第133話 「狙い?」
「…以上です」
「…ニルヴァーナ子爵暗殺、ですか。未遂で終わって何よりです」
「それでは、我々はこれで。ニルヴァーナ子爵家は新興故、警備兵がまだ居ないとの事なので、城から兵と騎士を送らせます」
「は、はい。よろしくお願いしますです、はい」
深夜に起きたニルヴァーナ子爵邸での暗殺未遂事件。
有能な私の御蔭でパパの暗殺は未遂に終わった。
だが、襲撃犯は逃がしてしまった。
そこで黄天騎士団に報告して、王都内を捜索、屋敷の周辺警備を手配してもらう事に。
今は報告を聞いて訪れて来た黄天騎士団の騎士に事件のあらましを説明し終えた所だ。
襲撃犯がサラにそっくりな事も報告してあるが、サラが悪い事をしたわけじゃないので連行はされない。
ただ、後日改めてサラに話を聞きに来るとか。
サラは何にも知らないと、言ってあるのに。御苦労だな、全く。
「……大丈夫か?サラ」
「……はい」
「もう寝て良いぞ。明日は…いや、もう今日か。今日はサラは休みだから、早起きしなくていいからな。ゆっくり寝なよ」
「……はい」
…ダメか。
無理も無いか…自分と同じ顔をした奴が急に現れて、しかもそれが襲撃犯…暗殺者なんて。
ショックを受けるのも無理はない。
キンタローの御蔭で、明るくなって来たと思ったのに…また暗い感じに戻ってしまった。
一時的であって欲しいけど…大丈夫かな。
「…ふあぁ~あ…ていうか、私も眠い。パパ、ママ。後は任せて良い?」
「あ、ああ、そうだね、うん。よし!後はパパに任せておけ!」
「…まぁいいか。アイシスは武芸大会があるしな。早く寝ろ」
「うん。じゃ、おやすみ…」
「待ちなさい、アイシス」
「こんな真夜中に呼びつけておいて、先に寝るとかどういう了見だよ」
「ね~む~い…」
「あ」
そう言えば黄天騎士団に連絡を入れた時、念の為ティータ達にも来てもらうように連絡を入れたんだった。
「もう…アイシス、貴女は私を安眠させないつもりなの?」
「いや、いやぁ…ごめんごめん。取り合えず私の部屋に行こう。何があったか、説明するから」
「くだらない事だったら許さないかんな」
「肉串の一本や二本で済まさないからね…ふあぁぁ…」
「わかったから行くぞ。ほらほら」
不機嫌なティータ達を私の部屋へ連れてってから状況を説明。
一応は夜中に叩き起こされて、呼ばれた事は納得してくれたみたいだ。
「というわけで。もう来ないと思うけど、此処まだ門番も居ないからさ。念の為、皆には今日はうちに泊まって欲しいんだけど」
「…仕方ないなぁ」
「このフカフカベッドに免じて許してあげる…ジュンちゃんとこのベッドと同じくらいフカフカとは…やるじゃん、アイシス…んなぁ~…」
「まだ寝ちゃダメよ、レティ。それで、アイシス。サラの様子は?」
「ん?うん…やっぱりショックだったみたいだ。以前の暗い感じに戻ったかもしれない」
「そう…無理もないわね」
「…なんて言ったら良いか…気の毒にな」
本当に。
十歳の女の子が歩むにはハード過ぎる人生だろう。
盗賊に拾われて育てられ。
育ての親は殺されて戦争に連れて行かれ。
折角奴隷から解放されたと思ったら自分とそっくりな女の子が暗殺者をやってる。
他人の空似なだけで、赤の他人であれば気にする必要はないけれど…あの子は多分、サラの身内だろう。
「黒づくめでナイフを持った子供の暗殺者…ロックハート公爵を狙った暗殺者と同一人物の可能性が高いわね」
「……あ、ああ!そっかそっか!どっかで聞いたような風貌してると思った!」
「…忘れてたな?」
「…はぁ。それと、城を出る前に少し騒がしかったから何事か兵士に聞いてみたのだけど。襲撃があったのは此処ニルヴァーナ子爵邸だけじゃないようなの」
「へ?」
「マクスウェル公爵邸とタッカー侯爵邸にも襲撃があったそうよ。先日のロックハート公爵邸の襲撃事件の報は全貴族が受けていたから警備は増強していた御蔭で、大した被害は無かったそうだけど」
「……うちはしてなかったぞ?」
「それは知らないわよ…」
「アイシスのパパさんのんびりしてるとこあるからなぁ。我が家には盗まれるような物無いし、私は人に命を狙われる理由も無いし、心配無い!とか思ってたんじゃない?」
「ナハハ、ありそう~…ふなぁ~…」
…本当にありそうだ。
すぐにでも警備兵を雇わせよう。
「それにしても…サラちゃんの家族…姉妹と思しき女の子が暗殺者。それも闇ギルドのメンバーの可能性が高いなんてね」
「ああ…やっぱりこの件って闇ギルドが関わってるのか?」
「可能性としては一番高いわね。ただ狙いが不明よ」
「狙い?そんなの各貴族家の当主の命だろ?」
「だから、何故当主の命を狙ったか、よ。王位継承絡みだとして、第一王女派のロックハート公爵家、第三王子派のマクスウェル公爵家。この二家はともかく、貴女の家、中立のニルヴァーナ子爵が狙われた理由がわからないわ」
「それに第二王子派の貴族家は一切被害が無いんだっけ?それもあからさまだよな」
「ええ。第二王子派を疑えって言ってるようなものだもの。だからこの一連の襲撃事件は王位継承問題とは別なんじゃないか?と、私は考えるけど…なら本当の目的は何か。それがわからないのよね」
「ん~…全部本命から目を逸らす為の囮…なんてどう?」
「え?…有り得ない話ではないわね。そう考える根拠は?」
「無いよ。勘」
「勘かぁ。アイシスの勘はバカに出来ないからなぁ。…あれ?レティ、寝ちゃった?」
「スゥ…スゥ…」
「…そうみたいね。レティはこのまま此処で寝かせましょ。アイシスはレティと一緒に寝なさいな」
「えー…まぁ、偶にはいいか」
ベッドは十分に広いし。
今日はレティのおっぱいを堪能しながら寝よう。
「…なにか邪な事考えてないかしら?」
「ハハ、いくらアイシスでもレティに手は出さないでしょ。で、私らは何処で寝たらいいの?」
「あ、隣の部屋が空いてるから、そこ使って」
「りょーかい」
「願わくば朝まで眠れる事を期待するわ」
それは本当に。
武芸大会の時間を考えると、精々あと四時間くらいしか眠れないか。
「何かアレばヴィスが起こしてくれるよ」
『ピ』
「それは期待してるけど、本当に期待してるのは何も起こらない事よ…じゃあ、おやすみなさい」
うん。これ以上は何も起こらないでいて欲しいもんだ。
やれやれ…夜更かしはお肌に悪いんだぞ?
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