第9話 ヤツが来た

 電報の翌日、彼らは転移魔法で帰ってきた。

 凄い技だけど触媒が必要で、王家がひっしこいて集めた代物だ。

 それを易々と使うなんて……絶句した、としか言い様がない

「おい、雑魚ども、フィルクと言う奴はどこにいる」

 冒険者ギルドに転移してきてすぐに馬鹿な台詞をしゃべる勇者様……名前はタケといったかな。

「しらねーよ。今頃王家で優雅なひとときでも過ごしてるんじゃねーか?」

「お姫様は結構フィルクがお気に入りだもんなあ」

 僕の見方をしてくれるギルド会員が挑発をする。

 と言うか僕は気配を消して勇者タケ様の後ろにいるんだけど、気がつかないのかなあ?


「チクショウ!お姫様は俺が狙ってたんだ!ふざけんなぁ!」


 そういうと勇者タケ様は王城へ向かって突進していった。アポ、取ってるのかな?


「あららまあまあ、猪勇者はこれだから。どうせここら辺にいるんでしょう? 出てきなさいよぉ。私と良いことしましょう?」


 パティさーの姫がそんなことを言う。


「良いことよー、それはとても気持ちよいの。お互い最高になるわよ。一晩中やりましょう?」


 あーあーあー、そんなこと言って大丈夫なのかなあ。


「せせせせ拙者は一途に姫を守ってきたでござるよ! それなのに一瞬で切り捨てたクソ雑魚戦士と良いことをするのでござるか!?」


 案の定、自称アサシンのゴザさんが動揺する


「いいじゃーん、減るもんじゃないしぃ? 貴方も今までの行為は全て私とセックスしたいだけでしょう? キモーい」


「せせせ、拙者のピュアなラブをおおおおおお!」


 やばい、ござるが武器を持ってパティさーの姫に突撃している!


「ダブルファング!」


 思わず隠れるのを止めて武器をパンパーンと打ち、たたき落とす。


「え、なんでここに!?」


 唖然とするパティさーの姫。


「ニンニンの拙者を騙していたでござるか!?」


 信じられないといった格好のござる。


「君ら斥候一人も入れてないでしょ。それじゃちょっとしたレベルの隠れスキルでも見破れませんよ」


「ああーん、貴方のような存在が必要だったのよぉ! ねえ、わ・た・し・と・い・い・こ・と・し・ま・しょ!」


「そういえばパティさーの姫は聖属性魔法と誘惑を併せ持ってましたね。私にはもう最高のパートナーがいるので効きませんよ。耐性もちょっとだけあるし」


「はぁ、ふざけんじゃないよ糞が。私以上のパートナーなんてどこにいるんだよ」


「ここにいます!」


 あ、出てきちゃった……。不味いことにならないと良いんだけど。


「私の名前はミクラ、フィルク様につけていただいた名前です! 少なくとも切り捨てた貴方よりは絆が深い!」


「は? チビ糞の亜人じゃん。殺さないの? 亜人は処分するんでしょ。ねえちょっとござる、サクッと殺してくれないかしら。そしたら良・い・こ・と・してあげるわぁ」


 意気消沈していたござるが急に元気になり、予備の武器を持ってミクラに襲いかかった!


「ミクラぁ!」


 何も出来ない僕はそう叫ぶしか出来ない。


「接近しましたね。私に。どうなるか分かってますよね、ファイヤアロー!」


 おびただしい数の炎の矢がござるに襲いかかる!

 何も出来ないと高をくくっていたのか、避ける動作も出来ずに全弾命中! ござるの顔が真っ赤に膨れ上がる!


「ござる!? 大丈夫なの!?」


「し、死んではないでござる……」


「ちょっと待ったおまえら! これはギルド内の決闘と見なす!そこの女も含めて事情聴取させてもらう!」


 ギルドの偉い人っぽい人が出てきてそう宣言する。

 僕はミクラの保護者として、事情聴取に同席することになった。騒動の中心でもあるしね。




「ふむ、つまりつよつよ冒険者パーティが急に戻ってきて貴方、フィルクさんを強引に勧誘しようとしたと。完全に拒否された女性が嫌悪する亜人とパーティを結んでいたことにかっとなって亜人を殺すようにパーティメンバーに仕掛け、ミクラさんを殺そうとした、と。その反撃でファイヤアローを発射したんだね」


 筋は通ってるし齟齬がない。


「はい、大筋はその通りだと思います」


「そうか。しかし何だって君を引き戻そうとしたのだろうか」


「僕は皆さんのように強くはないので、雑用や偵察、罠張りなど戦士兼斥候をしていたんです。斥候係だった弓使いは二日目に首になっちゃって、僕がしょうが無く。あと料理も行っていました。そういう雑用や兵站がなくなったことで大森林を突破できなくなったか、魔族領で動けなくなったのではないでしょうか」


「ふーむ……」


「実際僕は大森林に入ってすぐに解雇されました」


「なるほど。それはパーティのログに残るな。それで決闘の件は」


「僕がまずゴザさんがミヤコを刺そうとしたところをスキルではたき落としています。これは相当な目撃者がいます。そのあとミヤコさんが僕を誘惑して勧誘をし、それをミクラが嫌がって出しゃばってしまい、亜人を嫌悪するミヤコさんがセックスを餌にゴザさんを奮い立たせて殺害しようとしました」


「なんとも信じがたいが……」


「殺そうとしたのは事実です。現場に刺突用の武器が落ちていましたよね。あれで刺されたら死にます。ミクラは死なない程度に初歩魔法のファイアアローを連射したんです。火傷でご立派な顔がどうなってしまうかは分かりませんが。ミクラを見てくれれば分かるように、インプラントをえぐり取られているんです。とっさにでた死なない程度の自己防衛だと思います」



「君達の言い分はよく分かった。あとは相手側の言い分を聞いて、目撃者の証言や物的証拠を考慮した上で決着する」

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