第132話 「侵入者?」

「おおー…これが新しい屋敷か」


『ピ』


「うむうむ!我が自慢の娘の御蔭で出来たニルヴァーナ子爵家の屋敷だ!」


「私はまだ広すぎて困惑するばかりだけどねぇ。こんなにデカい屋敷に三人家族で住んでどうするんだか。そりゃ使用人はいるけどさぁ」


 ああ、そりゃそう。

そりゃあ王城や公爵家の屋敷なんかと比べたら小さいけど、部屋数とか幾つあるんだ?

二十?三十?


「アンアン!」


「お帰りなさいませ、旦那様、奥様、お嬢様」


「「「お帰りなさいませ」」」


 屋敷に入ると使用人達が迎えてくれる。

サラはともかく…自分の家に他人がいるって変な感覚。


 慣れてかないとダメなんだろうなぁ、やっぱり。


 ま、将来は私はジュンの妻、公爵夫人になる身だし?

今よりもっと多くの使用人を持つ事になるんだから、今の内に慣れておくか、うん。


「あ、只今帰りました、ウォードさん」


「旦那様…私はニルヴァーナ子爵家に仕える執事。どうぞ呼び捨てになさってください」


「あ、いや…わかってるんですけどね。どうも慣れなくて…」


「…ハァ。情けないぞ、ノア。まぁ、今回はわからなくもないが…」


 うん…パパはそんな感じだろうね。わかってた。


 因みに、このウォードって人。

グラウバーン家に仕える謎の執事、セバスチャンさんの甥っ子にあたるらしい。

セバスチャンさんの部下として長年グラウバーン家に仕えていたが、ニルヴァーナ家の家令として仕えてくれる事に。


 甥っ子と言っても多分、パパよりちょっと年下なだけで、そこそこおじさんだ。


 他には新規に雇ったメイド七人と、新人の教育係としてウォードさんと同じようにグラウバーン家に仕えていたベテランメイドのアマンダ。


 そしてサラと犬のキンタローが新しいニルヴァーナ家の一員なわけだ。

これからもう少しメイドの人数を増やし、門番や警備兵を雇うらしい。


 泥棒とか入っても、お宝とか何もないけどね。


「ところでサラ。今日お出掛けした?」


「え?いいえ。今日はお使いにも出てません」


「そっか」


 なら、やっぱりアレは人違いか。

他人の空似…にしても似てたな。

双子かってくらいに…双子?


