第139話 「その決闘受けるよ」

「「「「ジュン様ー!サイコーです!」」」」


「ジュン君ー!カッコ良いわよー!」


「やはり紅天騎士団に入りませんことー!」


「いや!是非翠天騎士団に来てくれ!」


「蒼天騎士団も歓迎しよう!」


「よくやったな魔帝!約束通り、今日からフィルのともだちにしてやる!」


 ボクの優勝が宣言された瞬間。

観客席から祝福の声が聞こえる。


 大半が女性で、男友達の声がほぼ無いのは少し寂しい気がするが…祝福の声というのは、やはり嬉しいものだ。


「おーおー…全く、すげぇ人気だな、おい」


「ハハハ…声が大きいのはうちのメイド達ですけどね」


「メイドかぁ…俺様もメイドを侍らす生活が待ってる筈だったんだがなぁ」


「…S級冒険者になれば、その稼ぎでメイドくらい雇えますよ」


「だな。そうすっかな……なんか、騒がしいな?」


 ノーグさんが視線を送る方を見ると、大会の運営員が騒いでいる。


 誰かを押し止めようとしてるみたいだが…そいつは強引に運営員を押しのけ、舞台上のボクの側まで来た。


 そいつの正体は…


「ナッシュ…」


「ふぅー…ふぅー…ジュン・グラウバーン!俺はぁお前ぇにぃ!決闘をぉ!申し込むぅぅ!」


 少しばかり、呂律の回らない舌で大声を出しながら。

ナッシュはボクに、決闘を挑んできた。


 ロイエンタール団長の話では昨日から姿を消していたらしいが…何処に隠れていた?


 いや、それよりも…ナッシュから何か異常なモノを感じる…一体何だ?


「何だ、こいつ…何か危ねえ感じだな」


「ええ。ノーグさんは下がっててください」


「…ああ。お前に用があるみたいだしな」


「アイシスさん達も。取り敢えずはボクに任せてください」


「えー…あいつ正気じゃないっぽいよ?」


 ナッシュの異常に気付いたのだろう。

アイシスさん達は武器を構え、ナッシュに向けている。


 ユフィールさんも、大会の警備を任されている騎士もだ。


「ナッシュ!貴様、一体何をしている!今まで何処に居た!」


「お。親玉登場」


「アイシス…やめなさい」


 ナッシュの父親、カルロ・カークランド辺境伯だ。

ナッシュの姿を見て、慌ててやって来た。


 傍には家臣の騎士と、長男のダニエルさんと思しき人物がいる。


「ナッシュ!お前は謹慎中の身だ!それがこんな…決闘など、巫山戯た真似は許さん!こっちへ来い!」


「ナッシュ!お前はどれだけ父上を失望させる気だ!大人しく下がれ!」


「うるさいぃぃぃ!!」


 ナッシュが怪しげで、妙な気配を放つ剣を抜き、振るう。


 それだけで衝撃が生まれ、まだ離れた位置に居たカークランド辺境伯達に尻もちを着かせる。


「う、うぅ…ナッシュ…」


「心配いらないぞぉ、父上ぇ!この剣が、これがあれば!必ず勝てるぅ!」


「ナッシュ…」


 …どうやらナッシュの異常の原因はあの剣にありそうだ。

あの剣は一体なんだ?魔剣か?


「ジュン様、御下がりください」


「此処は私達が」


「お前は俺の後ろにいろ」


 父上に、セバスチャンとノルンにメリーアン達が観客席から降りて、側まで来ていた。


 やや遅れて、ラティスさん達七天騎士団の団長達も。


「ジュン君、彼の事は私達に任せなさい」


「アレは明らかに普通じゃありませんわ」


「幸いな事に、此処には手練が揃っている。瞬時に制圧して見せるから、安心したまえ」


「私一人で十分だがな」


 そして、セーラさん達とミゲルさん達までもが降りて来た。


 ミゲルさん達はともかく、セーラさん達は危険ですよ?


