第137話 「『雷槍』のティータ!」

「ただいまー!見てたか、私のカッコいいとこ!」


「見てたわよ。カッコ良かったかは、置いといて。優勝おめでとう」


「なんかつまんないけど、おめでと」


「おめでとうございます、アイシスさん」


「………おめでと」


 な~んか素直に褒めてくれてるの、ジュンだけな気がするけれど、まぁいい。


「次はティータの番だな。私の胸を護る為にも優勝して来い!」


「…思わず嫌だって言ってしまいそうになるわね。でも、やるわよ。フレイアル家が準男爵になれるかもしれないんだから。行って来るわ」


 ティータの実家が準男爵家に、ねぇ。

実際、どれくらいの可能性があるんだろ?


「ジュンはどう思う?本当にティータの家は準男爵になれると思う?」


「可能性は十分ですね、何なら父上から陛下に口添えしてもらうようにお願いしてもいいですが」


「あ、いいなぁ。それ、あたしもお願いしたいかも」


「レティさんは何も言わなくても騎士爵は貰えると思いますけどね」


「ふうん…あ、じゃあさ、また私の家も陞爵したりするかな?」


「あ、いえ、それは無いかと。ニルヴァーナ家は騎士爵から子爵へ陞爵したばかりですから。今回は陞爵は見送りになるでしょうね。同じ理由で、ボクが優勝したとしても、何も無いと思いますよ」


 そうなのか…ま、子爵でもアップアップしてるのに、伯爵になってもパパも困惑するだけか。


「じゃあユフィールは?ロックハート家は公爵家だから、これ以上の陞爵は無いよね?」


「………」


「ユフィールさんには…ちょっと読めませんね。何か宝物を下賜されるかもしれませんし、陛下の御言葉だけで終わるかもしれません。あ、王族との婚姻なんてあるかもしれません」


「!!!」


 あー…公爵家令嬢で、武芸大会を優勝する腕っぷし。

王家で囲いたいっ思える人材だって事か。ありそうな話だな。


「同じ女として少し気の毒に思うが。ジュンの事は任せておけ。安心して嫁に行くといいぞ?」


「………」ギリギリ


「アイシス…顔がゲスいよ。もう少し隠しなよ。それより、始まったよ、ティータの試合が」


 おっと、始まってたか。

対戦相手は…誰だっけ。


「A級冒険者のダインさんですね。『疾風迅雷』の異名を持つ」


「そうだったそうだった。でもさ、確かにスピードはそこそこあったけど、迅雷って要素は何処に?」


「それはアレじゃない?ほら、アイツの槍」


 ダインって奴の槍がこれまで使ってた槍とは違う。

明らかに上級の武器。ひょっとしたら魔槍か?


