第138話 「とっておきを見せてやる!」

「おめでと〜ティータ」


「やったな、ティータ」


「ありがとう、二人共」


「…おめでとう」


「ユフィールさんも、ありがとう」


 ダインさんに勝利したティータさんはまだまだ余力があるように見えるが、身体中に傷が出来、魔法道具は三つ点灯している。


 終盤のダインさんの猛攻で結構なダメージを負っていた。


「あっ…傷が…」


「はい、もう大丈夫ですよ。優勝おめでとう御座います、ティータさん」


「ありがとうございます」


 さて…残るは剣部門の決勝のみ。

つまりは…ボクの出番だ。


「…まさかダインに勝つとはな。やるじゃねぇか、あんた」


「…ありがとうございます。ダインさんの処へ行かなくて良いのですか?」


「おっと、そうだった。あいつの獣化を解いてやらねぇと」


 と、言ってノーグさんは離れて行った。

駆け付けた先は気絶してタンカで運ばれるダインさんの下なんだげど…何故にバナナを持って?


「ほ〜れ、ダイン、バナナだぞ。食え」


「き、君。彼は気絶しているんだぞ。バナナなど食べれるわけが…」


「しゃあねぇだろ。こうしないと正気に戻らねぇんだから。おら、食え」


 …もしかして、バナナを食べる事が『獣化』を解除する条件?


「あーもう、めんどくせぇ…おら!」


「ぐもっ!?」


 無理矢理ダインさんの口を開けて、バナナを口に入れた…気絶してる人にそんな事したら、下手したら窒息してそのまま帰らぬ人になっちゃうけど…大丈夫かな?


「…モグモグ…あぁ、美味い…」


「…毎度思うんだが、別の方法に変更出来ねぇのか?これ」


「悪いな。出来んのだ。…で、どうやら俺は負けたようだな」


「…ああ。だが安心しな。俺様が優勝してお前の無念は晴らしてやるぜ」


「…ああ。頼んだぞ」


 どうやら本当にバナナを食べる事が解除条件だったらしい。


 何故、そんな条件にしたんだか。

聞いてみたい気もするけど、試合の時間だ。


「じゃあ、行って来ます」


「優勝したら私のパフパフが待ってるぞ!」


「なんなら白天騎士団全員のパフパフでも良いよ」


「良くないわよ、レティ…頑張って下さい、ジュンさん」


「…頑張って」


 そう言えばそんな事言ってましたね…ま、それはどうでもいいんですけど。


『さぁ、武芸大会本選決勝も残りは剣部門決勝のみ!戦うは本大会屈指の人気を誇るジュン・グラウバーン!そして『龍殺し』の異名を持つ冒険者ノーグ!両者、舞台へ!』


 これまでの試合でボロボロになった舞台へ。

そして対面側に居るノーグさんを見て、驚いた。

昨日までとは武器が違う。


 ダインさんと同じく、アレがいつも愛用してる剣なのだろう。


 その剣はドラゴンスレイヤーと呼ばれる類の大剣で、ノーグさんの身長と同程度…もしかしたらノーグさんよりも大きいかもしれない大剣だ。


 それを持っているのは、良い。

そこまでは良いんだ。だが、問題は彼がそんな大剣を二本持っているという事だ。


「驚いてるみてぇだな」


「…ええ。もしかしなくても、その大剣を使った二刀流が貴方本来のスタイルですか」


「おうよ。今までの奴は剣一本で余裕だったからな。お前にも必要無いと思ったんたが、ま、決勝戦だしな。折角だから本気を出してやろうと思ってな」


「…そうですか」


 どうやら本気であの大剣の二刀流で戦うつもりらしい。


 あんな大剣、常人なら両手で持ってもフラついて、まともに振れないと思うけど…


『剣部門決勝!試合開始です!』


「おっし!どっからでもかかってきやがれ!」


 これまでの試合もそうだったが、意外にもノーグさんは先制攻撃をしない。

必ず相手に先手を取らせてる。


 それが作戦なのか、自信の現れか、単なる自惚れか。

それはわからないが…折角だ。先制攻撃はさせてもらう!


「って!いきなりそれかよ!」


 スキル飛燕剣の連射だ。

ボクの剣ではドラゴンスレイヤーとは刀身の長さがまるで違う。


 ノーグさんの方が背も高い分、手も長いだろう。

ならばノーグさんの方が攻撃範囲が圧倒的に広い。


 だが飛ぶ斬撃、飛燕剣なら関係ない。

むしろ飛燕剣なら素早く剣を振れるボクの方が有利!


