第135話 「新作ゴーレムです」

『それではこれより武芸大会弓部門決勝を開始します!』


「おっと。どうやら試合が始まるようだな。では私はこれで。皆、頑張ってくれたまえ」


「「「「はい」」」」


 武芸大会決勝…先ずはレティの出番か。


「よーし!行って来いレティ!」


「つーん」


「おい…まだ怒ってるのか?寝惚けてやった事なんだからさ。もういい加減に機嫌直せって。な?」


「それでも普通は怒るでしょうね…行ってらっしゃいレティ」


「応援してます、レティさん」


「…ファイト」


「うん!行って来まーす!」


 レ、レティの奴…私を無視してジュン達には笑顔で応えるとは…お仕置きが必要か?


「お仕置きが必要なのは貴女でしょう…反省が見えないわよ、反省が」


「えー?だってさ、そんなに怒る事か?女同士だぞ?」


「女同士でもアレはやりすぎよ…一生忘れられないでしょうね」


「えー?でもレティだって気持ち良くなって……」


「なってない!ないったらない!勝手な事言うなー!アイシスのバカー!」


 舞台上からレティが文句を言う。

そんな場所から聞こえるのか…流石だなぁ。


「そろそろやめなさい、アイシス…レティが集中出来ないわ」


「ティータが話し相手だったのに…もういいよ。で、レティの相手は…誰だっけ」


「翠天騎士団のリーシャさんですね」


 そうだったそうだった。

弓部門の一番人気。弓でレティとはほぼ互角。


 弓部門は競技形式。

腕が互角なら後は集中力の勝負。


 レティは普段はおちゃらけてても、いざ戦いとなれば高い集中力を持つ。


 普段通りの実力を発揮すれば十分に勝つ見込みはある…のだが。


「レティ…落ち着きがないな」


「わかるんですか?」


「うん。レティの尻尾がバタバタと激しく振られてるだろ?アレはイライラしながら頭の中で何かゴチャゴチャと考えてるんだ」


「…なるほど。きっとどうやってアイシスさんに復讐するか考えてるんでしょうね」


「え?ソンナバカナ」


 私とレティは親友で戦友だぞ?

アレくらいの事で決裂したりしない。


「後でレティに謝った方が良いわよ、本当に」


「え…何、そのマジな感じ」


「マジだもの。そうね…レティは優勝したら家族を連れて高級レストランに行くって言ってたから、その代金を払ってあげたら?」


「え。レティのとこって大家族だよな…その高級レストランの代金って…かなりの金額にならないか?」


「金貨で十枚か二十枚くらいはかかりそうね」


「嘘でしょ?」


 優勝賞金は金貨三百枚。

それくらい払えなくも無いけど…ご機嫌取りに使うには高すぎないか?


「あ、折角なら貴族御用達の最高級レストランにしては?父上からの紹介であればレティさんの御家族も問題無く利用出来ますから」


「あ、それは良いかもしれませんね。レティも喜ぶでしょう」


「…因みに、それ幾らくらいかかるの?」


「そうですね…一人金貨十枚くらいかと」


「やーめーてー!」


 確かレティの家族は十人くらい居たはず。

一度の食事代で金貨百枚?無理過ぎる…


「貴族が開くパーティーなんてそれ以上かかりますけどね。あ、始まるみたいですよ」


 やっと始まる弓部門決勝。

どうやら昨日までとは少しばかり、試合の内容を変えるらしい。


『えー弓部門の決勝は特別ルールで行われます。皆さん、あちらを御覧下さい』


 司会進行役が指差した先は入場ゲート。

そこから出て来たのは…ゴーレム?


『えー…あのゴーレムはアデルフォン王国が誇る筆頭宮廷魔導士エメラルダ様の新作ゴーレムです』


 新作ゴーレム?

確かに普通のゴーレムに比べて動きが軽快だし、あまりデカくない。


 見た目こそゴーレムっぽいけど、動きは人間と変わらないような。


「ああ…そう言えば帝国で読んだ魔導書の中に帝国独特の技術が記された魔導書がありましたね。ゴーレムに関する技術で」


「…それで新作のゴーレムを作って、実験したい、と」


「そうみたいね。アソコにワクワク顔のエメラルダ様が居るわ」


 ゴーレムが出て来た入場ゲートの脇にエメラルダ様が立ってる。


 メモを片手に…隠す気無しか。


『えー…弓部門決勝では、このゴーレムが的です。そしてゴーレムは闘技場内を動き回ります。ゴーレムに描かれた的を撃ち抜くと行動不能になるように仕掛けられてます。一人五体のゴーレムを制限時間内に行動不能にして下さい。掛かった時間が短い方が勝者です!』


