第102話 「でも斬っちゃうけど」

「バーラント団長。合図です」


「緑の煙…向こうも予定の配置に着いたようね」


「此処までは予定通りですね」


「ええ。時間が来たら攻撃を開始するわよ」


 オーク・ゴブリン連合討伐作戦も大詰め。

後は巣にいる奴らを殲滅するだけ。

簡単な作業だ。


「簡単…簡単に行きそうに無いよ?アレは」


「エルフの村落跡地…そりゃ巣に選ぶくらいだからある程度は家とか残ってたんだろうけどさ」


「もはや、ちょっとした町…いえ、砦ね」


 オーク・ゴブリン連合の巣に選ばれた村落跡地は奴らの手で増築、改修されていた。


 巣の周りは木材の壁で囲まれ、物見櫓まである。

物見櫓には当然、見張りが居て私達が巣を囲んでいる事には気付いている。


「にも関わらず、襲って来る気配が無いって事は…」


「籠城するつもりかな。援軍なんて来ないのに」


 オーク・キングロードとゴブリン・キングロードの能力に、周辺にいる同種族を呼び寄せる能力があるらしい。


 今もそれは行われているのだろうけど、森は完全に包囲されてる。


 包囲を破り、更に私達白天騎士団と翠天騎士団を突破するような大群がやって来るなんて先ず無い。


「意味無いよねー」


「普通のに人間の軍なら、ね。ゴブリンとオークなら話は別。連中はすぐに増えるから」


「うわ…それって…」


 現在、子作りの真最中…か。

……うん。あまり想像したくない。


「で、でもさ、いくら繁殖力が高いって言っても今日子作りして今日生まれるわけじゃないでしょ?」


「そりゃあそうだろ。私も詳しくないからわかんないけど」


「私も詳しく無いけれど、短期間で此処まで増えてる事を考えると、かなり早いのは確かよ」


 最初にどれだけ居たかわからないけれど、この森の調査は一ヶ月に一度。


 発見出来なかった時間が最長の一ヶ月だったとして、一万規模の群れに育っている事を考えるとかなり早い。


 そうティータは言いたいらしい。


「あたしは一ヶ月足らずであんな立派な建築物を作ったって方が驚きかなー。ゴブリンとオークがさ」


「だね。あいつらってそこまでの知能は無かったでしょ?」


「キングロードは高い知能を持つらしいから。壁くらいは作れるのでしょ」


「言うほど立派じゃないしね。ゴブリンとオークが作ったって事を考えれば、立派と言えなくもないけど」


 木材の壁は枝を落として丸太にした木を並べてロープ代りに蔦を使い縛っただけ。


 物見櫓は風で揺れてる。ちょっと強い風が吹けば倒れそうだ。


「知恵はあっても技術は無いって事ね」


「ふーん…ま、確かにあんな壁、あたし達には有っても無くてもおんなじかぁ」


「そうね…そろそろ予定時間よ」


 時間か。

予定ではジュンがデカい魔法を一発撃ち込んで一気に数を減らす事になってるけど…お?


「来た来た!ジュンちゃんの魔法だ!」


「アレってもしかして…」


神の鉄槌トールハンマー!」


 エメラルダ様が、えっと…毛蛇魔蛇に使っていた魔法だ。

最強の雷魔法。ジュンなら当然使えるよね。


 ジュンが放った『神の鉄槌』は十二分な威力を持ち。

巣を囲んでいた壁は吹き飛び、そこから見える巣の様子はゴブリンとオークにとって地獄絵図だろうな。


 何せ黒焦げの死体やバラバラになって焼けた肉片がそこらに散らばっているのだから。


「……あの、団長?」


「…ハッ。そ、総員!巣に突撃!」


 バーラント団長の号令で巣の中へ。

やはり、巣の中にあったのは死体ばかり。

見る限り動いている奴は居ない。


「ねえ、これ、全滅してない?」


「そう見えるね。うっ、肉が焼ける匂いが凄い…」

 

