第127話 「可能性は充分にあるかと」
「勝者!ユフィール・ロックハート!」
「いいぞ!ユフィール!」
「今、お前は最高に輝いているぞ!」
武芸大会格闘部門本選。
今、ユフィールさんが決勝進出を決めた所だ。
魔法部門ではアイシスさんと宮廷魔導士のアリアさんが決勝進出を決めていた。
アイシスさんとアリアさんの試合は見所がある勝負になりそうだが、ユフィールさんの優勝はもう確実と言っていいかもしれない。
これまでの試合を見る限り、ユフィールさんの相手になりそうな人物が居ない。
決勝の相手もユフィールさんに比べたら格下だ。
これにはアイシスさんとティータさんも同意してる。
「さてさて。次はティータの出番だ」
「自信の程は?」
「あるわ。アイシスばっかりに良い格好させられないしね」
「ふうん…誰に良い格好したいんだ?」
「え?そ、それは…」
「男だね。間違い無い」
「ち、違っ…」
「やっぱり男かぁ。ならティータ。ノーブラで行きなよ」
「何でよ!いやよ!」
「ティータなら出来るだろ」
「出来る訳ないでしょう!」
「えー…」
「ノーブラなら乳揺れるじゃん。ティータ乳デカいじゃん。男ならティータの乳に釘付けになるじゃん。完璧じゃん」
「じゃんじゃんうるさいわよ!レティ…貴女アイシスに染まって来てない?」
「え?こ、怖い事言わないでよ…気を付けよう…」
「どういう意味だ、こら」
間違い無く、そういう意味だと思います。
ボクもノルンにアイシスさんからおかしな影響受けないように注意するよう言われたっけ。
「で。優勝を狙うティータのライバルになりそうなのは、と」
「今の所出て来てないね」
今、槍部門一回戦第三試合が終わった所だ。
本選に残っているだけあって、皆それなりの腕なのだが、勝ち残った三人の中にはボクが見る限りティータさんと同等の人はいない。
「因みに。賭けの人気は槍部門ではティータが一番だよ」
「あら。そうなの?」
つまり観客も槍部門優勝はティータさんだと予想してるわけだ。
「何でそんなの知ってんの、レティ」
「ダイナから聞いたんだよ」
「ふうん…他の部門の事は聞いてる?」
「うん。弓部門ではリーシャが一番人気であたしが二番だったみたい。魔法部門ではリンザが一番アリアが二番。アイシスは七番だったみたいだよ」
「何でだよ!何で私がリンザより人気が無い!」
「仕方ないでしょ。普通は剣帝が魔法部門で優勝するなんて思わないわよ」
「あたし達はアイシスの魔法が凄いの知ってるけど、一般の人は知らないよね」
巷では戦争で武勲を挙げた英雄ではあっても剣で活躍したと思われてるみたいですしね。
剣帝なんだから、そう思われるのが当然だけども。
「ちぃ…見る目の無い奴等め…」
「賭けの胴元は人気が低い人が優勝して欲しいだろうけどね。んで、格闘部門がユフィールちゃん。圧倒的一番人気だってさ」
「……」
ユフィールさんはもう自然な感じで一緒に居るな。
相変わらずの無口だけど。
「んで、剣部門だけど。あのアイシスに挑戦して来たノーグってのが一番人気だってさ。ジュンちゃんは五番人気」
「なぁにぃ?ジュンより人気とは生意気な。それにやっぱり観客に見る目が無いな」
「…そうなんですかね?」
ボクはまだノーグさんの試合を見てないから解らないけど。
本人の自信の源と一番人気なるだけの実力はあるって怖いだろう。
むしろ魔帝のボクが剣部門で五番人気っていうのは大健闘と言えるような。
「ま、アイシスとジュンちゃんの人気が低いってのは実力を知ってるあたし達からすれば嬉しいかなぁ。その方が大儲け出来るし」
「ちょっとレティ。出場者は賭けに参加しちゃいけない決まりよ?」