「ナッシュ!あんたって人は…何処までも恥知らずな男ね!」


「よくわからんが、ジュンは俺達の主でダチだ!受ける必要の無い決闘なんてさせねぇよ!」


 そして最後には観客達も、ナッシュに敵意を向け罵声を浴びせ始める。


 観客席に居た冒険者達も武器を手にナッシュを囲み始めた。


 それでもナッシュはボクを睨み続ける。

いや、より一層、憎しみが強くなったように見える。


「まただぁ…またお前がぁ…どうして、どうしてだぁ!どうしてお前なんだぁ!どうして俺じゃないんだぁ!」


「…?何がだ?」


「決闘だぁ!決闘を受けろぉ!そして俺はぁ!お前の全てを、俺のモノにぃ!」


「ナッシュ…バカな真似はやめろ!目を覚ませ!」


 …決闘?その為に、こんな?

どうしてそこまでボクを憎むのか知らない。

決闘を受ける必要も無い。


 だけど…カークランド辺境伯の悲痛に歪む顔を見てたら…


「…良いよ、ナッシュ。その決闘受けるよ」


「ジュン君!?」


「ジュン様!決闘なんてダメです!」


 当然、皆は反対するよね。


 でも…確か決闘を受けた時の正式な返事はこうだったか。


「我!ジュン・グラウバーンは!王国の法に則り!ナッシュ・カークランドの決闘の申し入れを受け!正々堂々と戦う!」


「あ、バカ!」


 決闘…つまりは命のやり取りをする事に等しい。

武芸大会の舞台で、大勢の人の前で名乗りを挙げた以上、もうやるしかない。


 それはナッシュも同じだ。


「はぁ…ジュン、帰ったら説教だ」


「…はい」


 当然、父上はお怒りだ。

父上だけじゃなく、ノルンもだが。


「…ジュン様~?」


「…フルーツパーラー『マーガレット』のケーキセットでどうだろう」


「…膝枕と頭ナデナデも要求します」


「…了解」


 ノルンはこれで良し。後は…ラティスさん達か。


「ジュン君…どうして決闘なんて受けたの?」


「彼の者は明らかに異常ですわ。それなのに…」


「わかってます。ですが、恐らくナッシュは何者かの思惑に乗って此処に居る。だとするなら此処に戦力を集中させるのは危険です。七天騎士団の皆さんは陛下達を護ってください」


 ナッシュには何者かが協力してる。

それは確かだ。ならばその何者かの狙いは?


 最も警戒しなければならないのは王家の方々が狙われる事だ。


 恐らくはロイエンタール団長や黒天騎士団が既に護りに入ってると思うが。


「…仕方ないね。此処は私に任せてラティスとクリスは陛下のお側に。ネーナは観客を護れ」


「ちょっとリーン!?」


「どうしてそうなるんですの!?」


「落ち着け。周りを見ろ、周りを」


 観客席に居た七天騎士団の団員達…白天騎士団と蒼天騎士団は陛下達の下へ走り、観客席には紅天騎士団が結界を張っている。


 そして翠天騎士団は舞台周辺に居る父上やカークランド辺境伯家の面々、非戦闘員の運営員を守るように位置取ってる。


「王家の護衛が主任務だろう、白天騎士団と蒼天騎士団は。部下達は何も言わずとも動いているだろう。お前達も行け」


「ぐっ…」


「仕方ない…ジュン殿!気をつけたまえよ!」


 ナッシュの異常さは皆が感じている。

それでなくても王都は連日事件続き…七天騎士団は何も言わなくても己が役目を全うすべく動いていた。


 流石はアデルフォン王国最高峰の騎士団だ。


「ん~~…ま、ジュンなら大丈夫か。ボッコボコにしちゃえ!」


「ちょっとアイシス…ああ、もう!ジュンさん、十分に注意を!」


「無理しちゃダメだからね!」


「……気を付けて」


「はい。大丈夫です」


 確かに、今のナッシュは異常だ。

だが、だからといって負ける気はしないし、そのつもりもない。


「さぁ、ナッシュ!折角お誂え向きの舞台があるんだ!上がって来い!」


「ふぅー…ふぅー…」


 ナッシュが上がって来るのを見てボクの周りに居た皆も下がる。


 ただし、いつでも割って入れるよう、武器は構えたままだが。


「…スゥ~ハァ…ジュン・グラウバーン!」


「…ナッシュ・カークランドォ!」


「いざ!」


「勝負だぁ!」


 さぁ、来い!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る