噂

--- Tips ---

腰元:和風メイド的なもの

家令:和風執事的なもの

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 自分なりにこの武術大会について考えた結果、索田家のプラス特殊技量アビリティを定期的に発動させることで、力がびつかないようにしているのだと予想できた。



 索田家は複数特殊技量マルチアビリティの持ち主であり強き者プリオリという珍しい一族だ(複合型)。


 複数特殊技量マルチアビリティというのは、本来なら一人一つしか宿っていない力を二つ以上持ち合わせている者のことを指す。複数(multi)と言いながら、三つ以上の力を持つ者は国内において数えられるほどしか存在せず、普通は――索田家もそうだが――二つの力である。



 索田家に発現した二つ目の特殊技量アビリティ――プラス特殊技量とは何か。それは、日本刀に歴代使用者の霊魂を宿しながら戦うことができるというものだ。


 笑ってしまうことに、現代ではほとんど役に立たない力である。第二次世界大戦までは重宝されたようだが、それ以降といえば、警察官になれば辛うじて力を発揮できる程度のものだ。あるいはテロリストか――。


 そして実際、索田家から警察官になる者は異常なほど多い。それくらいしか使い道がないのだ。メイン特殊技量アビリティの索敵能力も捜索に生かすことができるため、軍人や警察官が索田家の天職なのだそうだ。



 実際どういった力なのかというと、霊魂とやらがこもることで腕力なり動体視力なりが格段と上がるもの


 ほら、見てほしい。

 先ほど弾き飛ばされた日本刀を。


 真っ二つだろう。

 カキン、という音と同時に、単に使用者の手元を離れて吹き飛んだのではない。もう片方の日本刀が、相手の日本刀をのだ。

 索田家の+特殊技量には、攻撃威力だけでなく速度までも飛躍的に上げる力がある


 しかし貴重な古い刀を斬ってしまうとは、決して行儀のいい行為とはいえない。


 新しい日本刀には「歴代使用者」が存在しないのだから、古くから使われているものを大切に使わねばならない家系だというのに。斬った相手は……八歳になる、僕の兄のようだ。よほど気合いが乗っているとみえる。


 自分に宿っている力は一族にない力なのだと分かりはじめる年頃だ。力試しをしたかったのだろう。相当に強い力から。



 ――お察しの通り、どういうわけか、僕にだけはその+特殊技量アビリティが遺伝しなかった。


 僕の「+」は、医師いわく〝最盛期以降の不老〟なのだそうだ。



 まったくもってどうでもいい特殊技量アビリティが発現してしまったものだ。



      - † -



「…………」

 横目で父を見る。


 彼は未だ、見えない敵と戦っていた。

 刃物を持ってまさに戦を繰り広げている集団に、わざわざ襲い掛かろうという者はそういないだろう。それでも念には念をと、ずっと見張っているのだ。



 父は厳格で融通の利かない人だった。索田本家の当主であり、この武術大会の覇者でもある。

 決勝まで勝ち上がった者は最後に父と一戦交えることになるのだが、上がってきた者をことごとく倒し続け、二十年以上覇者の座を明け渡していないらしい。


 父が自ら語ることはない。全て手伝い人や親族が噂するのを聞いて知ったことだ。


 一方の母親は、はっきり言って気違いだった。僕の姿を遠くから捉えては発狂し、罵詈雑言ばりぞうごんの類いを浴びせてくる。


 そうかと思うと、近寄ったときには僕を惜しみなく愛でる。


 ついに母親は自分自身を傷つけるようになり、入水じゅすい自殺を決行しようとしたところを腰元に発見され、離れで療養することとなった――らしい。

 僕は経緯を家令から聞いただけなので、実際のところはよく分からない。


 そういうわけで、僕らの家では子育てを女中である腰元がする。僕が父親と会うのはこうした行事の日に限られていた。索田家総会合、武術大会、当主生誕日の祝宴会、新年の儀――の四回、計六日間だけだ。


 とはいえ物心がついたのはつい最近のことなので、今年の総会合と今日の武術大会の二回分しか父の記憶がない。そして母親とは、おそらくそれ以前から会っていない。


 だから僕には母の風貌が分からない。



 僕はいつでも部外者だったのだ。


 家族と他人の違いが何なのか、よく知らなかった。知らされてもいなかった。



 そもそも、これまで再三似ていないと言われてきている。この大会が始まる前だって、すぐ後ろの席でそういった噂話が交わされていた。


「前の子、素敵よ。外人さんみたいな子」

「一人だけ家族ではないみたいだな」

「確かに当主とは似ていらっしゃらないわね」

「はぁ……かわいらしいわ。お人形さんみたい」

「将来有望よ。あとでお近づきになりましょう」

「お前には俺がいるだろう」


 真後ろで話しているのだ。こんなもの聞こえるに決まっている。


 特に女性二人が気持ち悪かった。甲高い声に、絶えない話し声。せめて耳障みみざわりな「くすくす笑い」だけでも即刻やめてほしいと思った。



 父も鬱陶しいと思ったのか、眉間のしわをより深く刻んだのだった。




 そして僕はあと七か月程度もすれば、本家を追い出されることとなる。

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