第104話 「というわけなのじゃ!」

「…聖人?うわぁ…それって…」


『益々、神の子教会には気を付けなければなりませんね』


 そうだよねぇ…対策をしておいて本当に良かった。


『ふぅ…御馳走様でした』


「御馳走様って…食事なのか?よくわかんないけど、魂を吸収するって」


『何となく言っているだけじゃ。気にするでない……お、おお!?』


 魂の残滓とやらの吸収が終わったカラミティに変化が。

急に光り出したと思えば眼を開けていられない程に眩しく輝いた。


 もしかして本当に守護聖霊とやらに進化を?


「フハハハハ!我!肉体を得たり!」


 光が収まってカラミティが居た筈の場所には…子供が居た。

いや、子供というか…人形?いや、ぬいぐるみ?


「ぷっ。アハハハ!何、そのちんまい身体!」


「何?ちんまいじゃと?何を……何じゃこりゃあ!?」


 自分の手と足を見て驚愕するカラミティ。

いや、ボクも驚きだよ。進化前は半透明の身体だったけど、それ以外は普通に見えた。


 だけど今は二頭身の人形のようだ。

顔は大きく手足はちんまい。動かずにジッとしていれば人形にしか見えないだろう。


「…でも鑑定だと『守護聖霊カラミティ』と出るね」


「くっ…どうやら守護聖霊として未熟故にこの姿のようじゃ。力を蓄え無ければならぬ」


「…また他のゴーストを吸収する為に悪さを続けるつもり?」


 そうなら今度こそ浄化だ。問答無用で。


「ち、違う!違うから魔法を発動しようとするでない!守護聖霊とはな、土地や家、街などを守護する存在。言わば守り神のような者。しかし、今の妾は守るべき物が何も無い。それ故に未熟なのじゃ」


「つまり、どっかに住みついて守り神にならないと成長しないと?」


「そうなるのじゃ。そこでどうじゃ?妾を連れ帰ってくれぬか?」


「は?」


「見たとこ、お主は貴族じゃろ?ならばそれなりの屋敷に住んでおろう?妾が守り神になってやるぞえ」


 ……この子が嘘を言ってる様子は無い、

守護聖霊に関してボクに知識は無いが、それなりに強力な存在なんだろう。


 しかし……この姿を見て、誰が彼女を守護聖霊だと思うのだろう。


「…護るのは土地でもいいんですよね?ならいっそこの森とかどうです?」


「いやじゃ!此処じゃ良い男と出会えんじゃろが!」


 いや…その姿じゃ例え出会っても結婚出来るとは…精々、友達。

最悪ペット扱いだろう。


「ならもっとデカく世界を護るとかどう?」


「無茶言いよるのう…無理じゃ。妾は未熟と言うたじゃろ?森どころか屋敷一つを護る守護聖霊になるので精一杯じゃろう」


 …ならグラウバーン家の城も無理そうだけど。

どうするかな…見捨てるのも寝覚めが悪そうだ。

このちんまい容姿も相まって悪人には思えないし。


「だから、な?頼むのじゃ。幾ら未熟でも屋敷の一つくらい守って見せようぞ。妾が守れば警備の騎士なぞ不要じゃぞ?番犬より遥かに有能じゃぞ?あ、部屋や食事はくれよ?給金は応相談じゃ」