「疾風迅雷…脚の速さで疾風、魔槍の力で迅雷。合わせて疾風迅雷?」


「そんな単純なのかな?」


「異名なんてそんな物かもしれませんね。あの槍が本当に魔槍で、雷属性の力を持っているなら、ですが」


「…アレ?でもそれって…」


「ええ、ティータさんが持つ魔槍と同じですね」


 なら武器は互角…か?いや、でもティータの魔槍は言ってみれば量産品。

アイツのはどうか知らないけど、もし精霊が宿っているような代物なら、ちょっと不利かも。


 流石に聖霊は宿ってないと思うけど。


「始まりましたね」


「先制攻撃はダイン、か」


 先ずはダインが突進、スピードに乗った突きを放つ。

これまでの相手はそれで一撃もらっていたけど、ティータは冷静に打ち払い、防いでいる。


 初撃を防がれたダインは動揺するでもなく、脚を止めて打ち合いを選んだようだ。


「ふうん…打ち合い互角、かな?ティータと互角とは、やるじゃん。ダインって奴」


「いや、互角じゃないよ。ティータが若干押してる」


 ティータはダインの攻撃を完璧に回避してる。

対してダインは僅かだが、腕や脚を掠っている。

魔法道具が点灯する程ではでないにしても、ティータの攻撃は間違いなく当たっている。


「いや、でも、魔法道具が光らなきゃ意味が無い…あっ!」


「ティータお得意のフェイントだな」


 左腕を狙った突きと見せかけての脚への斬り払い。

ダインは咄嗟に一歩下がったが躱し切れず、左脚に一撃を受けてしまう。


 これで魔法道具は点灯し、ティータが一歩リードとなったわけだ。


「うん。槍の腕前はティータが一枚上手だな。ダインの奴は精々『槍術LV7』を持ってるってとこじゃないか?」


「ティータが『槍術LV8』だから、確かに純粋な槍の腕ではティータが上っぽいね。あとはLV…ステータスのほうだけど、そっちは五分五分っぽい?」


「…ですね。戦場の最前線にいたティータさんは三年前に比べてかなりLVが上がってる筈。そのティータさんと大差ないLVだというのは、流石はA級冒険者と言ったとこですか」


 そう言えば、ティータって今LV幾つなんだ?

自分の事でいっぱいいっぱいで聞けてなかったな。

今度確認しよう。


「で、一歩リードされたダイン君はどうでるかな」


「脚にダメージを負ったのがダインさんにとっては痛いですよね」


「それが狙いだったんだろうしね。…何、あれ」


 ダインは額をバンダナで覆っていたのだが、そのバンダナを解いた。

そして、その下にあったのは…眼?

額に眼があるのか?


「…ダインさんは三眼族みたいですね」


「三眼族?聞いたないぞ、そんな種族」


「アデルフォン王国では無く、カルタゴ王国に僅か数百人のみ存在する少数民族です。眼が三つある以外は普通の人間と変わりありませんが、眼が三つある故に動体視力が凄くいい。これまでと同じようにはいかないでしょうね」


 眼が三つあるから動体視力が良い?

そんな単純な話…何だろうな。

実際、ダインはティータの槍を完全に躱している。


「あ、フェイント…今度は引っ掛からなかったか」


「完全に対応してますね」


 状況は完全に五分になってしまったな。

こりゃ時間が掛かるか?時間切れで試合終了でも、このままいけばティータの勝ちだけど。


 それじゃ面白くない。


「ん~…なぁレティ、何か無いのか?ティータが勝てるような秘策は」


「あたしに言われても……そう言えばティータって初級ダンジョンクリアで貰ったアビリティ、どんなだったっけ?」


「え?覚えてないなぁ…ジュンは知ってる?」


「はい。確か『筋力強化(小)』ですよ』


 筋力強化か…上級ダンジョンでゲットしたリボンもあるし、ティータはステータスの底上げがアビリティとアイテムの両方でされている形になるな。


 それは特に欠点も無い、良いアビリティとアイテムだと言えるけど…逆に言えば現状ではこれ以上は強くなれないという事。


 ならどうすればいいのか………………うう~む!


「アイシス?何か頭から煙出てるよ?」


「うがぁ!ダメだ!これ以上は知恵熱で頭がどうにかなる!」


「知恵熱で煙出す人、初めて見ました…でも、心配する事無さそうですよ」


「お?」


 ダインの動きに慣れたのか完全に見切ったのか。

再びティータの攻撃が掠り出した。


 苦しそうな表情を浮かべるダイン。対して冷静に試合を運ぶティータ。


 残り時間も少なくなった頃に、ダインが勝負に出た。


「…やるな。王国最高峰の騎士団、白天騎士団の一員なだけはある。大した腕だ」


「その称賛、素直に受け取りましょう。ですが、このまま終わるつもりは無いのでしょう?」


「ああ。行くぞ!これが俺の切札だ!うぉおああああ!!!」


 ダインが叫ぶとダインの身体が一回り大きくなる。

眼も血走ってるが…なんか危ない感じになったな。

今から犯罪を犯しますって感じだ。


「ふぅぅぅ…うがあああ!」


「は、速い!」


 確かに、さっきまでよりかなり速い。

それにパワーも上がってるみたいだ。

踏み出す際、強く蹴った石畳が割れてる。


 それだけじゃなく、どうもダインは理性を失ってるみたいだけど?


