第19話


リーシュside.


 どうしてこうなったのよ! ちょっとあの成金地味女を脅して私の言う事聞かせてやろうとしただけじゃない! なのにあんな事になるなんて!おかげでドレスや宝石も手に入れられないじゃない……

 これも雇った糞女が全部悪いのよ!


 私は近くで俯いている糞女を睨む。

 こいつはアルバンに隠れて男と遊んでる時に知り会った平民女だ。私がちょっと成金地味女の話をしたら自分なら脅して金を手に入れられるって言ってきたのだ。

 私はすぐに計画を聞き、雇ってやったのに糞女は失敗しやがったのだ。

 だから、あの日、私は怒りくるって滅茶苦茶に殴ってやったのだ。そうしたら女騎士に思いきり蹴り飛ばされたのだ。


 だって、悪いのはこの糞女でしょ! なんで、私が蹴られなきゃならないのよ!


 私は未だに納得してなかったが、修道院に来てからはすぐにニヤついてしまった。たかが修道院。どうせ、体調が悪いとか逃げ回れば弱気な修道女なんて何も押し付けてこないでしょ。

 だから私が脅して服従させてやるわ。

 そんな事を考えていたのだが、アリス修道院に着いたら重い鉄球が付いた足枷をはめられてしまったのだ。しかも、毎日のように、祈りに服作りに農作業である。

 だから、監督官の修道女に文句を言ってやった。


「ちょっと、いつまでこんな事やらせるのよ! こんなんじゃ、私は体が弱いからいつか倒れちゃうわよ!」


 そう言って文句を言うと近くにいたお母さんは顔を真っ青にした。たかが修道女に何怯えてるのよと思ったら、いきなり左頬に強い衝撃が来て私の意識は飛んだのだ。

 気づいたら殺風景な狭い自分の部屋の床に寝転がっていた。しかも左頬は腫れ上がり歯が一本抜けていたのだ。途端に痛みで私は叫んでしまう。


「痛ああああいっ! 痛いよおおっ!」


 私があまりの痛さに地面をのたうち回っていると、同室のマニーが叫んでくる。


「うるさいわよ! 寝れないじゃない!」

「ああっ⁉︎ あんた、私が痛がってるんだから少しは労りなさいよ!」

「誰がするか! あんたの分まで私達は仕事させられたのよ! もう、ふざけた事しないでよ!」

「何よそれ? 酷いことさせるじゃない。訴えてやりましょうよ!」

「だから、ふざけた事するなと言ってるのよ!」


 マニーは私の胸ぐらを掴み叩いてきたので、カチンときた私もやり返すと、お互いに殴り合いになった。すると、部屋の扉が突然開き沢山の修道女が入ってくるなり、私達を無言で袋叩きにしてきたのだ。

 おかげで私もマニーもあっという間に痛みで気を失ってしまった。しかも、朝はいつものように叩き起こされ、体中痣だらけの状態のまま仕事をさせられたのだ。

 正直、心が折れそうだったが私みたいな良い女がこんなところで腐るなんて間違っている。だから、また修道女に言ってやったのだ。


「私のこの体を使えばかなり稼げるわよ」


 そう言うと修道女は一瞥するだけだった。思わずイラッとして怒鳴ってしまう。


「他の女だって外に行ってるじゃない! 私の方が良い体してるわよ!」


 すると、修道女は私をゆっくりと値踏みしてきた。私はこれで外にいけると確信した。


 外に出て良い男の相手して金稼いでそのまま逃げてやるわ。逃げたらどこ行こうかしらねえ。金持ちが多い国に行くのは絶対条件ね。


 そんな事を思っていると修道女が言ってきた。


「あなたは一番簡単な仕事しかやってないみたいだけど、綺麗な刺繍とか人に何かを教えるとかできるの?」

「そんなのできるわけないじゃない」

「じゃあ、無理ね。だって外に出てるのは能力があってここで品行方正に努めている者だけですから」

「そんなの出来なくても、私はこの体を使って稼いでやろうって言ってるのよ! 絶対、大金稼げるわよ!」


 私はしなを作ってやる。しかし、すぐに右頬に強烈な痛みが襲い私の意識が飛んだのだった。目を覚ますと自分の部屋の床の上だった。しかも、右頬が腫れ上がり今度は二本も歯が抜けていたのだ。


「いだああああいいいぃっーーー! 痛いよお!」


 私があまりの痛さに床をのたうち回っていると、同室のマニーがまた叫んできた。


「本当にうるさい! てか、また迷惑かけて! おかげでダナトフ夫人がついに心労で倒れたわよ!」

「別に良いじゃない! あんなババアどうなろうが!」

「だから、連帯で動いてるから私とママとよくわかんない女に重しが来んのよ! なんでその頭は考える力がないのよ!」

「ちゃんと考えてるわよ! ほら、私って良い女じゃない? だから、外に出て良い男捕まえて金蔓にして稼いだら、さっさとこんなとこからおさらばするのよ」

「はあっ? そんな下品なことを修道院がさせるわけないでしょ! それにあまり馬鹿な事したりしてると、医学の発展の為に研究室に送られて生きたまま解剖されるって最初に言われたでしょう! だから、真面目にやろうよ! 私達はママ達と違って外に出るチャンスがあるんだから!」