「給金を要求する守り神とか初めて聞いたよ」


『ジュン様。旦那様達が向かって来てます。ドラゴンが消えたのを確認した為でしょう』


 …仕方ない。取り合えず父上に事情を説明して、城に住まわせてもいいか聞いてみよう。




「というわけです」


「というわけなのじゃ!」


 ボクとカラミティの二人で父上達に説明をする。

カラミティの容姿を見て、守護聖霊だと言われても誰も信じられなかったみたいだけど、鑑定の結果を伝えてようやく信じてくれたみたいだ。


「守護聖霊…ねぇ。実物を見るのは初めてだな」


「父上は守護聖霊を知っているんですか?」


「ああ。お前が知らない方が驚きだがな。守護聖霊なんて呼び方じゃなく守護神って呼ばれる事の方が多いから無理もないかもしれんが」


「守護神?もしかしてヤマト王国の守護神アメノカクの事ですか?」


「そうだ。アヤメに聞いてなかったのか?」


 ヤマト王国には守護神と崇められる存在がいる。

ヤマト王国の王都イカルガの近くにある山で暮らす巨大な牡鹿で家くらいの大きさだそうだ。


 ヤマト王国では神様の使いとも考えられている。


「アメノカクの事は聞いてましたけど、守護聖霊だとは聞いてませんでした」


「わたくしも知りませんでしたわ。任務で一度ヤマト王国に赴いた時に、アメノカク様にお会いした事がありますが…とてもこれと同種の存在だとは…」


「これってなんじゃ!」


「そうか…ま、ヤマト王国の民の殆どは神として祀ってるしな。俺もアヤメに聞くまで知らなかったし」


「…それで、父上?この子は…」


「勿論、連れ帰って城で暮らしてもらおう。いやぁ守護聖霊に守られた城なんて、他に無いぞ?グラウバーン家の未来は明るいな!」


「うむ!大船に乗ったつもりでおるが良いぞ!」


 小さな胸を張って答えるカラミティに威厳は欠片も感じない。

可愛らしさは感じるが。


『…ジュン様は巫女服がお好みですか?御時間を頂ければ用意して伽の時にでも…』


「うん、違うから。それより、いい加減出て来なさいノルン」


 最近のノルンの思考はどうにも……夜の御奉仕方面に傾いてる気がする。


「それにしても…死霊が進化出来るというのも驚きですが、守護聖霊になれるなんて。貴女は生前から知っていましたの?」


「ん?さぁのう。何故知っておったのかはわからん。生前の知識なのか死後なんらかの形で知ったのか。妾が死霊になってどれだけの年月が過ぎたのかもわからぬわ」


「…その服は巫女服だろう?ならば君はヤマト王国の民ではないのか?恐らく、さっき話に出たアメノカクを祀る…あー神殿?に務める者だったのではないか?」


「さぁのう?そうかもしれんとしか言えぬ。本当に覚えておらぬのじゃ」


「彼女がヤマト王国の民というには名前に違和感がありませんか?」


「アデルフォン王国の民だとしてもカラミティなんて付けないわよ、ヨシュア」


 災厄って意味ですもんね。確かに災厄なんて名前を付ける親はいない。


「ああ、これは妾が自分で名付けたのじゃ。永い永い死霊生活で自分の名前をぽっくり忘れてしもうたのでのう」


「…そんな事ってあんの?」


「さぁ…あるんじゃない?」


「実際に元死霊がそう言ってるわけだしね。でも…どうなの?ティータ」


「さぁ…わからないわ。まともに会話出来る死霊すら珍しいのだし」


「いやいや、それよりもだよ。何だってカラミティなんて名前にした?どう考えても死霊がカラミティなんて名乗ったら悪いイメージしかわかないよね?」


「え?カッコいいじゃろ?それに死霊がアマリリスとかマリーゴールドとか名乗っても胡散臭い事この上ないじゃろ?」


 …そんな理由か。

いや、確かに死霊が花の名前を名乗ってもとは思うけど。

もっと他にあったろうに。


「ま、問題は全て無事解決。オークとゴブリンの死体を処理する必要も無くなったし、帰って宴を開くとしよう。セバスチャンが準備してる筈だ」


「やった!御馳走が待ってるぅ!」


「なら早く帰ら…ねぇねぇ、アレなに?」


 レティさんが指差した先は死霊龍オークゴブリンが居た場所。

浄化された死肉が灰となり風に吹かれて消えて行ったのだが、その灰の中で何かが光ってる。


「もしかして…魔石?」


「デカ!…まぁアレだけデカいドラゴンの中にあった魔石ならこれくらいあっても…」


「いえ、おかしいわ。だってあのドラゴンはオークとゴブリンの死体で出来ていたんでしょう?その死体に入ってた魔石が出て来るならわかるけれど…」


「ああ、多分それは妾が死体を一つに纏めたからじゃな。魔石も一つになって固まったんじゃろ」


 それは…喜んでいいのか?

数千体分の魔石の塊だけあってかなりデカい。

普通の馬車の倍はありそうな大きさだ。


「…ジュン、アイシス殿。これはグラウバーン家で貰ってもいいか?」


「え?」


「浄化したのはジュンだから私は良いですけど…」


「バーラント団長、リーランド団長も構わないか?勿論、正当な金額を支払う事を約束する」


「いえ、アイシスが言うように浄化したのはジュン君ですから」


「まぁ、私達が倒したオークとゴブリンの魔石も一緒に固まってるなら、その分の報酬だけで構いませんよ。ですが、こんな巨大な魔石をどうするのですか?」


「王家に献上しようと思う。これだけ巨大な魔石だ。使い道は限られるだろうが、逆に言えばこの魔石を使うしかない使い道をある筈だしな。陛下は喜んでくれるはずだ。そうなればグラウバーン家は益々安泰だぞ」


 意外と出世欲がありますね、父上。

公爵家にまでなったんだからそんなに欲張らなくてもいいような。


 それに、今はこれ以上の功績を挙げるのは避けた方がいいような気がするなぁ。


「それは止めた方がいいかもしれません。公爵閣下」


「ん?何故だ、ロイエンタール殿」


「グラウバーン家は短期間の間に大きくなりました。故にグラウバーン家を利用しようとしたり、取り込もうとしたり。妬み羨み、潰そうと画策する者が出て来てもおかしくありません。前者はもう出ていますよね?」


「ん…むぅ」


「今回のオーク・ゴブリンの大連合討伐も陛下は評価してくださるでしょう。此処で更に大魔石の献上まで行ってしまえば…目立ちすぎなのは間違いありません。献上するにしても暫く時を置いた方が良いでしょう」


「……ロイエンタール殿の言う通りだな。欲張り過ぎだったかもしれん。この魔石はオークションに流し、売却金は作戦参加者全員にわける。皆、それでいいかな?」


「白天騎士団はそれで問題ありません」


「翠天騎士団もです」


 勿論、ボクもそれでいい。

ロイエンタール団長の言うように嫉妬なんか集めても良い事無いし。


「それでは帰るとしようか」


「早く帰ろうぞ!妾の新天地を早うみたいゆえな!」


 こうして。

ちょっと珍妙な存在を加えて、オーク・ゴブリン連合の討伐作戦は終了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る