「おい」


「ん?あ~あんたは…」


「ノーグさん。何か?」


 離れた場所から観戦してたノーグが話かけて来た。

なんだよ、何か用か?


「お前ら、あの女のツレだろう?悪い事は言わねぇから、あの女に降参するよう言え。そうしたらダインは俺様が止めてやる」


「…アレ、一体何?なんか理性を失ってるっぽいけど」


「その通りだ。ありゃ『獣化』ってアビリティでな。理性の無い獣のようになる代わりに高い身体能力を得るアビリティだ。気を失うか、事前に決めた手順であいつの眼を覚ますかしないと止まらねぇ。早く止めないと、あの女、死ぬぞ」


 理性を失ってるから、止めるまで戦い続ける、か。

そりゃまた厄介な…


「よくそんなアビリティ使ったな、あいつ」


「そりゃギリギリまで使うつもりは無かったさ、あいつもな。だが、俺様もダインも、負けるのが大嫌いだからな。いざとなったら俺様に止めるように頼んでたってわけだ。それより、早く御仲間に降参するように言え。手遅れになるぞ」


「いや、大丈夫だろう。ティータが勝つから」


「あ?バカ言え。あの女に、もう勝ち目は…」


「まぁ見てなよ」


 いくら身体能力で逆転されようと。

理性の無い獣なんかに負けるようなティータじゃない。


 白天騎士団で一番の槍使いは伊達じゃないんだ。


「ティータさんが少し距離を取りましたね」


「何かやるつもりだね、ティータ」


 何も考えずに突っ込んで来たダインを躱し、ティータが少し距離を取った。

そして正面にダインを据えて…構えている。


 正面からまともにぶつかるつもりか?


「あ、あれは…」


「スキル、クリエイトスピアか」


 『槍術LV7』で習得するスキルだ。

アビリティの力で生み出した槍を装備。

二刀流ならぬ二槍流か。


「バカか?あんなその場の思いつきの、付け焼刃にすらなってねぇ二槍流で何とかなる訳ねぇだろうが」


「うるさいぞ。黙って見てろ。ティータは私よりずっと賢いんだからな」


 ティータが破れかぶれで二槍流なんてやるとは思えない。

必ず何か、思いがけない策が…


「はぁ?じゃあ一体どんな…あ」


「わー…ティータにしては思いがけずシンプル…」


「投げましたね、槍…」


 …理性を失って真っ直ぐに突っ込んで来る相手なんだから、そりゃ真っ直ぐ槍を投げれば当たるか。


 しかも、スキルで生み出してる槍だから、何本でも生み出せるわけで。

最初の投擲で左肩を貫かれたダインは、それでもお構いなしに突っ込んで来たが、ティータは槍を投げ続け。


 ダインは遂に動けなり、立ってるのがやっとになった。


「さて。聞こえてないのでしょうが、これで終わりです」


「う、うぅぅ…ううがああああ!」


「スキル…乱れイカズチ!」


 乱れ雷…確か『槍術LV8』で使えるスキルで『剣術』のスキル千刃と似たスキルだ。

高速で連続突きを繰り出すスキルで、雷の魔槍を持ったティータが使えば本当に雷が走ってるように見える。


 乱れ雷の連続突きが終わった時、全ての魔法道具を点灯させたダインが煙を上げて転がっていた。


「う、うぉおお!すっげえ!何だ今の!」


「まるで本物の雷…『雷槍』だ!」


「『雷槍』のティータ!」


「美人だし、かっけぇ!」


 何か、ティータに『雷槍』って異名が付いたみたいだ。

誰かが言ったその異名が瞬く間に観客全員に広まって、観客席から『雷槍』の大合唱だ。


 ちょっと危ない時もあったけど、これで決まったわけだ。


『武芸大会槍部門!優勝はティータ・フレイアル!素晴らしい試合でした!』


 ティータの優勝が。

…良かったな、ティータ。

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