第124話 「同行してもらいたい」

『本選では予選とは順番が異なり、先ずは弓部門の試合からとなります!』


 今日は先ずは弓部門からの試合。

予選と違って本選は自前の武器と防具の使用が認められている。


「フッフッフッ…漸くあたしの見せ場が来る!」


「雷鳴の弓は派手だものな」


「弓じゃなくて、あたしの技を見て欲しいね!じゃ、行って来まーす!」


「行ってらー」


「応援してます」


 本選の舞台は予選と違い闘技場の舞台を丸々使う。

出場者達はその脇に作られた待機所から試合を観戦出来る。


 一番の特等席と言える。


『弓部門、第一試合!始め!』


 レティさんは第一試合に出場。

対戦相手は…緑の騎士服を着てるから、翠天騎士団の人かな?


 見覚えのある顔だし。


「オーガスト!翠天騎士団の一員として、一回戦負けなんて許さんからな!」


「負けたら一週間私の椅子になれ!だそうですよー」


「そんな事言っとらん!」


「喜んで!」


「喜ぶなバカ!」


 やはり翠天騎士団の人だった。

リーランド団長の檄はプレッシャーにしかならなそうだけど、副団長のジョークが上手く緩和してくれてる。


 オーガストさんはリラックス出来たようだ。

…顔がユルユルなのと、他の翠天騎士団から羨ましいという声が聞こえるのが不安だけど。


「ちょっと!魔帝!」


「あ、リンザさん?」


 昨日、闘技場の入口で絡んできた冒険者のリンザさんだ。


 人呼んで『氷結のリンザ』だったか。


「何か?」


「何か?じゃないわよ!貴方、魔法部門に出てないじゃない!どーしてくれるのよ!」


「どうしてと言われても。ボクは貴女に魔法部門で出るなんて言ってませんし」


「出てないとも言わなかったじゃない!」


「煩い奴だな…ジュン、誰こいつ」


「アイシスさんは会ってませんでしたね。A級冒険者のリンザさんです。昨日、ボクに勝つと宣言されまして」


「ジュンに?魔法部門で?バカじゃないの?」


「……」コクコク

 

 いやぁ…どうなんでしょ。

少なくとも自信の源になるだけの実力はあるんでしょうし。


「誰がバカよ!あんた誰…よ?って、まさかアンタ剣帝?」


「そだよ」


「やっぱり!聞いたわよ!剣帝が魔法部門で出てるって!どーなってんのよ!剣帝が魔法部門で魔帝が剣部門て!逆でしょ!」


「ほんと、煩い女だな…魔帝が魔法部門に出てないならチャンスだって考えとけばいいだろ」


 普通はそう考えるんだろうな。

でも、この人も普通じゃなさそう。


「それじゃ私が困るのよ!」


「何でさ」


「私の人生設計が狂うじゃない!」


「…は?人生設計?」


「そう!いーい?私はね!この武芸大会で魔帝を降し!優勝し!華々しく故郷に凱旋し!幼馴染みにプロポーズし!結婚して!子供は三人作って!犬も飼って!幸せに暮らすの!あ、犬は大きな犬が良いわね。家は庭付きの三階建てくらいが良いわ」


「…すっげーどーでもいー」


「……」コクコク


 うん…まぁ…確かに?

どうでもいいですね、はい。


「でも、それって別にボク…魔帝に勝つって予定が抜けても問題は無いのでは?」


「だよね。武芸大会優勝だけで十分じゃん。優勝出来るかは別問題として」


「あるわよ!」


「そうは言っても、ジュンさんは剣部門で出場ですから。諦めなさい」


「どうしようも無いですしね」


「ぬぐぐ…」


 まだ諦めがつかないのか。

その人生設計にボクに勝つ必要性、ほんとに無いと思うんですけど。


「ぬぅぅ……貴方、確か公爵家の坊っちゃんだった?」


「…坊っちゃん…ええ、はい」


「なら、私が優勝したら公爵家で雇って頂戴。夫も一緒に」


「はい?」


「魔帝に勝った、よりもインパクトは薄いけど仕方ないわ。魔帝に魔法の腕を認められて熱烈な勧誘を受けた、で我慢するわ。公爵家なら給料も良いだろうし、公爵家のお抱え魔導士って肩書きも悪くないしね」


