第146話 「すみませーん!受付嬢、チェンジで!」
「此処が冒険者ギルドねぇ…外から見える範囲じゃ、むさいオッサンばかりじゃん」
「そりゃそうなるだろうね」
「冒険者なんて、基本は荒事がメインの仕事だもの。他の仕事に比べて死亡率も高いし、本当なら公爵家の嫡男がやる仕事じゃないのよ」
「だよねぇ。ほんとにやんの?ジュンちゃん」
「勿論です。ボクは楽しみにしてましたよ?」
武芸大会から二ヶ月ちょっと。ジュンが成人した。
そして今日、ジュンは以前から言ってた通りに、グラウハウトの冒険者ギルドで冒険者登録をしに来たわけだ。
「というか…何故皆さんが付いて来てるのです?ジュン様のお供はノルンだけで十分なのですが」
「まぁまぁ。硬い事言わない。あたしらジュンちゃんの婚約者仲間じゃん?ねぇ、ティータ」
「え、ええ…騎士の仕事もあるから、毎回は手伝えませんが、手すきの時は一緒にやれます」
「婚約者(仮)でしょう…皆さんは」
陛下のお話の後、ノルンを交えて話し合いをした。
結果、取り敢えずは陛下の仰る通りに婚約者という事にして、本当に結婚するかは色々落ち着いてから考えよう、となった。
だけど、私もティータもレティも。
絶対に婚約を解消する気は無い。そりゃあもう絶対にだ。
「…はぁ。大体、婚約者云々を言うのならダイナさんは参加資格が無いのでは?」
「冷たい事言わないでよ、ノルンちゃん。私だけ仲間外れとか、寂しいじゃん」
「はぁ…」
うん…まぁ確かにダイナだけ仲間外れなのはな。
やっぱりジュンにはダイナも婚約者…身分的に妾にしかなれないだろうけど、妾にするように言おう。
「そろそろ入りましょう。皆さんは登録するんですか?」
「いえ、私達は以前に済ませてあります」
「あたし達も、任務で魔獣と討伐とか、偶にあるしね」
「行軍中に出くわした魔獣を倒したりね。そうやって得た魔獣の素材を売る時の為に、冒険者ギルドに登録したんだよ」
「ま、あんましやらないし、依頼を受けた事は無いから等級は登録時のまんまだけどね」
でも、それが良い臨時収入になったりするんだよね。
通りすがりにドラゴンを倒して換金した時はウマかったなぁ。
「普通の人は通りすがりにドラゴンを倒したりしないけどね…ほら、登録はあの受付だよ」
「ノルンちゃんも登録するんでしょ?」
「はい……ジュ、ジュン様、後ろを…」
「え?…うわぁ!ユフィールさん!?」
「……」
こ、こいつ…またしても私に察知されずに接近した…どうなってんだ、こいつの気配の消し方は。
「それより。なんでお前が此処に居るんだ」
「そうですよ。ユフィールさんがグラウハウトに来るなんて連絡は受けて……これは?手紙ですか?」
「……」コクコク
「だから喋れって…」
相変わらずの無口…いや、二ヶ月程度で早々変わったりしないだろうけどさ。
「で?誰からの手紙?」
「グレイル様…ロックハート公爵様からです。要約すると、ユフィールさんも冒険者として活動する事になったから、暫く一緒に行動してくれ、との事です」
「はぁ!?」
「……」ニヤニヤ
こ、こいつ…ジュンが成人したら冒険者登録するって話を知ってたのか。
それで此処で待ち伏せして…いや、待て。
何故、今日登録するって知ってた。今日はジュンの誕生日じゃないぞ。
「…ずっと、此処で待ってた」
「ずっと?もしかしてジュンの誕生日から今日まで?」
「……」コックリ
「アホだろう?」
今日はジュンの誕生日から四日過ぎてる。
その間、ずっと此処に?アホ過ぎる。
「…登録、しよ?」
「あ、まだユフィールさんも登録してないんですね。行きましょうか」
「はぁ…また増えた…」
うん、今回は同意するぞ、ノルン。
やはりユフィールはどうにかして排除せねば…!
