第105話 「いえ、大丈夫です」
「ほっほう。ここが今日から妾が住む街か!中々良い街のようじゃのう!妾が守るに相応しい!」
「それはどうも。でも貴女が守れるのは屋敷だけなんでしょう?」
「い、いずれはこの街だけじゃなく周辺の村だって守ってやるわい!」
「良いから、大きな声出すなって。ヴィスの力で隠れてると思うけど、あんたは目立つんだから」
『ピピ』
思ったより早く終ったけど、やっと帰って来れた。
って、グラウハウトは私達の家ってわけじゃないんだけど。
今はまだ、ね。グフフフ。
帰る道中で、カラミティの存在は外部には伏せる事になった。
カラミティの存在も他の貴族家からの嫉妬の対象になるかもしれないし、守護聖霊を一目見ようと観光名物のようになられても困る、という事で。
「皆様、お帰りなさいませ。御無事で何よりでございます」
「「「お帰りなさいませ」」」
一足先に戻ったセバスチャンさんとメイド達が出迎えてくれる。
あ、パパとママも居る。サラも一緒だ。
「ん?どした?カラミティ?」
「こ、此処なのか?此処に住むのか?妾は」
「そうですけど?」
「こ、これのどこが屋敷じゃ!これは城じゃろが!」
「何をいまさら…」
「最初から城だって言ってたじゃないですか」
「て、てっきり見栄を張ってるだけかと…お主、実は大貴族なのか?」
「まぁ…グラウバーン家はアデルフォン王国でも有数の大貴族、東部の領主を代表する公爵家です。ボクは公爵家の嫡男であり、男爵でもあります」
「こ、公爵…」
それも今更だけどね。
ガイン様を公爵様って皆呼んでたんだし。
「おー!我が娘よ!よくぞ無事戻った!」
「おかえり、アイシス」
「おかえりなさいませ、おじょうさま」
「うん。ただいま、パパ、ママ。それにサラも。えっと…立派なメイドらしい挨拶だったよ」
「はい。ありがとうございます」
…サラはまだ、何というか…上手く言えないけど、子供らしくないな。
初めてサラを見た時のままだ。眼に光が無い。
何となくだけど…この状態のままにしておくのは良くないんじゃないかな。
「セバスチャン」
「はい。宴の準備は出来ております」
「よし。皆、良くやってくれた!今日は大いに飲んで騒いでくれ!」
「「「おー!」」」 「「「わー!」」」
「…サラも、宴を楽しむといいよ。いいよね、ジュン」
「え?…ああ、勿論。彼女はメイド見習いの身ではありますけど、今日くらい構わないでしょう。教育係のメイドにはボクから言っておきます」
「いえ、大丈夫です。私も働きます」
「え?そう?」
「はい」
…やっぱり、何とかした方が良さそう。
パパとママも何となく感じてるみたいだ。
少し眉間に皺を寄せてる。
宴は王城で行われる王家主催のものと遜色ない豪勢なものだった。
料理、酒、装飾…全てが一流。ヤマト王国の料理が混ざってるのが特徴的かな。
「うん。流石はグラウバーン家が主催する宴だ」
「これはわたくしも知らない料理ですわね」
「私も知らないな。それにこっちは…生魚の切り身か?」
「私は何度か御馳走して頂いたから知ってるわ。こっちは肉じゃが。こっちは刺身って言うの。刺身はこの醤油って調味料につけて食べるのよ」
宴には各団長も参加してる。
やはり参加人数が多いので、いくつかの会場に分かれているけれど、団長格は全員同じ場所にいる。
「おい、こら!私にも酒を飲ませろ!」
「ダメです。お子様はお酒禁止です」
「誰がお子様だ、誰が!」
勿論、リーランド団長も。
お酒が飲めるって言っても見た目がアレだからな…副団長さんはからかってるだけだろうけど。
「これ美味しい!何て言う料理なの?サラちゃん」
「はい。ヤマト王国の料理で牛肉のしぐれ煮です」
「へぇ。サラちゃんは食べてみた?」
「いいえ。私は仕事中ですから」
「…そっか。じゃあさ、今食べてみなよ。ほら、あ~ん」
「ありがとうございます。でも叱られてしまいますから。じゃあお仕事に戻ります」
「あ、うん…」
…傍から見たら真面目に働くメイドにしか見えないし、間違ってないんだけど…やっぱりこのままじゃダメな気がする。
「う~ん…確かにアイシスの言う通りかもね~」
「だね。十歳の子供にしては真面目過ぎるって言うか…真面目なのは良い事だけどさ」
「言われた事、与えられた事を淡々とこなしているだけね。戦場に居た時と雰囲気が変わってない。…奴隷として売られるよりメイドになってもらった方がいいだろうと思っていたけど、あの子にとってはどちらも変わらないのかもしれないわね…」
やっぱり、良くない気がするな。
これはどうにもならないのかな。
「あの子の事が気になるのかな」
「え?あ、ロイエンタール団長…」
「何か御用でしょうか?」
「いや。君達の会話が少し聞こえてね。あの子…確か、奴隷兵の生き残りを君が引き取ったんだったか、アイシス君」
「あ、はい。今はメイド見習いとして、グラウバーン家のメイドに仕事を教わってるんです」
「そうか…あの子のあの眼。生きる希望が無い者の眼だ。ああいう眼をした人間は何人も見て来た。まだ子供の内かああいう眼をしていては…あまりいい結果にはならないだろうな」
ロイエンタール団長もそう思うらしい。
幾人もの犯罪者を捕まえて来たロイエンタール団長が言うと、重みが違うな。
「どうしたらいいですかね」
「生きる希望を与えるというのは難しい。家族や友人が居ればそう心配しなくてもいいんだが、あの子には誰もいないんだろう?」
「はい。友達も居ないはずです」
「なら切っ掛けを待つしかない。何か切っ掛けがあれば彼女にも生きる希望…夢がもてるかもしれない。その時の為に、選択肢を増やせるよう色々教えてあげるといい」
「選択肢…」
「例えば…そうだな。学院に通いたいと思った時の為に勉強を教えるとか。騎士になりたいと思った時の為に剣を教えるとか。本人とよく話し合って決めるといい」
勉強…は無理だな。私には無理。
勉強は他の人…ジュンに頼むのがいいかな。
元々はジュンが引き取るって決めたんだし、協力してくれるだろう。
剣なら私が教えるし、他の武術なら白天騎士団内で教えれる人は沢山いる。
適任が居なくても、ガイン様に頼めば誰か商会してくれるだろう。
何かを教える、というのは何とかなりそうだ。
「あとは…友達が出来たらいいんだけど」
「此処じゃ最年少だもんね。誰か使用人のお子さんとかで歳の近い子とかいないかな」
「セバスチャンさんに聞いてみたら?あの人なら知ってそう」
セバスチャンさんか…そうだな。あの人なら知ってそう。
後で聞いてみるか。
やれやれ…中々悩みは尽きないねぇ。
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