「嫌よ! 私はすぐに出たいのよ!」

「なっ⁉︎ こ、この、わからずやのアバズレ女!」

「うるさい! ガキ女!」


 私達はお互いに罵倒し合い殴りあいを始めると、すぐに扉が開いて沢山の修道女が入ってくるなり、私達を無言で袋叩きにしてきたのだ。

 おかげでまた、私達は朝まで気を失ってしまった。そして目を覚ますと修道長の元に連れてかれたのだ。


「あなたは真面目に働く気はないのかしら?」

「はあ? なんで、そんな事しなきゃいけないのよ!」

「あなたはホイット子爵家のお金を勝手に使って遊び歩いたり、ドレスや宝石を買ったのよ」

「そんなの勝手にお金を持ち出したアルバンが悪いんじゃない!」

「あなたは知っていて使ったのでしょう? なら、同罪よ。それに莫大な慰謝料もあるのよ。このままじゃ、あなたここで一生過ごす事になるわよ」

「はっ⁉︎ そんなの嫌に決まってるでしょ! あなたがどうにかしなさいよ!」

「……どうにかとは?」

「そんなの私が外に出て自由になる事に決まってるでしょ! そんな事もわからないなんて馬鹿じゃないの!」


 私は理不尽修道長を睨むと、なぜか溜め息を吐かれた。


「はあっ……。仕方ないわね」


 そう言って修道長は呼び鈴を鳴らす。すると、沢山の修道女が入ってきて、私を羽交い締めにし何かを嗅がせてきたのだ。意識が途端にボーっとなってしまう。そんな私に修道長が言ってきた。


「アリス修道院を出て、文字通り自由にさせてあげるわ」


 私はその言葉を聞き、笑みを浮かべながら意識がなくなるのだった。



 目が覚めるとなぜか裸のまま真っ白い部屋に寝かされていた。しかも、体はベルトで拘束されていた。


「な、なんなのよこれは⁉︎」


 思わず叫ぶと、白いローブを着た医師らしき人物が私に近づいてきた。


「ここは解剖室だよ。これから生きたまま体を捌いていく。なに、痛みはない様に麻酔はかけておくから安心しなさい」

「えっ……」


 私は医師の言葉にギョッとしてした後、すぐに叫んだ。


「いやああああっ! 誰が助けてえーーー!」

「はっはっは、最初はみんなそう言うんだよ。けどね、私の話を聞いているうちに医学の為に貢献したいって言ってくれるようになるんだよ」

「ち、ちょっと話を聞いてよ! ほら、私って良い女じゃない⁉︎ だから、楽しませてあげるわ!」

「ああ、これから楽しませてもらうよ。良い女の体を解剖できる。こんなに楽しい事はないね」

「違う違う違ーーーーう! 私の話をしっかり聞いてよ!」

「解剖しながらちゃんと聞いてあげるよ。ほら、麻酔いくよ」

「ひーーー! 体に感覚がなくなるううぅ!」


 私は意識が飛びそうになっていると、何やらガリガリと音がし始め医師が血まみれの手で何かを掴み見せてきたのだ。


「これ内臓の一つで肝臓ね。だから、君のお腹の中には肝臓はもうないぞうって。はははっ」

「ぐぎゃあああああ! 戻して戻してよ!」


 私は叫びまくるが医師は気にする様子もなく体に手を持っていき、ぶつぶつ呟く。


「次はこれかな……」

「ち、ちょっと聞いてるの⁉︎」

「聞いてるよ。早く次のが見たいんだろ? ほら、これ大腸って言って体の中にこんな長いのが入ってるんだよ。いやあ、凄くない?」

「ぎゃあああっ! 凄くない! 戻してええ!」

「大丈夫、中に戻しといたよ。次は……」


 もう、私は限界だった。話が通じない相手がこんなにやばいなんて思わなかった。しかも、この医師、自分がやってる事を全く悪いと感じてないのだ。

 そう思った時、私がしてきた事と重なり後悔してしまう。だから、次に人として生まれ変わったら、絶対、人の話を聞いて良い事をしようと思ったのだ。

 そんな事を思っていたなら、医師が何かをぶらぶらさせていたのだ。


「これ、何かわかる?」

「……わかりません」

「心臓だよ。見て、こうやって手で鷲掴みして君のハートを鷲掴みって……ああ、もう聞いてないか」


 私は沈みゆく意識の中で聞こえてますと答え、そのまま意識が途絶えたのだった。



 目を開けると自分の部屋だった。私は起き上がり自分の体を触りほっとする。


「な、なんともない……」

「今回はなんともなかっただけよ」

「えっ……」


 声が聞こえた方向を見ると、修道長が椅子に座ってこちらを見つめていた。


「次は本当に自由にさせてあげる。ただしその体からもね」


 そう淡々と言うと修道長は部屋を出て行てしまった。



 その後、リーシュは人が変わった様に修道院の仕事を積極的にやるようになったのは言うまでもない。



リーシュside.終

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