「すみません、登録したいのですが」
「うひゃ、美少年……は、はい、登録ですね…あら、貴女!やっと登録するの?」
「……」コックリ
「そっかぁ。ずっーとギルド内に居るだけで一言も喋らないから皆怖がってたのよねぇ。あ、お友達が来るのを待ってたのね?でも約束の日を四日も間違えるなんて。慌てん坊さんね」
そういう問題だろうか?絶対に違うと思うのだが?
「はい、それじゃ、この用紙に名前と年齢、所持してるアビリティを書いて。全部は書かなくても構わないけど、嘘を書いちゃダメよ。後で嘘を書いてるかどうか、魔法道具で判別するからね」
「はい」
「後ろの美人さん達は?付き添いのお姉さんかしら?登録は?」
「私達は登録済みです。付き添いには変わらないですが」
…私の時もこんなだったっけな。
ステータスボードをチェックされる事は無かったと思うんだけど…多分。
「ところで、貴方の肩に居る鳥は魔獣かしら?」
「あ、いえ…魔獣ではなく精霊の一種です」
『ピピ』
「そうなの?じゃあ従魔登録の必要は無いわね」
嘘だけどね。
でも古代文明の遺物から生まれた魔法生物だって説明しても、わかってもらえないだろうしね。
「書けました」
「……」
「ボクもです」
「はいはい、確認しますね…ノルン・ハーディー、十四歳…あ、あら?もしかして貴族様?」
「親が死んだから受け継いだだけの、末端の騎士爵です。お気になさらず」
「は、はい…書類に不備は…ありませんね、はい」
今、初めてノルンの家名を聞いたよ。
自己紹介でもノルンとしか名乗らなかったし。
家名…嫌いなのかな?
「お次は…ユフィール・ロックハート…ロックハート?え、お、うえぇぇ!?ま、まさかロックハート公爵家の!?」
「……」コックリ
「えええ!?ロックハート公爵家と言えば王都で居を構えるアデルフォン王国貴族の中でも重鎮じゃないですか!私、先月まで王都の冒険者ギルドに居たから知ってるんですよ!」
個人情報漏らし過ぎだな、おい。声デカ過ぎだろ。
デカいのは、そのおっぱいだけでいいぞ、受付嬢。
「貴女、声が大きすぎるのでは?」
「あ、す、すみません…あまりに予想外の大物の登場に…だ、だって冒険者ギルドで四日間も待ちぼうけしてた女のコが公爵令嬢だなんて、思わないじゃないですか…」
ティータに叱られてシュンとする受付嬢。
まぁ、それはわからないでも…でも、最後のジュンが一番の大物なんだけどな。
「さ、最後は…ジュン・グラウバーン?へ?あれ?此処の領主様もグラウバーンでしたよね?しかも『全魔法LV10』って……ま、ままま、まさか魔帝!?史上最年少で『帝』に至った天才!魔帝なのに武芸大会を剣で優勝!…街を歩けば千人中一万人が振り返ると噂の超絶美少年!?あの魔帝!?ほんとに!?」
「えっと……まぁ、はい。魔帝の称号を持ってるのは確かです。はは…」
「はわ……はわはわ…はわわ!?」
大丈夫か、この人。
すっごい顔赤くして震えてるけど。
いや、わからなくもないけどね?
ジュン程の美少年を前にしたらそうなるのはさ。
「や、やだ、私ったら…こんなダサい服装で…都会派を自認してたのに…あー!どうせ冒険者なんて野暮ったいガサツな連中しか居なくて気合入れた服装するのも馬鹿らしくて化粧も手抜きなんだよなー!あー!どーして私はオシャレしなかったのかなー!」
「知らんがな」
何だ、このお姉さん…美人だとは思うけど…変なヤツ。
「すみません!」
「は、はい?」
「せめてお化粧を直させてください!そして後でサインください!出来れば記念にハグも!そしてもしも許されるなら!私の家で食事とかどうですか!自慢の手料理を披露します!そして朝日を一緒に!モーニングコーヒーも出しますから!あ、残念ながら私のミルクはまだ出せませんが!」
「すみませーん!受付嬢、チェンジで!」
ほんとに何なんだ、この受付嬢…絶対に変なヤツだよ。
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