第123話 「「「パフパフ?」」」

「あ、いたいた。おーい、ジュンー」


「アイシスさん、さっきぶりです」


 今日は武芸大会本選の日。


 ロックハート公爵家の騒動の後、私とティータはバーラント団長に報告。


 何故、あんな早朝に私とティータが外に居たのかも追求されたが、そこはティータが上手く誤魔化してくれた。


 だけど長々と話したせいで武芸大会開始ギリギリになってしまった。


「ジュンちゃん、おはよー」


「レティさん、おはよう御座います。ティータさんは、お疲れみたいですね。大丈夫ですか?」


「大丈夫です…疲れてるのでは無く、朝食抜きでお腹が空いてるだけなので…」


 私もお腹空いたな…試合前だから腹一杯に食べる気は無いけど、全く食べないままは辛い。


「ツイてないねー偶々早起きして散歩してたら騒動に巻き込まれるなんて」


「…本当に。どうして巻き込まれたのかしらね、アイシス?」


「……どうしてでしょうね」


 悪かったよ…悪かったから、そんな眼で見るな。


「あー…パンと果物ならありますよ。どうぞ」


「ありがとうございます、ジュンさん」


「あ、私も欲しい」


「便利だねぇ、ジュンちゃんのそれ」


 私もアイテムボックスは使えるんだけど、食べ物は収納してないや。


 それにジュンは収納魔法が使えるから誤魔化しが効くけど、私は使えないし。


「見つけたぞ、剣帝!」


「ん?」


「あんた、魔法部門に出てるんだってな!剣帝のくせにどういうこった!」


 何だ、こいつ…初対面でいきなり。

あ、いや…何処かで見たような…誰だっけ?


「おい!黙ってないで何とか言え!」


「あー…あんた、誰?」


「あ!?」


「ぷふっ!」


「ん?」


 こいつ、一人かと思えば連れが居たのか。

こっちは初めて見る顔だな。


「て、てめぇ…俺様の事を忘れるだと…ダイン!お前も何笑ってやがる!」


「くく…いや、すまん。まさかお前を一度見て忘れるような人物がいるなんてな…流石は剣帝。大物だな」


 あー…言われてみれば確かに。

柄悪いし、無駄に身体デカいし、声もデカいし。


 でも私はどーでも良い奴の事はすぐ忘れちゃうからな。


「で?あんた誰だっけ」


「て、てめぇ…まさか本気で忘れてやがるのか。ノーグだ!近々S級冒険者になる予定の!俺様が優勝したらお前は俺様の女になるって約束したろうが!」


「あー…はいはい。私が魔法部門に出てるとも知らずにバカな事言って来た自信過剰な男。でも、約束したのは考えてやる、じゃなかったっけ?」


「細けえこたぁ良いんだよ!てめぇ何で魔法部門に出てる!剣帝が剣部門にでねぇでどーすんだ!」


 うん、まぁ…それに関しては共感出来なくは無い。

同じ立場だったら私だって同じ感想を持つだろうけど。


 でも、だ。


「あんたには関係無い事だよ」


「ふっざけんな!剣帝を倒して七天騎士団に入り大貴族まで一気に駆け上る!という俺様の計画がくずれちまうだろうが!」


「知らないし、そんなの。それに関係無いって。どっちにしたって、あんたは優勝出来ない。剣部門の優勝はジュンで決まりだもん。ねー、ジュン」


「は、はぁ…」


「あ?ジュン?…誰だ、そいつ」


 こいつ…ジュンを知らないだと?

舐めてるのか?死ぬの?死にたいの?


「…ジュン・グラウバーン。グラウバーン公爵家の嫡男で本人も男爵位持ち。史上最年少で『帝』に至った少年だ」


「ああ、あの魔帝の……って、魔帝が何で剣部門に出てやがる!」


「少々事情がありまして。しかし、それはさして重要でも無いでしょう?」


「…確かにな。で?俺様がこいつに負けるって?」


「うん。そう。確実に間違いなく、あんたはジュンに勝てない。戦えばジュンの勝ちは目に見えてる」


「…ほぉ。おもしれぇ。なら俺様がこいつに勝って、優勝したらその場で剣帝、お前に決闘を申し込む」


「決闘?」


「まさか逃げねぇよな?で、負けたら俺様の女になってもらうからな。良いな?」


「…はぁ。わかったわかった。どーせジュンに負けるんだから」


「よし。今度は忘れんなよ!じゃあな!」


「騒がしい奴ですまないな。失礼する」


 ほんと、煩い奴だった。

ジュンに勝てる訳ないのに、何処から来るんだ?あの自信。


「自信に溢れるだけの強さはあると思いますよ。実際、予選は楽々勝ち抜いてました」


「ジュンは見てたんだ?あいつの試合」


「全てじゃないですけどね…ん?」


「ん?うわぁ!」


「い、いつの間に…」


「どーして気配を消して近付いて来るの…」


「……」


 またしてもユフィールがいつの間にかジュンの隣に。

そして腕を組んでる……負けるわけには行かんな!


