第20話


アルバン・ダナトフside.


 僕達は北の鉱山に送られて毎日採掘をさせられていた。一年程経ったある日、岩盤が崩落してそれに父親が巻き込まれて亡くなった。

 おかげで、僕は父親が稼がなきゃいけないホイット伯爵家に返す融資分と慰謝料が上乗せされてしまった。だが、しばらくすると監督官から慰謝料の一部と融資分はもう良いと言われたのだ。

 どうやら、ダナトフ子爵家の領地を慰謝料の一部と融資の回収分としてホイット伯爵家が王家から承ったらしい。

 あんな岩山ばかりの何もないところと思っていたら、金鉱が見つかったとのことだ。しかも、岩山の近くは山羊や羊の放牧地としても最適で現在ホイット伯爵家は更に左うちわだそうだ。そんな話を監督官から聞いた僕は歯軋りするしかなかった。


 くそっ、僕とフィーネが結婚していたら今頃、毎日、遊んでいられたのに……


 僕は怒りを込めてツルハシを岩に叩きつける。たまに取れる宝石もここでは何の価値もないのだ。


 まあ、良い。融資分と慰謝料の一部は払わなくて良くなったんだ。そうすると後、どれくらい働けば良いんだ?

 僕はこっちへ来てから、すっかり計算ができなくなってしまったので、少し離れた場所でツルハシを振るっている弟のレンゲルに聞く事にした。


「おい、レンゲル、融資分と慰謝料の一部は払わなくて良くなったんだが、後、どれくらいで出られるんだ?」

「俺は来年、アルバン、あんたは二十年ってところだな」

「はっ⁉︎ なんで、お前は来年に出れるんだよ⁉︎ しかも、僕は二十年だって⁉︎」

「当たり前だろ。俺は融資してもらったお金を勝手に親が生活費に充ててただけだからな。それに俺は後、懲役刑ってやつを満了すればいいだけだから残り一年で良いんだよ」

「い、いや、それでもおかしいだろう!」

「俺は一応恩赦があるからな……。だが、アルバン、あんたはホイット伯爵令嬢に対しての莫大な慰謝料と、金目当てで近づいた詐欺罪に婚約者がいながら不貞行為をした罪があるだろう。本当なら四十年ぐらい入ってなきゃいけなかったんだからホイット伯爵家に感謝するんだな」

「四十年も二十年も一緒だろう! 出る頃は僕は中年男じゃないか!」

「ふん、それは自分が悪いんだろうが。そんなに早く出たいなら珍しい宝石でも採掘するんだな。そうすれば刑期を減らしてくれるらしいぞ」

「そ、それは本当か⁉︎」

「看守に聞けよ」


 そう言ってレンゲルは奥にいる看守を指差したので、僕は慌てて看守の元に走っていく。


「看守、珍しい宝石を見つけたら刑期が減るって聞いたが本当か?」

「本当だ。最高で十年ぐらい減るが、十年に一回出るかどうかだ。まあ、お前には無理だよ」

「ふん、僕が必ず見つけてやる」

「はっ! まあ、頑張れや」


 看守は小馬鹿にした表情を浮かべながら去っていく。そんな看守の背中を睨みつけた後、僕は近くの岩場にツルハシを振り下ろした。


「絶対に見つけてやる! それで、刑期を減らして早く出るんだ!」


 僕は怒りを糧に何度も振り下ろす。何回も、何十回も、何百回も、何千回も……

 その間、レンゲルは刑期を終えて外に出て行った。次はリーシュの父親デルフが病死をした。そして何万回目にレンゲルが農家の娘と結婚して子供ができたと手紙がきた。


 僕は農家じゃなくお金を持ってる商家の娘と結婚してやる。


 僕は更にツルハシを握る力を強め振り下ろす。そして、何十万回を超え数えるのをやめた頃、ついに珍しい宝石を見つけたのだ。


「凄いじゃないか、おっさん!」


 若い看守がそう言って僕を褒める。


 えっ、おっさん?


 僕は驚いて自分の顔を触ると髭面に深い皺ができていたのだ。そんな僕に看守は言ってくる。


「刑期は残り一年だから今日中に出れるぞ。良かったな!」

「はっ……」


 僕は呆然としたまま看守に連れられて、出所祝いに少しだけお金を渡され、あっという間に北の鉱山から出された。



 その後のアルバンは行くあてもない事に気づき、彷徨いながら辿り着いた港の小汚い酒場で今は雑用をしているらしい。



アルバン・ダナトフside.終



 私はあれからランドール様と結婚し、一年後には子宝にも恵まれ、毎日忙しくも幸せな日々を過ごしている。

 ちなみにお父様は家督をランドール様に譲ったが未だに領地経営を手伝ってくれている。どうやら、孫に格好良いところを見せたいらしい。お母様はそんなお父様に呆れながらも、いつも側でお手伝いをしていて、私達には良い夫婦の見本になっている。

 そんなホイット伯爵家にある日、凄い情報が飛び込んできたのだ。


「モルドール王国の内戦が終わるのですか。ランドール様、そうなるとあの国はどうなるのですか?」

「モルドール共和国になるらしい。まあ、平和と平等を掲げる国になるから心配しなくても大丈夫だ。むしろウルフイット王国も良い刺激を受けてくれるだろう」

「良かったですわ。だってこの子の為にも良くなってもらいたいですからね」


 私はそう言ってお腹を撫でるとランドール様は勢いよく立ち上がった。そして慎重に私の側に来てお腹に手を置き頬を緩める。


「……そうか、二人目か」

「はい」

「……フィーネ、俺は幸せ者だな」


 ランドール様は私を抱きしめてくる。だから、私も心から思った事を言うのだ。


 私も幸せですよ、ランドール様……と。



fin.

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どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません しげむろ ゆうき @solid_yuu

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