「…はあ」


 …そんなもんなのかな。

出来なくは…無いけども。


「因みに夫になる予定の幼馴染みさんにはどんな仕事を?」


「何でも良いわ。彼、器用な人だから。どんな仕事も人並にこなすわよ。あ、庭師なんていいかも。ガーデニングも得意だし」


 …貴族の庭をガーデニングするのは一朝一夕で出来るもんじゃないんだけど。

 平民の庭なら簡単なんて言わないけど、要求される水準は並じゃ駄目ですよ?


「まぁ…何とかなるとは思いますが。確約は父上に確認してからになりますよ」


「それで良いわ。それじゃあね」


 武芸大会で優勝したら、他の貴族家からも勧誘は来ると思いますけどね。


 でも黙っておこう。

折角納得してくれたみたいだし。


「たっだいまー!勝ったよーん!」


「あ。お、おかえりなさい…」


「い、一回戦突破おめでとー」


「な、中々の技の冴えだったわ」


「…その様子じゃ、見てなかったでしょ、君達」


「「「ごめんなさい」」」


 リンザさんの相手をしてる間にレティさんの試合は終わってしまった。


 オーガストさんは落ち込んで…


「団長ー!何なら今からでも椅子になりますが!」


「ならんでいい!お前は明日から一週間トイレ掃除だ!」


「団長専用トイレもお任せしますねー」


「マジっすか!やったぜ!」


「だから喜ぶな変態!」


「へ、変態!?だ、団長もう一回言ってください!いや、もう三回!出来れば言い方も変えて!」


「もう黙れバカ!」


 …無かった。

オーガストさんて、ヤバい人なのかな。

他にもヤバい人が居るなら…大丈夫なのかな、翠天騎士団は。


 いや、翠天騎士団だけじゃなく…


「何さ、ジュン。その眼は」


「いえ…七天騎士団には変り者が多いのかなーと。何となく思いまして」


「あんなのと一緒にしないでくんない!?」


「そうだよ、ジュンちゃん。アイシスはともかくさー」


「あんなのは本当に極一部です。いえ、他の騎士団に比べたら比率は高いかもしれませんが、白天騎士団はアイシス以外は真っ当な筈です」


「失敬だなー君達!」


 そうでしょうか…少なくとも蒼天騎士団は変り者の集まりらしいですし。


「そんな事より!次の試合はちゃんに応援してよね!」


「あー…すまない。それは無理かもしれん」


「え?」


「ロイエンタール団長?」


 昨日と同じく、出場者との接触は基本禁止なのにロイエンタール団長が来た。


 用件は…まぁ、わかるけれど。


「ロックハート公爵邸で起きた事件について聞きたい。ジュン・グラウバーン殿。アイシス・ニルヴァーナ殿。ティータ・フレイアル殿。ユフィール・ロックハート殿。同行してもらいたい」


「……はい」


 用件が用件だけに、断る事は出来ない。

公爵暗殺未遂事件なんて…普段なら大騒ぎになる事件だし。


 レティさんには申し訳ないけど…


「事が事なのでな。出来るだけ早急に、可能な限り情報を集めたい。弓部門の試合が終わるまでには解放するようにしたいが」


 つまり、弓部門が終わるまでは解放されない可能性が高い、と。


「…えっと、レティさん?すみませんが…」


「ご、ごめんね?ちょっと行ってくる」


「気を落とさないで。今度アイシスに貴女が好きな肉串奢らせるから」


「…いってら〜…」


 レティさんがわかりやすく落ち込んでる…肉串、ボクもご馳走しようかな。

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