「あ、ちょっと?アイシスさん?」


「!」


「フフン」


 そっちがそう来るなら私だってそうする。

流石に昨日の今日でキスは出来ないが、腕を組むくらい問題無い。


「……」


「何だ、その眼は。やんのか、こら」


「アイシス〜…子供相手に大人気ないよ」


「まるでチンピラじゃない。騎士の言動じゃないわよ」


 いや、ユフィールは見た目は良いからな。

決して油断して良い相手じゃない。


 それに入れ替わりの秘密を知った以上、警戒はしないと。


「…はぁ。おはよう御座います、ユフィール様。あの後は何も問題無く?」


「……」コックリ


「あーそっか。襲撃されたロックハート公爵家ってユフィールちゃんの実家かぁ。大変だったねぇ」


「……」コックリ


「だから声出せって…」


 ロックハート公爵邸でも無口だったが、ここまで無口だと問題が出るだろうに。


 病気で声が出せないわけでも無いんだしさぁ。


「……るの?」


「え?なんです?」


「…勝てるの?」


「ああ、さっきの会話を聞いてたんですか。どうでしょうね。負けるつもりはありませんが」


 入れ替わりの秘密を知った癖に、何故ジュンの勝利を疑う?


 あのステータスを見れば…って、ユフィールはティータにステータスを見ないように止められてたんだっけ。


 見てたとしても私のステータスだし…ジュンのステータスは知らないか?


「…勝ったら…ご褒美あげる」


「ユフィールさんが、ボクにですか?」


「……」コックリ


「ぬ…じゃ、じゃあ私も優勝したら何かご褒美あげる!」


「アイシスってば、そんな事まで対抗しなくても」


「そもそも公爵家の嫡男であるジュンさんが喜ぶような物が用意出来るの?アイシスに」


「ぬ…」


 確かに…お金はジュンの方が遥かに持ってるし、買いたい物は自分で買える。


 処女をあげるのは確約してるし、キスはご褒美にならないし、また入れ替わるだろうから出来ない。


「んー…あっ、じゃあパフパフしてあげる!」


「「「パフパフ?」」」


 そう!世の男性全てが憧れるパフパフ!

これを喜ばない男は居ないってママが言ってた!


「アイシス…大きな声で何てこと…」


「もう少し恥じらいを持った方が良いよ…」


「…フケツ」


「フッ!何とでも言え!」


 これはおこちゃまなユフィールには真似出来まい?

私は喜んでやるし、ジュンも嬉しい!

全く問題無し!


「おい…聞いたかよ」


「ああ!優勝したら剣帝がパフパフしてくれるってよ!」


「マジかよ!」


「ああ!」


「なっ!」


 い、いつの間にか周りで聞き耳立ててた奴らに広まってる!


「ま、待て!誰がお前らにご褒美をやると言った!」


「うおお!燃えてきたぜ!」


「やるぜ!俺はやるぜ!」


 ダメだ、聞いてない!ど、どーすれば…


「…どうしよう」


「私は知らないわよ」


「ジュンちゃんに頑張ってもらうしかないんじゃない?」


「剣部門はボクが優勝したとしても…この人達、各部門の優勝者がパフパフしてもらえるって考えてそうですね」


「確かに。そんな空気ですね」


「…」コクコク


 ソンナバカナ!

何故、こんな事に…


「自業自得でしょ」


「各部門で女性が優勝する事を期待するしかないんじゃない?此処に居る面子なら可能性はあるでしょ」


「ソレダ!」


 剣部門はジュンが!槍部門はティータが!


 魔法部門は私が!弓部門はレティが!


 格闘部門は仕方ないからユフィールを応援してやろう!


「よっし!皆で優勝しよう!主に私の為に!」


「…元から優勝は狙っているけれど、何故かやる気を殺がれるわね」


「ほんとほんと」


「……」コクコク


「アハハ…」


「気合い入れろー!」


 他人事だと思って!

私のパフパフはそんなに安くないんだからな!


『それではこれより!武芸大会本選を開始します!』

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