第122話 「悪事?」

 朝食を取りながら父上には状況を説明。

グレイル様が呪いで死にかけた事。

魔獣の襲撃があった事。

偶々朝の散歩に出ていたボク達とアイシスさん達(中身は違うが)が救援に駆け付けた事。


 以上を説明した。


「…そうか、そんな事がな」


「ああ。危うく死ぬとこだったな。ま、うちのユフィールが優秀だった御蔭で助かったわけだが!アッハッハッ!」


「……」


 あー…アレはボクが助けたわけですけども。

もう一度ユフィールさんに同じ事やれと言っても出来ないわけで。


 それがわかってるユフィールさんが眼で助けを求めてる。


 でも説明するわけにもいかないので、モナ様と上手くやってください。


 …ユフィールさんも『全魔法』のアビリティを獲得したわけだし、神聖魔法を教えるくらいはしても良いかもな。


「笑ってる場合か。だからもう少し護衛を増やせって言ったんだ」


「う…わかっている。実際に襲撃があったわけだし、警戒の意味も込めて護衛と警備を増員する」


「…ま、公爵家が襲われたわけだから、王都の警備は強化されるだろうが…この穴だらけの屋敷はどうするつもりだ?」


 あー…ジャイアントオーガの攻撃だけじゃなく、他の魔獣の攻撃でも穴が空いてますしね。


 公爵家の屋敷にしては、随分と風通しの良い屋敷になっていた。


「…どうします?父上」


「そうさのう…いっそ建て直すのもアリじゃな」


「それは良いですね、御義父様」


「古い屋敷ですからね。あ、私の部屋はユフィールの隣でお願いします」


「私の部屋もユフィールの隣で」


「……」


 ユリアンさんとライアンさんはシスコンを隠す気はないらしい。


 いや、今更か…


「だが、建て直しの間はどうする?何処か宛はあるのか?」


「そこは、お前。決まってるだろ?我が友よ」


「…お前って、偶に図々しいよな。昔から。良いよ、武芸大会が終わったらグラウハウトに帰るから。建て直し中はうちの王都の屋敷を使えよ」


「すまないな」


 本当に仲良いんだ。

考えてみれば父上にだって友人くらい居るはずだし。


 今まで紹介されてない方が不思議だ。


 …何故紹介してくれなかったんだろう?


「父上。グレイル様とは本当に親しい御様子ですが…何故今まで紹介してくれなかったんです?まさか本当にグレイル様に取られるなんて思ってたわけではないでしょう?」


「ん!?…あー…それはだな…ほら、グレイルは教育に悪い男だから…」


「何を言うか。お前の悪事をバラされるのが怖かっただけだろう」


「おい!」


「悪事?」


 父上が悪事?

一体何を…まさか横領とか、殺人とか?


「父上…」


「や、止めてくれ、そんな失望の眼差しを向けるのは。おい!グレイル!おかしな言い方するな!ジュンに誤解されるだろうが!」


「誤解でもないだろう。昔のお前は本当に酷かったろうに。なあモナ」


「そうね。でも安心して、ジュン様。悪事と言っても犯罪じゃないわ。ただ酷いイタズラっ子…悪ガキだっただけよ」


「イタズラっ子…悪ガキ?」


「そうとも。学院では学院長の部屋にカエルを投げ込んだり…」


「貴族令嬢のスカート捲りなんて日常茶飯事」


「喧嘩もよくしてたしな。相手も選ばず」


「冒険者相手にならまだマシな方よね」


「もう良いだろう!夫婦揃って恩を仇で返すつもりか!」


 知らなかった…父上って昔は悪ガキだったのか。

いや、でも…そこまで意外でも…ないか?


「まだまだあるんだがなぁ。ガインの悪事は」


「グレイル…お前がその気ならこっちだって言わせてもらうぞ」


「な、何をだ?私にはバラされて困るような過去は…」


「その昔、お前が花屋の娘に送ったポエムの内容をバラす」


「すみません。私が悪うございました。許してください」


「父上!?」


「あの父上があっさりと屈服した!?」


「お前…どれだけ恥ずかしいポエムを作ったのだ?」


 ポエム…グレイル様は文官肌の方だから意外でもない。

でも察するに相当恥ずかしい内容らしい。


「あらぁ。私は聞きたいわぁ、そのポエム。花屋の娘というのも初耳ですしぃ」


「モナ…勘弁してくれ」


 今日はお互いに初耳な事が多いですね…ボクも今日一日で随分情報が増えたように思います。


 まだ朝早い時間だと言うのに。


「旦那様、ジュン様。そろそろ闘技場に向かいませんと。武芸大会の時間が」


「お?おお、そうだな。また今度呑もう、グレイル」


「そうだな。屋敷の件は頼む」


「よろしくお願いします、ガイン様」


「ああ。じゃあな」


 ノルンに言われて時間を確認すると確かにそろそろ時間だ。


 そこで朝食を終えて、そのままの足で闘技場へ。


「それにしても、何でお前はそんな早朝に散歩なんかしてたんだ?ノルンまで連れて」


「…目が覚めてしまったので、何となく。それよりも父上。グレイル様とあんなに仲が良いのに、ユフィールさんと結婚するように言わないのですか?」


「言わんよ。前にも言ったように、お前が複数の妻を娶るのは、避けられん。だが誰を妻にするのかはお前が決めれば良い。ま、それも王家から命令されたら、どうなるかわからんが」


 陛下の様子からしてそれは無さそう…と思いたい。

少なくとも王位継承問題が片付くまでは無い、と思う。


「…話は変わりますが、父上はロックハート公爵を狙う相手に心当たりは?」


「無いな。だが、うちじゃないのは確かだし、東部諸侯にグレイルを狙う理由がある奴も浮かばない。王位継承絡みだとは思うが」


「…その場合、第一王女派の勢力を削ぎたい連中の仕業という事になりますけど、それならニーナ殿下を直接狙った方が話が早いのでは?」


「ヴィクトル殿下の暗殺以降、王家の護衛は強化されている。外出も極力控えておられるしな。まだ公爵家の方が狙いやすい。そういう意味ではグレイルは一番の狙い目だったろうな」


 …本当にそうなのか?

グレイル様は人から恨まれるような人じゃなさそうだけど、狙われる理由は確かにある。


 でも呪いは兎も角、魔獣を使っての暗殺は少々目立ち過ぎる。


 アレも陽動なのはわかっているし、直接的に仕掛けて来るかとも考えてはいたが…もしかして、ロックハート公爵家の暗殺自体が陽動か?


「どうした?考え事か?」


「あ、いえ…」


 ダメだ。わからないな。

可能性がある物なら幾らでも浮かんでしまう。


 今ある情報だけで一つに絞るのは難しい。


「…グレイルの暗殺の件で悩んでいるようだが、お前が心配する事は無い。七天騎士団も動き出すだろうし、グレイルも守りを固める。お前は武芸大会に集中しろ」


「…はい」


 そうだな。

今日は本選だ。

負けるわけには行かない相手もいるし、集中して行こう。

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