「しゃらくせぇ!」


 だが、それはノーグさんには子供の浅知恵に見えたのか。

実際、鼻で笑い簡単に切り払われてしまった。


「これで終わりか?」


「まさか」


 やはり剣帝に勝てると豪語するだけはある。

距離を取っての飛燕剣での攻撃のみでは勝てそうにない。


 ならば…


「ほう?スキル、天剣か。接近戦をやろうてんだな?」


「ええ!」


 ノーグさんのドラゴンスレイヤーは長い。

故に懐に入ってしまえば!


「とか、考えてるんだろうがな!そいつは甘い考え…何!」


「そうでもないでしょう?」


 今までの相手なら、懐に入る前に斬り伏せる事が出来たし、仮に入られても躱す自信があったのだろう。


 その油断が命取り…いや、殺す気は無いけど。


 一瞬で懐に入り胴に一閃、浅くだが一撃。ダメージを与える事が出来た。

これで魔法道具が一つ点灯。残り四箇所だ。


「良いぞ!ジュン!そのままやっちゃえ!」


「「「「「ジュン様ー!ステキー!」」」」」


 アイシスさんとメイド達の応援が聞こえるが、それに応える事は出来ない。


 血を流してはいても、ノーグさんの眼は鋭くボクを見ているのだから。


「やるな…とんでもなく速いじゃねぇか。ダインよりもずっとはえぇ…魔帝のクセに決勝まで来るわけだぜ」


「お褒め頂き恐縮です」


「…ふん。じゃ、今度はこっちから行くぜ!」


 先制された事で、漸く本気になったらしい。

鳥が翼を拡げて威嚇するような、そんな独特の構えを取ったノーグさんは、さっきまでとは明らかに違う。


 ここからが本番…だな。


「一つ、忠告しておいてやる」


「…なんでしょう?」


「俺様はアビリティ『剛力』を持ってる。だから剣で防いでも、骨くらい簡単に折れる。並の剣なら剣ごと両断出来るしな。その剣なら大丈夫だろうが。兎に角、避ける事をオススメするぜ」


「…御忠告、感謝します」


 アビリティ『剛力』か。

ティータさんが持つ『筋力強化(小)』よりも上位のアビリティ。


 自身のパワーを大幅に強化してくれるアビリティだ。

それがあれば…なるほど、あんな大剣を片手で扱えるのも納得だ。


 まぁ…ボクとアイシスさんも出来ると思うが。


 しかし、そんなアビリティを持ってるのに、殺人が禁止の試合で、ドラゴンスレイヤーなんて大剣を使うとはね。


 手加減出来ないでしょ、それ。


「更にサービスしてやる。俺様はアビリティ『精密動作』を持ってる。こんな大剣を持ってても、怪我に留めてやるから安心しな」


「…そうですか」


 ボクが考えてる事がわかったのか、更に自分の能力を、自分から教えてくれる。


 アビリティ『精密動作』…確か物凄く細やかな動き、器用で精密な動きが出来るようになるアビリティだったかな。


 あんな大剣でもボクを殺す事無く勝てると、そう言いたいらしい。


「じゃあ…行くぜ!」


 宣言と同時にノーグさんはジャンプ。

空中から左の剣を振り下ろす。


 ボクはそれを受けずに回避。

ノーグさんの剣は舞台の石畳に突き刺さる。


 ボクはノーグさんが着地した瞬間を狙おうとしたが…


「おおらぁ!」


 石畳に刺さったままの剣を使い…まるで側転をするかのように回転。


 大きく弧を描き、右の剣を振って来た。


 それも受けずに回避…というより、あんな重量のある剣をあんな遠心力も乗った攻撃を剣で受けたら、ダメージは受けなくても飛ばされてしまいそうだ。


 二撃目も躱されたノーグさんは左の剣を引き抜き、また独特の構えをとった。


 次はどうでる?また同じ攻撃パターンで来るか?


「だぁらぁ!」


 ジャンプするまでは同じだが、今度は片方ずつ振るのでは無く、空中で風車のように両手を拡げ身体ごと回転。

そのままボクに向かって飛んで来た。


 地面に対して斜めに飛んで来たノーグさんの剣は石畳を斬りつけ、深い亀裂が走る。


 厚さ1mはありそうなのに、その斬撃は石畳よりも更に深くまで届いていそうだ。


 このまま回避の一手じゃ、ダメだな。


 ノーグさんが着地した瞬間、距離を詰める!


