第145話 「団長、時間です」
「団長、時間です」
「それじゃ始めるわ。第一ニ回ジュン君と結婚大作戦会議を」
武芸大会が終わって約二週間。
グラウハウトに帰る直前、ボクとアイシスさんは婚約する事を父上を始め、周りに伝え公表した。
そして流れで、と言ってしまえば失礼極まりないが、ティータさんとレティさんも婚約者になった事と、その経緯を話した。
最初、ボクとアイシスさん達が婚約した事を聞いたラティスさん達は非常に御怒りになり…婚約に至った理由と陛下の承認を頂いていると聞いて、ようやく落ち着いてくれた。
が、しかし。
落ち着いてくれたものの、それで引き下がったりしなかった。
ラティスさん達白天騎士団の主要人物、セーラさん達貴族令嬢チームが手を組んだのだ。
こうなっては仕方無い、自分達もどうにか婚約者にならねばと。
その為の会議を、グラウハウトに帰ってから連日開催。あれやこれやと議論を重ねている。
「というかですね。何故その会議にボクが出席しないとダメなんです」
「決まってるじゃない。アピールの一環よ」
「私達が如何に本気か。この会議に参加してれば伝わるでしょ?」
「…何度も言いますが、ボクはこれ以上婚約者を増やすつもりはありませんよ」
「「「「「却下」」」」」
「却下って…」
何故に皆さんが決めるので?
ボクが婚約者を増やす増やさないはボクに決定権がある筈…
「アイシスはおろかティータとレティまで婚約したのに私だけダメとかありえないし」
「それに…あまり言いたくはないけれど、ティータさんは準男爵でレティさんは騎士爵。公爵家嫡男のジュン君の婚約者になるにしては、家格が低過ぎるのよ。周りからは妾としか思われないでしょうね」
「家格が釣り合うのは子爵令嬢のアイシスのみ。それもギリギリだし。なら後ニ、三人は側室が居てもいい。というか、分家が存在しないグラウバーン家にはジュン君が側室を娶るのは必須。爵位持ちならなお良い。つまり私なんか丁度良い相手だと思わない?」
言ってる事はわかりますけど。
父上より年上の女性を妻にするとか…些かハードルが高いです、ラティスさん。
「ハッハッハッ!モテ過ぎるのも困ったもんじゃのう!」
「そういう貴女は何で参加してるんです?まさか…」
「単なる暇潰しじゃ。仕方無いとはいえ武芸大会には連れてってもらえなんだからのぅ。折角良い男と巡り会うチャンスじゃったのに」
グラウバーン家の居城を守護すると決めたカラミティは少しずつ力を蓄えているらしい。
その代わりに、グラウハウトから離れ過ぎると力が弱まるのだとか。
故に、王都には連れて行かなかった。
そうでなくても、守護聖霊を連れてるなんて知られたらどうなるかわからないし。
陛下はともかく、例のボク達を取り込もうとしてる王族の方に知られたら、献上しろとか言われかねないし。
それは流石に困る。
「そうじゃ。聞きたかったんじゃがな」
「何です?」
「あの幼女メイド…なんぞあったのか?」
幼女メイド…サラの事か。
「あの娘、王都の屋敷で働くのでは無かったのか?何故に連れ帰っとるんじゃ?」
「…色々あったんですよ」
「その色々を聞かせろと言っとるんじゃ」
「…ま、本人も隠してないみたいだから、お話しますけどね」
サラはアイシスさんに付いて、グラウハウトに戻っていた。愛犬のキンタローも一緒に、だ。
理由は二つ。
一つ、サラは王都では少し暮らしにくくなった事。
あの貴族邸連続襲撃事件の実行犯の中で、唯一素顔を晒したのはサラにそっくりな女のコのみ。
当然、騎士団の捜査はサラのそっくりさんを重点に置く。
そうなると、間違えてサラを捕まえようとする人物が出て来るかもしれない。
そうでなくても、ニルヴァーナ家のメイド達が襲撃犯とサラの顔がそっくりなのを見ている。
サラの事をよく知らない者からすればサラに不信感を寄せるのもわかる。
だけどサラからすれば居心地悪い事この上ないだろう。
そして二つ目。
サラが強くなりたいと言い出した事。
グラウハウトに来てから、サラは多少だが訓練は受けていた。
その時は真面目にやってはいても、ただ言われた通りにしてるだけで、真剣に打ち込んでいるわけでも無かった。
だが犯罪者集団の一人に、自分とそっくりな人物が居て、天涯孤独だと思ってた自分の姉妹かもしれないと思ったサラは力を欲した。
犯罪者集団から姉妹を取り返す、その為には力が必要だ。
サラはそう考え、アイシスさんとボクに強くして欲しいと願った。
以上が、サラがグラウハウトまで来た理由だ。
「ほぉん…なるほどのぉ。ほんに、辛い人生を歩んでおるのぉ。しかし、今はアイシスではなく、ノルンが鍛えておるようじゃが?」
「ええ。サラには剣術よりも忍術の方が向いているらしいです。アイシスさんは主に模擬戦と体力作りで指導してます」
「で、お主が魔法か。魔法の才はどうなのじゃ?」
「中々ですよ。かなり飲み込みが速いです。適正属性も三つありましたし」
「ほう?それは中々どころかかなりの才ではないか?」
そうかもしれない。
もっと早くから訓練していれば、今頃は領軍の魔法兵と遜色ない実力を手に入れてかも。
「ちょっとジュン君!聞いてる!?」
「あ、ああ、すみません」
「…お主も大変じゃの。それにしても、こやつらは何を焦っておるのじゃ?お主との結婚なぞ、今決めたとしとも、まだ先の話じゃろうに」
「…実際にボクに婚約者が出来たからでしょうね。あと、もう少ししたらボクは冒険者登録をして、活動を始めるので。此処から離れる機会が多くなりますから」
「それで焦っとると?しょーもないのー。妾みたいにデンっと構えておれば良いものを」
「…結婚したいというだけの執念で守護聖霊にまでなった人が言うと重みが違いますね」
「であろ?わかっとるのーお主!」
皮肉を言ったつもり何ですけどね。
まぁいい…それよりも、だ。
「やはり、もう手段を選んでいる場合ではないのでは?」
「そうね…ロックハート公爵令嬢も、ニューゲイト公爵家も動き出したらしいし…」
「噂によると、タッカー侯爵家も動き出したとか」
「タッカー侯爵まで?拙いわね。ライバルが増える一方じゃない」
「やはり、先に子供を作ってしまうべきでは?」
「デキ婚ですか…でも、それは最終手段ですよね?」
「今がその最終手段の使い時では?」
目の前の会話が怖い。
特にルクレツィアさんが。
何故、本人を目の前にして、そんな会話が出来るのか。
「大変じゃのう…」
「ええ、ほんと」
ほんと、勘弁してください…
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