1.幼少期  共に暮らす者の記憶

1-1   索敵

 ――――――――----‐‐


 すべての人間に当然のように備わっている力……特殊技量アビリティ


 ほとんどの者が特殊技量アビリティ」だ。


 しかし例外もいる。攻撃性が高く、人の優位に立つことができる力を持つ「強き者プリオリ」、複数の特殊技量アビリティを備え持つ「複数特殊技量マルチアビリティ」がそれだ。

 これら二つが共存している場合もある。それを後に「複合型」と名づけるのは僕だが、自分の生まれた索田家もそうだった。索田家は代々、強き者プリオリであり複数特殊技量マルチアビリティなのだ――――僕以外は。

 

 僕は母親によって目を傷つけられた。それゆえ僕は人生の途中から複合型ではなくなったのだ。


 まずはそこに繋がる話から始めよう。


 ――――――――----‐‐



 僕は元華族である由緒正しき血筋の本家に生まれた。


 索田家は代々、索敵能力の高い特殊技量アビリティを持つ。自らの敵が今どこでどうしているのか……代々続く〝黄金の瞳〟で見ることで、手に取るようにして分かるというものだ。

 具体的に言えば、利き目ではない方に「敵」の情景が映し出される。その目を使うことで、敵が背後から攻撃を仕掛けてくる様子や、隠れている場所まで全て分かるというものだった。


 これ類似した力は索田家以外の誰にもない。例えば火に関連したものであれば、火をおこす特殊技量アビリティ、火力を強めることができる特殊技量など、似たようなものはどこにでもある。しかし索田家にはそうしたかぶりがないのだ。


 もっと言えば、索田家はプラス特殊技量アビリティ――主の特殊技量以外に発現した力のことをこのように表記する――にも被りがない。ちょうど一族の武術大会があるので、様子を伝えながら説明しよう。



      - † -



「ちちうえ、あれはなんですか?」


 完璧に磨かれた刃物同士がぶつかり合うのを見ていて、ふと父親に尋ねた。打ち合っていた片方の刃が弾き飛んだ直後、後ろに控えていた人間がもう一つの武器を渡していた。



 僕は今、観客席で父親の隣に座っている。年は二歳。


 なぜ二歳の記憶が鮮明にあるのか――ご存知の通り、強き者プリオリ複数特殊技量マルチアビリティがそうだからだ。人よりも古くからの記憶を保持し、人よりも早く成長する。といっても、わずか一、二年の差である。


「日本刀だ」


 父は視線を一点に集中したまま答える。


 その目が見ていたのは視界に映るものではなかった。左の瞳だけが金色に輝き(オッドアイと同似た状態だ)、右目は虚空こくうを、左目は索田家と敵対する者がいるかどうかを


 これは索田家でなければ感覚が分からないものかもしれない。利き目ではない方を隠したときに多少似てはいる。隠した方の目には別の情景が見えていて、この状態のときは利き目だけで周囲――実際に存在するモノ――を見るのだ。


 父は武術大会など端から見ていない。専らしていた。

 要するに、不審者やテロリストがいないかどうかを常に見張っているのだ。


 それにしても、僕が聞きたかったのは刃物が何であるか、ではないのだ。

 日本刀のことはすでに知っていた。僕ら本家の人間は、大正時代に建て直した屋敷で暮らしている。日本刀ならばいくつも飾ってあったので、知らぬ間に刀のことを覚えていた。


「ちちうえ、日本刀ではないほうの――

「黙って見ていなさい」


 僕の質問は父親の一言で切り上げとなった。

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