第147話 「それじゃ、今度こそ依頼を受けてみますか」
「んんっ。失礼しました」
「ああ、いえ…はい」
何故か興奮して訳のわからない事言い出した受付嬢さんが落ち着くまで五分。
何とか落ち着いた受付嬢さんは登録時に必ずする説明をしてくれるそうだ。
「只今、冒険者証を作成中ですので、その待ち時間を使って説明させて頂きます。先ずは冒険者の等級について」
冒険者には等級制度がある。
登録時はF級。次がE級。
依頼をこなしていく事で等級が上がる。
依頼には難易度が設定されており、F級なら難易度Fの依頼しか受けれない。
「ただし、ギルドか依頼主からの指名依頼は別です。それとパーティーを組んだ場合はパーティー内で一番等級が高い人に合わせて受けれる依頼が変わります。此処まではよろしいですか?」
「はい」
そして、依頼を失敗した場合。
基本的には無報酬になるだけだが、失敗の理由があまりに酷かったり、立て続けに失敗すると等級が下がったり冒険者ギルドから登録が抹消されるそうだ。
「では次に、魔獣素材の取り扱いについてですが」
魔獣素材の買い取りは常時行われている。
全ての素材を買取ってくれるわけではないが、買い取り出来ない物でも処分はしてくれる。
魔石は必ず買取ってくれるので、魔石狙いでゴブリン狩りをする人もいるとか。
「そしてダンジョンですが」
ダンジョンには基本、冒険者以外でも入る事は出来る。
一部のダンジョンを除いて。
「最上級難易度のダンジョンの殆どはS級冒険者か国から認められ推薦された人物しか入る事が許されていません。S級冒険者パーティーでも死者を出すような危険な場所ですから。生き残っても一階か二階で諦めて帰還するパーティーが殆どです。冒険者ギルドとしてもお勧めしません」
これも父上から聞いていたが、どうやらそうらしい。
父上からも最上級ダンジョンには入るなと、念押しされている。
「S級冒険者パーティーになるパーティーが出るのが三年で一組だとしたら、最上級ダンジョンをクリアするパーティーが出るのは十年で一組あればいい方です。最上級ダンジョンをクリアした冒険者はSS級冒険者と認定され、クリアしたのが試練のダンジョンなら『勇者』の称号が与えられる事があるとか。『勇者』の称号を得た冒険者は此処百年の間、確認されていません」
『勇者』か。男としてはちょっと憧れる。
いや、その称号には男子なら誰でも一度は憧れるだろう。
『帝』に並ぶ力を与えてくれる称号で、もし『帝』を持つ者が『勇者』の称号を得たなら。
それは神に匹敵する存在になるだろうとまで言われている。
神話や物語にもよく登場し、正義の象徴、代名詞のような存在として描かれる。
ボクも子供の頃はそんな物語の勇者に憧れたものだ。
「最後に。冒険者には危険が付き物。仕事中に死亡してもギルドは一切の責任を負いかねます。よろしいですか?」
「はい」
勿論、死ぬつもりは無いが。
危険な依頼を率先して受けるつもりも無いし。
「とはいえ、アデルフォン王国には魔獣討伐のスペシャリスト集団、翠天騎士団が居ますからね。危険な魔獣は率先して排除してくれますから、この国の冒険者は死亡率が他国に比べて驚く程低いんです」
「知ってるよ、それは」
「一応はお仲間だもんねぇ」
「お仲間…?ああ、そう言えば。優秀な冒険者は翠天騎士団にスカウトされる事があるそうですよ。先日の武芸大会弓部門で優勝されたリーシャさんも、元冒険者だそうです」
そうだったのか。陛下のお話の後、実は会ったのだけど。それは聞かなったな。
因みに何故会ったのかと言うと。
リーシャさんには既に話をしたとの事なので、リーシャさんはどうするつもりなのか、聞きたかったからだ。
結論から言えば、リーシャさんは何も問題無かった。
リーシャさんはレティさんと同じく騎士爵を貰い、長年の彼氏と結婚するらしい。
既に入籍してるらしいので、流石に既婚者を無理矢理王族と結婚はさせないだろう、というわけだ。
「話が逸れましたが…以上です。何か御質問はありますか?」
「ボクは大丈夫です」
「ノルンもありません」
「……」フルフル
「それでは説明は以上です。これが冒険者証になります。再発行には銀貨三枚が必要になりますので無くさないようにしてください……ぷはっー!」
冒険者証を渡し終えた受付嬢さんは机に乗った自分のおっぱいに顔を埋めた。
…すごいな。どんだけデカいんだ。
「ジュン様?何処を見てるんですか?」
「あ、いや…」
「いやぁ…アレはしょうがなくない?」
「だな。女の私だってガン見しちゃうよ」
「スイカより重そうだね、そのおっぱい」
「アハハ…よく言われます」
よく言われますか、そうですか。
…そうでしょうね。言われるでしょうね。
「私、前の職場でやらかしまして…このおっぱいのせいで」
「はい?」
突然、受付嬢さんの独白が始まるらしい。
おっぱいでやらかした、とは一体?