「そう来ると思ったぜ!スキル!千刃!」


 ボクが距離を詰めるのをわかっていたノーグさんは二刀流で千刃を放つ。


 だが…


「…な、何ぃ!居ねぇ!?」


「左です!」


 ボクもまた、ノーグさんが距離を詰めるボクを迎撃しようとする事はわかっていた。


「スキル!千刃!」


「う、うおお!?」


 咄嗟に両手のドラゴンスレイヤーを盾にする事で、ボクの攻撃を防いだノーグさんは辛うじて右腕の魔法道具のみ、点灯を免れた。


 左腕、左脚、右脚の魔法道具は点灯。

更に傷も負わせる事に成功。

これでノーグさんは崖っぷちだ。


「て、てめぇ…俺様を此処まで追い詰めるとは…」


「鍛えられましたから。白天騎士団の皆さんや、そこに居る剣帝に」


「…ちぃ。剣帝とやるまで見せたく無かったんだが…仕方ねぇ。俺様のとっておきを見せてやる!」


 やはり、あるのか。

ノーグさんは確かに強い。

だが此処までのノーグさんは、特殊なスタイルの剣士というだけで、剣帝に勝てると言える程じゃなかった。


 ならば、その自信の源となる何か…それがまだあるはずだ。


 ダインさんの『獣化』のような。


「見て腰を抜かすんじゃねぇぞ!おらぁ!」


「…ん?え?」


「「「どうだ!これが俺様の切り札!アビリティ『分身』だ!」」」


 ノーグさんが光ったと思ったら、ノーグさんが三人に増えた…これは一体?


 ノルンが使うアビリティ『忍術』にも分身というスキルがある。


 だけどアレは実体の無い幻を出すようなスキルで、自分と同じ姿をした偽者を出すだけのスキル。


 偽者は喋れないし、影が無いから見分けるのも簡単だ。


 だが目の前のノーグさんは全てに影があるし、喋ってる。

全て本者に見えてしまう…


「「「困惑してるみたいだなぁ」」」


「…ええ。三人の内、一人だけが本者で他は偽者。そんな単純な話でも無さそうなので」


「「「そうでもねぇ。三人の内、本者の俺様は一人だけさ。ただし、他の二人も本者の俺様と同等の力と実体を持ってる。だから偽者から攻撃を受けたらダメージを受ける。精々気をつけるこった…な!」」」


「くっ!」


 早い話が、ここからは実質3対1か!

しかも、それぞれが個別の思考で動いている!

正面と左右から同時に襲ってくる!


「何だよ、あれ!あんなの有りか!?」


「反則…では無いわね。魔法は使ってないし、アレはあくまでアビリティ。戦ってるのはノーグ一人なのは違わない」


「なるほろ…あんなアビリティがあれば剣帝に勝てるって思えるよねー」


 確かに…これがノーグさんの自信の源。

凄いアビリティだ。自信を持つのも頷ける。


「「「おら!おらおら!おらぁ!」」」


 三人同時に二刀流で襲ってくる…六本のドラゴンスレイヤーが。


 それも最低でも『剣術LV8』を持つ凄腕の剣士が。

並の相手じゃ瞬殺だろう。ボクも躱すので必死だ。


 だが…逆に言えば躱す事は出来ているのだ。


「「「な、なんでだ…なんであたらねぇ!」」」


 躱す。


「「「だぁ!」」」


 躱す。


「「「くそっ…スキル!飛燕剣!」」」


 躱す。


「「「これも躱しやがるか!なら…スキル!神速斬り!」」」


 躱す。


 確かに『分身』は凄いアビリティだ。

自信を持つのもわかる。だが相手が悪かった。


 人間の限界を超えたステータスを持つボクでなければ大抵の人間に勝てるだろう。


「「「はぁ…はぁ…」」」


 『分身』を使うのは体力を消耗が激しくなるのか、単に体力が切れたのかはわからないが、ノーグさんの動きが鈍い。


 息切れも激しい…攻撃に転じるなら今か?


 いや…


「「「かかったな!」」」


 ボクが近付いて来るのを待っていたと言わんばかりに、ノーグさんが動いた。


「「「これで終わりだ!スキル!千刃!」」」


 距離を詰めて三方向からの攻撃。

だが、それはお見通しだ。


「「「ま、また居ねえ!」」」


「一箇所に固まってくれて、助かります」


「「「ど、どこ…後ろか!」」」


 気付いても、もう遅い。


「スキル…神速斬り」


 一箇所に固まって、動きを止めたノーグさんを、神速斬りで斬りつける。


 勿論、右腕を狙って。


「ば、バカな…こんな」


「ダメージを受ければ偽者は簡単に消えるみたいですね」


「…どうやって俺様の眼から逃れた?どれだけ速くても、俺様がああも簡単に見失う筈が…」


「ドラゴンスレイヤーですよ」


「…何?」


「あんな巨大な大剣で千刃を使えば、どうしても死角が増えます。ボクはその死角を利用したに過ぎません」


 相手の死角を突く…ラティスさんやアイシスさん、ティータさんに散々教わった事だ。


「…そうか。チッ!確かに、ドラゴンスレイヤーはデケェからな。このゴツさが好きなんだが…こればっかりは仕方ねぇ。潔く、負けを認めるぜ」


『試合終了!武芸大会剣部門優勝は!魔帝ジュン・グラウバーンです!』

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