第110話 「本選は明日から」

「おつかれ、ジュン」


「此処まで快勝だね」


「ですね。運良く強敵に当たってませんし」


 ジュンなら誰が相手だろうと関係無いと思うけどね。

ジュンに勝てるとしたら私くらいなんだし。


 ジュンもティータも、順調に勝ち続けて今ので四回戦目。


 次の試合に勝てば二人は本選出場確定だ。


「勝ち残ってる中で、目ぼしい相手はいた?私が見たとこ、大した奴はいなさそうだけど」


「ボクが見た中では、あのノーグという冒険者が一番ですね。剣帝を超えると豪語するだけの事はありそうです」


「そう?そうかなぁ…」


 絶対アイツより、バーラント団長の方が強いと思うんだけど。


 良くてティータと五分くらいの強さでしょ。


「剣の腕だけならそうでもないと思います。剣術のLVはせいぜい6か7。ですがそれでも剣帝に勝てると言える、別の何かを持ってるんだと思います」


「ふうん…」


 そんなのあるかなぁ。

LVもステータスも私が圧倒的に上だろうし…ああ、いや。


 私のLVやステータスは知らない筈だから、自分の方が上だと勝手に思い込んでる可能性はありそうだ。


「アイシスだって決めつけてない?自分の方が上だって」


「ん?私より上の人間なんて、居る訳ないじゃん。何言ってんの、レティ」


「相変わらずの自信…アイシスって、もしかしてLVカンストでもしてんの?」


 レティってば、今更何を言って…いや、レティは知らないんだった。


 ええと…何とか誤魔化さないと。


「いやいや。そうじゃなくてさ。私達は戦争でガンガンLV上がったじゃん。その私達よりLVが上とか。ありえないでしょ」


「んー…でもアイツの方が年上だろうし、冒険者なら魔獣相手に戦ってLVあげてるだろうし。油断は禁物だぜーい?」


「それは私に言ってもしょうがないじゃん」


「ああ、そっか。油断しちゃダメだよ、ジュンちゃん」


「はい。それは勿論」


 上手く誤魔化せた…かな?

いつもならティータかジュンに指摘されないと気付かなかったとこだけど。


 ふっ…私も成長したな。


「…何かアイシスが自画自賛してる気がするけど…呼ばれたから、行って来るわ」


「お。行ってら~」


 これに勝てばティータは本選出場決定だ。


「さて。そんなティータの対戦相手は?」


「…デカ。熊みたい」


「おい、そこの女!聞こえてんぞ!誰が熊だ!どう見ても兎だろが!」


 おっと?どうやらレティの声が聞こえてたらしい。

しかし、兎?兎の獣人にしては耳が短いし、ゴツいけど。

女なのは見てわかったけどさ。


「耳が短い兎がいるように、兎獣人にも耳が短い人はいますよ。短くても耳は良いです」


 そうだったのか。知らなかった…でもゴツいから熊に見えたんだけどね?


「で。そんな熊兎さんの実力は?」


「悪くないんじゃない?意外と」


 見た目からしてパワーファイターかと思いきや。

フェイントを多用し、小技で牽制するテクニカルなタイプだ。


 しかし、ティータの方が技は上。

体格差でリーチは劣るが、ティータなら物ともしないだろう。


 実際、アッサリと左腕に一撃当てていた。

あと二つ、当てればティータの勝ちだ。


「やるじゃないか…仕方ない。本気で行くよ!」


「どうぞ。…えっ」


 対戦相手は高くジャンプ。

槍を下に突き出し、垂直に落ちてくる。


「さ、流石は兎獣人と言うべきか…まさかあの巨体であんなジャンプ力を見せるなんてね」


「そして連続ジャンプ。そして速い。並の相手ならすぐに捕まるだろうけど…」


 ティータなら大丈夫だ。

あの程度の技、すぐに見切る。


「な、何ぃ!?」


「そこっ!」


 ティータは落ちてくる槍の穂先に自分の槍の石突き部分を合わせ、受け止めた。


 勿論、いつまでも空中で受け止めてはいられず、すぐに相手は落ちてくるが、それで問題無い。


 体制を崩して落ちてくる相手はほぼ無防備。

ティータはその隙を逃さず、きっちりと仕留めた。


 対戦相手の女も、最後の足掻きとばかりに槍を振るっていたけど、ティータは冷静に捌いて無傷のまま勝利を納めた。


「やるじゃん、ティータ」


「まさかあの巨体を一瞬でも空中で受け止めるなんてね。それも槍一本で」


「ふふ、ありがと」


 自分でもあれは上手くやれたと思っているんだろう。

誉められて素直に笑っている。


「これでティータは本選出場か」


「次はジュンちゃんが本選出場を決める番だね」


「頑張ります」


 闘技場を四分割して、四箇所同時に試合してるから試合の消化はそれなりに速い。


 試合が進む毎に選手が減ってるわけだから試合間隔は段々と短くなる。


 だけど自分の出番が来るまでの時間は長く感じるな。


 私の出番はまだかなぁ。


「魔法部門はまだ先でしょ。弓部門は午後からかなぁ」


「えー…そんなんで今日中に全部終わるの?本選だってあるのにさ」


「何言ってるの」


「今日は元々予選のみよ。本選は明日から」


「あれ。そうだったか?」


「アハハ…」


 そうだったのか。知らなかったな。


「登録時に説明されたじゃない…もう」


「少しは覚えなよ~、アイシス」


「ルールとか、ちゃんと覚えてますか?」


「え?ええと…」


 ルールって魔法道具を先に三つ光らせた方が勝ちってだけだよね?


 あ、あと相手を死なせるのはダメって事と…なんだっけ?


「魔法部門以外の部門は魔法の使用禁止。アビリティの使用は可。逆に魔法部門は武器の使用は杖以外は禁止です」


「魔法道具の使用は全判的に禁止。違反が発覚した場合は多額の違反金を支払う事になるわ」


「弓部門は例外で自前の弓矢を使っていい事になってるけどね」


「他にも細々とあるけど、大事なのは以上よ。覚えておきなさい」


「はあい…」


 自信無いけど。全く自信無いけど!


「次!ジュン・グラウバーン!」


「お。ジュンちゃん、いってら〜」


「はい。行ってきます」


 ジュンの出番が来たみたいだ。

対戦相手は……あ、あいつか。


「あ。ナッシュさん…」


「な…何でお前が剣部門に出てる!?」


 因縁の対決…とはジュンは思ってなさそうだけど。

いい機会だ。ボコボコにしちゃえ、ジュン!

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