第128話 「秘密をバラしちゃうぞ!」

「ああ!ティータ、何やってんだ!」


「らしくないよ!一旦離れて呼吸を整えなよ!」


 ガチガチに緊張したまま試合に臨んだティータさんは大苦戦中だ。


 対戦相手は見る限りティータさんより格下。

落ち着いて戦えば、負けるような相手では無いのだが。


 既に五つの魔法道具の内、二つが点灯してる。

相手はゼロ。このままでは敗北濃厚だ。


「ああ、もう!どうしたんだ、ティータの奴」


「さっきまで普通だったのに。何であんなにガチガチになってんの?」


「あー…実はですね」


 さっきティータさんにフレイアル家が準男爵に成れる可能性がある事を説明。


 その結果、ガチガチに緊張している事を話した。


「ああ…なるほどねぇ。ティータって家族想いだしね」


「親の期待に応えたくて白天騎士団に入ったとか言ってたしね。その期待に応える事が出来たって示す事が出来るチャンスなわけだ」


 親の期待…か。

わからなくもないかな。


「でも、戦場の方が余程怖いだろうに。今更試合で緊張せんでも」


「だねぇ…アイシス、どうにかしてあげなよ」


「どうにかって?」


「さぁ?兎に角、このままじゃティータは一回戦負けだよ?普段ティータに一番お世話になってるアイシスが助けてあげなよ」


「ん…んむぅ…」


 ティータさんの緊張をほぐす方法…試合中じゃなければ幾つか思い付くけど…声を掛けるぐらいしか出来ないしな。


 何を言えばティータさんは普段通りになるだろうか。


「んー…よし。おい!ティータ!サッサと勝たないとジュンにティータの秘密をバラしちゃうぞ!」


「………は!?」


 ティータさんの秘密?

何だろう…普通に知りたい。


「し、試合中に何よ!私には秘密何て無いわよ!」


「いいや、あるだろ!あるから慌ててるんだろ!」


 確かに。

明らかに動揺している。

それでも、緊張でガチガチの状態よりはマシになってる。


 もう一息と言った所か。


「な、無い!無いったら無い!」


「いいや有る!私も最近知ったんだけどな!ティータ!お前、下着に関して秘密があるだろ!」


「なっ、ななな!!」


「バカ!こっち見るな!」


 いや、そりゃないですよアイシスさん。

試合中にそんな事言われたらボクだって余所見しますよ。


 今の余所見でティータさんはまた一撃もらってしまった。


 残り二箇所に攻撃を受けたら敗北だ。


「あの反応…ホントに秘密があるんだ。しかも…下着?教えてよ、アイシス」


「んー…ティータ、言っちゃって良いかー?」


「駄目!絶対に駄目よ!」


「ならサッサと勝て!負けたらデカい声で言っちゃうからな!」


「わ、わかったわよ!もう!」


 おぉ…普段のティータさんの動きに戻った。

これでもう心配無いだろう。


「やるじゃん、アイシス」


「フフン。もっと褒めていいんだぞ?」


「それでティータの秘密って何?」


「んふふふ…それはな…」


「言うんじゃないわよ!」 


「え?あれ?もう終わったの?」


 本来の実力を発揮したティータさんは対戦相手を圧倒。


 瞬時に試合を終わらせていた。


「勝ったんだから、バラさないでよ…いえ、それよりも…アイシス?貴女の言う秘密って何?先ずは私にだけ聞かせなさい」


「ん?うん。…ゴニョゴニョ」


「…お願いします、秘密にしてください」


「ティータがアイシスに屈服した!」


 ティータさんがアイシスさんに弱みを握られた瞬間だった。


 下着に関する秘密…なんだろ?


「くっ…よりにもよってアイシスに知られてしまうなんて…」


「いや、むしろなんで私にバレないと思ったんだよ。一番可能性高いだろが。相部屋なんだから」


「…ズボラなアイシスならバレないと思ったのよ」


「…バラすそ、こんにゃろう」


 相部屋ならバレるような事なのか。

少なくともボクは気付かなかったけど…何だろう?

特におかしな事は無かっ…いや、ティータさんの下着に注目してないからわからないな。


「おい、ダインだ」


「『疾風迅雷』のダインか」


 ティータさんの試合が終わってから数試合。

一回戦最後の試合で観客席がざわめきだした。

今、舞台に上がった人に何かあるのか?


「アイツ…確かノーグって奴と一緒に居た奴だ」


「そうね。疾風迅雷?って観客席から聞こえるわね」


「アイツが槍部門で二番人気だよ。ティータとは僅差でね。確かノーグってのと同じ冒険者パーティーなんだよ」


 という事はあの人もA級冒険者か。

疾風迅雷はあの人の異名か。


 さて、その実力のほどは?


「え。速っ」


「速いだけじゃないわ。一撃一撃が重い。まともに受けたら骨くらい簡単に折れるわ」


 ダインさんの戦法はスピードを活かしたヒット・アンド・アウェイ。


 シンプルな戦法だがアレが彼の得意な戦い方なんだろう。


「そうかぁ?あの程度の速さなら、ティータならどうとでもなるだろ。アイツよりずっと速い私と模擬戦してるんだから」


「…まぁ、そうね。アイシスの方が速いのは確かね」


「そりゃ…そうかもね。うん、確かにそうかも」


「……」


 ユフィールさん以外はアイシスさんの言葉に納得みたいだ。


 ユフィールさんはアイシスさんを胡散臭い物を見るかのような眼で見てる。


 ユフィールさんはまだアイシスさんの実力を知らないからな。


「あ、決まった」


「波乱も無く終わったな」


「今ので一回戦は終わり。ティータはあの人と決勝で戦う事になりそうだね」


「ええ…そうね」


 確かに、そうなりそうだ。

実際、ダインさん以外にティータさんの敵になりそうな人物は居なかった。


「ティータがまたガチガチになってポカしなきゃね」


「だな。その時は秘密バラすから」


「お願いだから、それだけは勘弁して頂戴…」


 ホントに、どんな秘密抱えてるんですか。

 …後でコッソリ聞いてみよう。

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