「戦場で何度も嗅いだ匂いだけど…アイシス、どうしたの?」


「…あそこ。死体が山になってる」


 巣の中央、ゴブリンとオークの死体が重なって山になってる。


 多分、村落跡地に残ってた家の中で一番立派なのがそこにあったんだと思う。


 死体の山の周りにはそれらしい残骸がある。


「あの一箇所に沢山集まってたって事かな?」


「だとしても、あんなに重なってるのは変よ」


 ゴブリンとオーク、両方が重なり合って死んでいる。

どうしてああなったのか、サッパリだ。


「確かに変ですね」


「あ、ジュン」


 反対側からジュン達が来た。

リーランド団長とノルン達も一緒だ。


「ふむ…確かに変だが…全て死んでいるなら気にしなくていいだろう。しかし、まさか魔法一発で数千体を仕留めてしまうとは。凄いね、魔帝殿」


「恐縮です」


「ジュン様、すごーい!」


「ジュン様、素敵!」


「ジュン様、かっこいー!」


「いちいち持上げなくていいから…」


 メリーアン達に褒められてジュンが照れてる。

そういうとこはまだまだ年相応だね。


『ピ!ピピ!』


「ん?ヴィス、どした?」


 ヴィスが何か騒いでる。

と、思ったら飛んで、何かの残骸の上を周ってる。


 この残骸に何かあるのか?


「ヴィス。その残骸に何か感じるのか?」


『ピ!』


 どうやらそうらしい。

て、言われても元が何だったのかすらわからないんだけど。


「デミ・バードの名前、ヴィスにしたんですか?」


「あ、うん。レティの案だよ」


「へへ」


「カルロスやベッカムも良いと思うのだけど…」


「まだ言ってるの?ティータ」


 以外としつこいな、ティータ。

そんなにネーミングセンスを馬鹿にされて悔しかったのか。


「雑談は終わりだ。何かあったようだぞ」


 リーランド団長の視線を追うと…例の死体の山だ。

特に何も変わってない……いや、動いている?


「……何か出て来ますね」


「そのようだね。そこの!死体の山から離れるんだ!」


 死体の山から騎士達が離れた直後。

死体の山が崩れ、中から出て来たのは数十体のオークとゴブリンだ。


「生き残りが居たか」


「察するに、あの一際デカいオークとゴブリンが…」


「うん。オーク・キングロードとゴブリン・キングロードだね」


 他のオークとゴブリンに比べて明らかにデカい個体。

他の生き残りも上位種っぽいから通常の奴よりデカいんだけど、その二体は更にデカい。


 他のが2mくらいだとして、キングロードは3mはありそうだ。


「なるほど。死体の山が出来た理由がわかったね」


「はい。そういう事でしょうね」


「え?どゆこと?教えてよ、ジュン」


「あの死体の山は全て、キングロードを護る為に壁となって覆い被さったんでしょう」


「ボスを護る為に、自分の身体を盾にした…いや、させられた、が正しいかな」


 …オークとゴブリンが?

ボスを護る為に自分の身を挺して?

それじゃまるで騎士じゃないか。


「そんな美しい自己犠牲の精神に満ちた行動じゃないと思うよ。何せキングロードの言葉は絶対。壁になれと命じられたら逆らえないからね」


「リーン、話は後よ。残骸に埋もれて生き残りが他にも居る。まだ動けないうちに始末しましょ」


「あ、バーラント団長」


「ラティスの言う通りだな。よし、サッサと始末して祝勝の宴を開こう。グラウバーン公爵閣下が奮発してくれるらしいからな」


 そーだったのか!

ならサッサと始末しなければ!


「じゃ、私がヤる!ジュン、見ててね!」


「アイシスだけに良いカッコはさせられないね!行くよティータ!」


「ええ!レティは援護お願い!」


「おっまかせー!」


 ジュンが見てるし、此処は華麗にサクッとヤッてしまおう!