「んにゃ?自分が参加してる部門の賭けには参加しちゃ駄目だけど、それ以外はいいんだよ?」
「え?そう…だったかしら?」
「珍しいね。ティータがそういうの勘違いしてるって」
「ま、それでもティータは賭けはしなかっただろうけど」
「…そ、そうね」
真面目ですもんね、ティータさんは。
賭け事なんて普段からやって無さそう。
「……」
「なに?どしたの?」
「何だ?ほんとは賭けに参加したかったとか?」
「…ちょっとね。今から剣部門だけでも買えないかしら?」
「さぁ?わかんないけど…何?何か欲しい物でもあるの?」
「…ええ。実家の家を建て直すお金がね」
「…なるほど。そりゃ大金が要るわ」
フレイアル家の屋敷も建て直しか。
それは確かに大金が要る…だろうけど、それをギャンブルで稼ごう何て、ティータさんらしくない。
「ダイナも言ってましたが…ジュンさんに賭けるのはギャンブルじゃありませんから」
「…そうですかね」
そこまで手放しに信頼されてもな。
アイシスさんなら「任せておけ!」とか言えるんだろうけど。
「剣部門の賭け、受付してるか見て来ようか?」
「そうね…お願い出来る?」
「オッケー!ほら行くよ、アイシス!」
「私も?何でさ」
「あたし一人だけなんて寂しいじゃん。あ、ユフィールちゃんもおいで」
「……」
「行くんだ…仕方ないな」
意外にもユフィールさんが素直について行った。
もしかして、ユフィールさんも賭けに参加するつもりだろうか。
「それにしても…何故ティータさんが屋敷の建て直しの資金を出す事に?」
「いえ、私が全額出すつもりなのでは無く…親孝行の一環として、で。元々は優勝したら賞金を渡すだけのつもりでした」
なるほど。優勝賞金をポンと渡すだけでも親孝行だと思う。
優勝賞金は金額三百枚だし、騎士爵の屋敷を建てる資金としては充分足しに……あれ?
「…今、思ったのですが」
「はい。何ですか?」
「ティータさんが槍部門で優勝したら、フレイアル家は準男爵に陞爵するんじゃないですか?」
「え?まさか…」
「可能性は充分にあるかと」
ティータさんだって目立った戦功こそ無いが、先の戦争でそれなりに活躍してる。
そして戦功褒賞で陞爵してない。
陛下も、他の者にも目立つ機会を与えたいって仰ってたし。
過去の武芸大会で優勝して爵位を貰った人が居たはずだ。
だからこそ、あのノーグさんも優勝に拘っているのだろうし。
「フレイアル家が…準男爵に…」
「その場合は準男爵に相応しい家を建てる必要が出てきますね。優勝したら、家の建て直しは様子を見た方が良いですよ。あ、使用人は父上に相談したら紹介してくれますよ、きっと」
「……」
「ティータさん?」
何故かティータさんが黙り込んでしまった。
そして汗を流してる……もしかして此処に来て、プレッシャーを感じてます?
「たっだいまー!ラッキーだったねティータ!」
「剣部門の受付はまだやってたから、ティータの分も賭けて来たぞ。勿論、私もジュンに賭けた!」
「……わたしも」
「……」
「ティータ?」
「どったのティータ?」
レティさん達が帰って来たが、ティータさんはそれどころじゃないらしい。
降って湧いた突然の陞爵のチャンスに頭がいっぱいみたいだ。
「次!ティータ・フレイアル!ジャン・キルシュヴァッサー!」
「あ、出番だよ、ティータ!…おーい、ティータ?」
「ティータ!出番だってば!おい!」
「…はっ!い、行ってくる!」
駄目だ。凄く緊張してる。
凄く動きがぎこちない。
あんなティータさんは初めて見たな。
あ、コケた。大丈夫かな…
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