「ねぇ、サラ」


「何でしょうか?」


「サラは数年前に盗賊に拾われて、育てられたんだよね」


「…はい。そうです」


「じゃあ本当の家族については何か覚えてる?姉とか妹とか居なかった?」


「…覚えてません。物心ついた時にはお父さん…死んじゃった盗賊のお父さんと一緒に居ました」


「そっか」


 ん~もしかしてサラの生き別れの姉妹かと思ったけど。

これじゃ何とも言えないか。


「あたっ。何すんの、ママ」


「無神経だぞ、アイシス」


『ピピ!』


「え?」


 無神経?何が…あ。


「………」


「クゥン…」


 しまった…サラに盗賊に育てられた過去の話はしちゃダメだったか。

目に見えて落ち込ませてしまった。


 ママが呆れた目で見てる…心無かヴィスにまで呆れられてるような。


「えっと…ご、ごめんね、サラ」


「…いいえ、いいんです。でも、どうしてそんな事を?」


「うんと…闘技場前でサラにそっくりな子を見かけてね。あまりに似てるからサラだと思って肉串を奢ったくらいだよ」


「私に…そっくり?」


「ほう?なるほど」


「サラちゃんにそっくりな子かぁ。それでサラちゃんの家族かもしれないと思ったわけだね?」


「そゆこと」


「私の…家族…」


「…ふむ。なら明日はサラは休みにしてあげるから、街を探してみな。もしかしたら本当に姉妹かもしれないからな」


「え…でも、奥様…」


「サラも気になってるんだろう?だが今日はもう遅いから明日だ。一人じゃ危ないからウォードが付いて行ってやれ」


「畏まりました」


「…なんか、エマの方がこの屋敷の主っぽいよね…」


「私もそう思うよ、パパ」


 ママの方が貫録あるしね。

実質ママがニルヴァーナ家の長と言っても過言じゃない。


「…ありがとうございます、奥様」


「うん。他にも手の空いてる者が居たらサラを手伝ってやるんだ。だが、先ずは食事にしようか」


「…そうだねー」


「もう完全にママが仕切ってるね」


 まぁ、うちはこれでいいんだろう。

多分、これが一番いい形で回る気がする。


 そして夕食後。

私の繋がりで誰をパーティーに呼ぶのか相談した後、御風呂に入って寝る事に。


 私の部屋は前の部屋よりずっと広い…二倍以上だ。

家具も殆どが新品…とても自分の部屋とは思えないな。


 凄く落ち着かない。


 上級貴族の暮らしより、殆ど平民と変わらない下級貴族の暮らしの方が性に合ってるって言うのも、なんか悲しいモノがあるけれど。


「でも、このベッドのフカフカ感は悪くない…」


 これならすぐに眠れそう……zzz




「………なんだ?」


 なんかうるさいな…キンタローが吠えてるのか?


『ピピ!ピピピ!ピー!ピー!』


「ヴィス?」


 ヴィスまで…なんだ?

…嫌な予感…いや、気配がする。

この感じ…何者かが屋敷に侵入したのか。


「皆、起きろ!」


「あ、お嬢様!ごめんなさい、キンタローが急に騒ぎ出して…御庭を散歩させて落ち着けようとしたんですけど、言う事聞いてくれないんです」


 一階の玄関ホールにサラとキンタローが居た。

キンタローは良いとして、こんな時間までサラは起きてたのか?


「いや、キンタローは侵入者に気付いてくれたんだ。サラは危ないから私から離れるなよ」


「……え?侵入者?」


 何処だ?何処にいる…何が狙いだ?

この屋敷に侵入する理由…子爵のパパ狙いか?

それとも剣帝の私か?


「おーい、アイシス!」


「何事だ?」


「あ、パパ、ママ」


 二人は無事だったか…ウォードや他のメイドも、全員無事か?


「全員、無事みたいだな」


「アイシス、説明しろ。何事だと聞いている」


「多分、侵入者だ。キンタローとヴィスが気付いた。狙いはわからない」


「何!侵入者!?」


「ええ!いっ、一体何を狙って…まさか、子爵の私の命!?」


「それはわからない……来た!」


 物陰からナイフが飛んで来た。

狙いは…パパか!


「ひえっ!?」


「させるか!」


 私が居るのに、只の投げナイフでパパが殺せると思うなよ。


「出て来い。もう、そこに居るのはわかってるぞ」


「………」


 全身黒づくめ…右手にナイフ。

小柄な体躯……子供?

どっかで聞いたような風貌だな。


「………」


「ん?」


 何だ?私を見て怯んだか?

眼しか見えないが、何か動揺してるような?


「お前、子供だよな。抵抗せずに大人しく捕まれ。そうしたら怪我をせずに済む」


「………」


 ジリジリと下がる侵入者。

敵わないと思って逃げるか?


「逃げるつもりか?それも出来ないぞ。剣帝の私から逃げるなんて、不可能だ。痛い思いをしたくなければ……って、だから、逃がすかっての!飛燕剣!」


「!!」


 玄関の方に走ろうとした侵入者の退路を塞ぐ。

侵入者の顔を掠ったけど、マスクとフードが破れただけ…ん?


「あああ…新居の玄関扉が真っ二つに…」


「そんな事言ってる場合か、ノア。アイシス、早く侵入者を…何?」


「え…わ、わたし?」


 侵入者の素顔の下にあった顔は…サラ?

もしかして、私がサラと間違えて肉串を奢ったあの子か?


「お前、もしかして昼間の?」


「!!!」


 何を…閃光玉か!


「しまっ……逃げられたか」


 玄関扉を斬っちゃったのが失敗だったな。

逃亡しやすくしてしまった。


「アイシス?逃がしたのか?」


「うん…ごめん、失敗した」


「いや、アイシスは悪くないよ、うん。ねぇ、エマ」


「ああ。だが、それよりも、だ。大丈夫か、サラ」


「…………はい」


「クゥン…」


『ピ~…』


 …大丈夫じゃ無さそうだな。


 侵入者の正体がサラのそっくりさん…か。


 どうしたものか…

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