「私も行こう。副団長は瓦礫の下敷きになっても生きてる奴を見つけて始末だ」


「はい」


「あ、ボクも行きます」


 私達にやや遅れてリーランド団長とジュンが来る。

ジュンの後ろにはバーラント団長とノルン達も。


 他の白天騎士団と翠天騎士団の団員も突撃してるし、ボスは早い者勝ちだな。


「よーし!ボスは私がやる!ティータとダイナは周りのザコをお願い!」


「あいよぅ!」


「仕方無いわね!」


 先ずはオークのボスからだ!


『ぷぎぃぃぃ!』


「邪魔!」


 ボスに近付こうとする私を止めようとザコが攻撃してくる。


 あ、でも、こいつ…この前のオーク・デュエリストっぽいな。


『ぷっ!?』


「だとしてもザコに変わりなかったな!」


 簡単に両断出来た。

上位種といえど、所詮はオークって事だ。


「さて…ボスのお前はどうだ?やっぱりザコか?それとも少しは骨があるか?」


『ナメルナ!ニンゲン!』


「え?喋れるの?」


 これはビックリ。

まさか人の言葉を使えるなんて。


 あー…これを聞いたら神の子教会の連中がまた煩いんだろうな。


『ぷあっ!?』


「でも斬っちゃうけど」


 デカいし、ボスだからちょっと強めのスキル…『剣術LV9』で覚える『閃光剣』。


 剣を光が覆い、光の刃を形成。

その刃で斬られて体内に刃が喰い込んだ瞬間、光が爆ぜ体内で爆発する。


 命中すれば大ダメージは避けられない。

受けた箇所によっては即死だ。


「こいつみたいにね。さて、次はゴブリンの……あ」


「悪いな。ゴブリンのボスは私が貰った」


 ゴブリン・キングロードはリーランド団長に取られてた。


 チィ…もっとカッコいいとこジュンに見せたかったのに。


 じゃあ他の…も終わってた。


「こっちも終わりましたよ、アイシスさん」


「いやぁジュン君、強かったよ」


「どんどん動きが良くなってますね」


 うぅ…もう全部終わってたか。私の見せ場が…ん?


「今回は大規模討伐だったのにいつもより楽だったな。…ん?何だ、その鳥は」


『ピー!ピピ!ピー!』


「ヴィス?何を騒いでる?」


 ヴィスが急に飛び回って騒いでる。

何だ?何かあるのか?


「リーランド団長!」


「副団長か。どうした?」


「何か変…いえ、此処は危険です!早く離れましょう!」


「何?何故だ。何があった?」


「オーク達の死体が消えました血も、肉も骨も!地面に染み込むように!何か異常な事が起きてます!」


「なんだと…」


「死体が消える?そんな事が…あ」


 私が殺したボスの死体が無い。

ティータ達が殺したオーク達の死体も…今、目の前で消えた。


「ジュン様!此処は危険だとノルンも感じてます!」


「わ、わかった!確かに異常事態みたいですね。早く離れましょう!」


「ええ!白天騎士団!全員森の外へ!」


「翠天騎士団もだ!急げ!」


 両団長の号令で全員が森の外へ向かって走り出す。

向かうは北…翠天騎士団が来た方だ。


「…来るまでに倒したオーク達の死体も消えてますね」


「確かに。これはどういう…」


「団長!後にしましょう!考えるのは!」


 森の外が見えて来た!

公爵様の領軍は健在だ。


「よし、外だ!全員、無事か!?」


「各隊、点呼!」


 どうやら全員、無事みたいだ。

さて…何が起きる?


「な、何だ?」


「森の中…巣の辺りから、何か濃密な気配が…」


「それに…黒い光?」


 何かヤバいのが姿を見せ始めた。

黒い光は集まり、大きさを増し。球体になり。

森の木よりも高くなったところで形を変えた。


 その姿形は……ドラゴン?

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