「私、その…肩がよくこるんですよね。事務仕事だし。で、よくこう…ん〜!って身体を伸ばすんですよ。そしたらシャツのボタンがパアン!って弾けちゃって。そして運悪くそのボタンが依頼を出しに来てた、ガーデルマン子爵の御子息の眼に当たっちゃって。それはそれは御怒りに…」
「「「ああ…」」」
ガーデルマン子爵…ああ、以前アイシスさんに顎を砕かれた。
まぁ…ボタンが眼に当たったのは不幸な事故だし、誰も悪くは無いと思うが。
「でも、その御子息の評判は良くなくて。何かされる前に王都から此処グラウハウトに引っ越ししたんです。だからお金が無くって…此処でまた貴族様に何かしたらもう逃げられないし。緊張しました…」
「アハハ…御心配無く。ボクはボタンが眼に当たったくらいて怒ったりしませんよ。回復魔法も使えるし」
「良かったです…あ、でもジュン様なら特別に全部見せてあげても……」
「ジュン様、行きましょう」
「早速依頼を受けてみては?」
「あ、はい。それじゃ」
「あ、ちょっと…チッ」
何か受付嬢さんから舌打ちが聞こえた気がする。
あの人が此処に来たのって、他にも理由がありそ。
「依頼はあっちの掲示板に張り出されてますよ」
「あ、はい…ん?」
「よぉう!ちょいと待ちな兄ちゃん達!」
「あんたら、見たとこ新人だな!」
「なら先輩冒険者のあたいらが色々教えてやるよ!」
「なあにすぐ済む。着いて来て貰おうか」
ふむ…一見するとガラの悪い…冒険者というよりチンピラな四人の男女。
アイシスさん達は警戒してる感じだけど…問題なさそうだ。
「必要無いよ。怪我しない内に…」
「そうですか、ありがとう御座います。是非御教授願います」
「って、うぇぇ?ジュン!?なんで?」
「ようし!んじゃ、来いや!」
向かう先は…地下か。
人の気配はしないな。他に誰も居なさそうだ。
「(ちょっとジュン!何で大人しく着いて行くの!)」
「(そうですよ。こんな見るからにロクでなしな連中…きっとくだらない企みしか待っていませんよ)」
「……」コクコク
アイシスさんにティータさんにユフィールさんもか。
あの四人組を見た目通りの連中だと思ってるらしい。
「(大丈夫ですよ。此処は冒険者ギルドですよ?職員の方方々も止めませんし。きっと良い人達ですよ)」
「(…かっー!ダメだ。ジュン、世間知らずにも程があるよ)」
「(ま、まぁ今回は私達も居ますし、ジュンさんなら対処出来るでしょうけど…次はあんな怪しい連中に着いて行っちゃダメですよ?)」
えー…大丈夫だと思うけどなぁ。
悪人はボクも何人か見て来たけど、小綺麗な貴族の方がよっぽど悪い眼してましたよ?
「着いたぜ!」
「心の準備は良い?坊や達」
「はい。よろしくお願いします」
「(よろしくお願いしちゃうんだ…)」
「(まぁ、こういう経験を積むのも冒険者になる意味なんでしょ、グラウバーン家の教育方針的には)」
「(…そうだと思います。旦那様も、まさか初日からこうなるとは予想してなかったと思いますが)」
「(そんな事言ってると、後悔するかもよ?罪悪感で)」
で、一時間後。
「以上だ!」
「後は地道に経験を積んで行きな」
「お前さんは物覚えが良さそうだし、皆強そうだ。油断と慢心しなきゃ、きっと良い冒険者になる」
「頑張るんだよ!」
「ありがとうございました!」
「「「「「……」」」」」
いやぁ、実に良い講義だった。
グラウハウト周辺に生息する魔獣の情報。
薬草や山菜の見分け方。
ダンジョン内における鉄則等等。
ベテラン冒険者ならではの知識を惜しみなく教えてくれた。
「何かわからない事があったらいつでも来な」
「飯でも食いながら教えてやっから」
「じゃ、またな」
「じゃあな。いつかはお前達も新人に教えてやれよ」
と、言って四人組は去って行った。
後で聞いた話では彼らはB級冒険者でグラウハウトで一番のベテラン冒険者パーティーだそうだ。
「…私、人を見る目には自信があったんだけどな」
「私も…見た目に惑わされ過ぎたわね」
「ノルンも反省します。でも、それならそれで、あの人達ももう少し良い人に見える見た目をしてくれれば…」
「全くだね」
「……」コクコク
ま、それは確かにね。
でも、舐められないようにわざと怖がられるような見た目をしてる冒険者は多いって、父上も言ってたし。
人は見た目で判断しちゃいけないよね。
「それじゃ、今度こそ依頼を受けてみますか」
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