」


ハイ・ステップからの左ストレート!


しかし未知の防壁で攻撃が弾かれてしまう。


「むだだよ。あのインプラントは私の支配下だ。オートガードなぞたやすいものだよ。では少しいたぶるとしよう」


魔法のパンチが俺とミクラを襲う


「ぐえっ」


「うぐっ」


「一発では足りないだろう、ほれほれほれ」


「ぐっ、がはっ」


「がっ、おええ」


ミクラの胃に直撃したのかミクラが胃の内容物を吐き出す。


どうすればいいんだ……攻撃は効かない、魔法のパンチで一方的になぶられている。磔になっている左手をどうにかしないと……。



磔?


「これは、どうだ……!」


ボコボコにされた体を奮い立たせ、柱に巻き付けられている鎖のところへ短剣を投げつける。


「アホなことを……な!? なぜガードをしないインプラント!」


「インプラントさんは磔になんてされたくないようだな。うおおおお突撃ぃ!!」


インプラントへ突撃し、スキルをフルに使って剣で鎖をたたき切り始める!


「何をぼうっとしている!あいつを止めろ!」


兵士がやっとこさ俺の妨害をしようとする


「させない!ライトニングショット!」


バチコーン!

あわれミクラが接近しライトニングショットを放たれた兵士は一瞬で炭になった。


「なんだあの魔力は! ええい、どうせ単体、数で攻めろ!」


バチコーン!

バチコーン!

バチコーン!


「このガキようやく捕まえたぞ!」


「うぁああ!アースショット!」


ぐしゃあ。体中から飛び出てきた棘で串刺しになる兵士数人。


「なんなんだこの二人は! 勝てねえ、勝てねえよ!」


「俺は妻子がいるんだ、死ぬのはごめんだ!」


兵士がこぞって逃げ出し始める。


「おい、ふざけるな、逃げるな!」


ウェルドアが叫んでも、完全に士気が崩壊した兵士の前では無力だった。


「あと一つで鎖から解放されるぜ!インプラントさんよ!」


ガンガンガン!


カチャーン


鎖が全て外された。


ゴゴゴゴゴゴ


左手はもぞりもぞりと動きながらウェルドアへと近づいていく。


「おい、なぜ私に向かってくる、私は主だぞ! この二人を狙え、狙わんか!」


ドスーン


巨大なインプラントはウェルドアを飲み込むと、目映い光を放って消えていった。



「最後は取り込まれたインプラントの怨念、なのかな」


「ああ、そうだろうな。その、残念だったな、インプラントの再移植が出来なくて」


「ううん、いいんです。この馬鹿げた行為が止まったなら、それで、いいんです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る