「ようするに…ゴーレムをどれだけ早く倒せるか競うって事か?」


「まぁ…そうね」


「今まではどれだけ正確に、どれだけ遠い距離から当てられるか競う勝負だったのに。随分変えてきましたね」


 多分、エメラルダ様が強引に捩じ込んだんだろうなぁ。

自分の新作ゴーレムの実験の為に。


『それでは!試合開始です!』


 先ずはレティからか。

標的のゴーレムは五体。

確かに普通のゴーレムよりは動きがいいけど、レティなら問題無い。


 レティはもっと素早い動きの魔獣にだって矢を当てられる。ゴーレム如きに当てられないはずが無い。


「あっと言う間に三体、倒しましたね」


「だね。これならレティならこれくらい…あ、四体目」


 予想通りにアッサリと。

レティは四本の矢で四体のゴーレムを仕留めた。


 だが、最後の一体。

一体だけ、何か様子が違う。


「フハハ!流石だな!だが最後の一体は簡単には倒せんぞ!何しろ私の最高傑作!その一体だからな!」


 その最高傑作とやらは確かに特別製らしい。

見た目こそ通常のゴーレムと変わらないが、腕を色んな形に変えられるみたいだ。


 右腕を剣の形に。左腕を盾の形に変えていた。


 右腕でレティの矢を斬り、左腕で防ぐ。

通常のゴーレムには出来ない芸当だ。


「ううん…流石はエメラルダ様。凄いゴーレムを作って来ましたね」


「アレってやっは凄いの?」


「はい。もしもアレを大量生産出来たら…死を恐れない軍団の完成ですよ。なにせゴーレムには生死がありませんから」


 なるほど…一般兵の代わりになるくらいの強さはありそうだし。確かにヤバいかも。


「フハハ!このゴーレムは只の石で出来ているが矢を防ぐには十分!どうしようもあるまい!フハハハハハハハハハハ!」


 ノリノリだなー…まるで悪役じゃん。

でもまぁ…レティなら大丈夫だろう。

仮にもレティは白天騎士団で一番の弓使いだ。


「…インパクトショット!」


 インパクトショット…『弓術LV5』で使えるスキル。

矢が刺さった瞬間、内部に衝撃を与える。


 ゴーレムが構えた盾に僅かに刺さった矢は衝撃を与え…盾を砕いた。


「おぉ!やるな!まさか矢で盾を砕くとは!だがまだ剣がある!」


「トリプルショット!」


 トリプルショットは『弓術LV3』で使えるスキル。

高速で矢を三連射するスキルだ。


 幾ら普通のゴーレムより軽快に動けると言っても所詮はゴーレム。


 レティの矢、三本を斬る事は出来ず、最後の一体も倒れた。


「う、ううむ…結構アッサリ倒されてしまったな。まだまだ改良の余地有りだな」


『それまで!レティ選手の記録は一分十二秒!この記録を抜く事が出来ればリーシャ選手の優勝です!』


 思うにこの勝負…後発が有利じゃないか?

だって、ゴーレムがどんな動きをするか、今のでわかっちゃったわけだし。


「よーしリーシャ!勝てよ!そしたらお前に騎士爵を与えるよう陛下に推薦してやるからな!」


「は〜い〜」


 騎士爵?ああ、そう言えば武芸大会の優勝者には爵位が与えられる事があるんだっけか。


 あれ?じゃあレティも?


「有り得る話ですね。むしろティータさんのフレイアル家が準男爵になるより可能性があるかも」


 そうなのか…騎士爵が貰えたらレティも本物の貴族の一員。

そうなれば…機嫌直してくれるかな。


「よし…負けろ〜失敗しろ〜」


「…何やってるの?アイシス」


「リーシャって奴に失敗して負けるように念を送ってる。負けろ〜失敗しろ〜」


「…通じると良いわね」


 何故、そんな呆れた顔をする?

ティータもやればいいじゃないか。


 で、始まったリーシャの試合。

やはり、リーシャも簡単に四体のゴーレムを撃破。


 そして問題の一体だ。

…あれ?なんかすっげー小さいのが居るな。

どうやらレティがやったゴーレムとはタイプが違うらしい。


「フハハ!こいつも他のとは違うぞ!こいつも特別製!さっきのがパワー型だとしたらこいつはスピード型だ!ゴーレムとしてはかなりの小型!見た目通りに猿のように動く!」


 猿?ああ、うん。確かに猿っぽい。

手が長いし、体は小さい。ピョンピョン跳ねてるし。


 アレに当てるのは苦労しそうだ。


 並の腕なら。


「トリプルショット〜」


「フハハ!こいつならその程度は簡単に躱せる!」


「む〜…じゃあホーミングアローでやっちゃう〜」


 ホーミングアローか。

『弓術LV8』のスキル。

一度避けても自動で矢が対象を追尾。

矢が追いかけるというスキルだ。


「そこへ更に〜…ライトニングショット〜」


 なんか、気の抜ける喋り方をする奴だな。

ライトニングショットは『弓術LV6』で使えるスキル。


 光のような速さで矢を飛ばすスキル。

『剣術』のスキル、神速斬りの弓版と言ったとこかな。


 ホーミングアローを回避した所を狙って放たれた高速の矢。それは猿型のゴーレムを貫き、動きを止めた。


 試合終了だ。


「ぬ…やるな。こちらもまだまだ改良しなければならんな」


『試合終了!リーシャ選手の記録は一分十二秒!…え?アレ?同タイム?この場合どうするんですか?…しょ、少々お待ち下さい!』


 考えて無かったのか。

司会進行役が何処かへ引っ込んで行った。


「多分…ゴーレムを使っての競技は急遽決まったんでしょうね。最初から決まってたなら事前に説明があるでしょうし」


「エメラルダ様が無理矢理変更させた…ですか。有りそうですね」


「同感」


 私も同じ事考えてた。

エメラルダ様を知ってるなら、皆同じ考えに至るだろうな。


『お、おまたせしました!陛下に御判断頂いた所、両者共に優勝とする!との事です!特例ではありますが、今年の弓部門の優勝はレティ、リーシャ、両名とします!』


 そうなるのか。

賭けの支払いはどうなるんだろ?


「ただいまー…」


「お帰りなさい。えっと…優勝おめでとう…で、いいのよね?」


「優勝には間違い無いですし。レティさん、おめでとう御座います」


「おめでとう、レティ」


「うん…ありがと。いまいちスッキリしないけど…」


「まぁまぁ!優勝したんだから胸張れって!その柔らかくて立派な胸を!」


「余計な事言うな!アイシス、反省してないでしょ!」


 ええ…折角褒めたのに…解せぬ。

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