第101話 「混ざりモノ?」
「団長。撃退完了しました」
「今のは斥候だ。次にそれなりの数が来るぞ。少し進んだ場所で迎撃態勢を執る。基本通りの位置につけ」
「はっ」
開始されたオーク・ゴブリン連合討伐作戦。
現在の所、大きな障害は無い。
魔獣討伐のエキスパート集団だけあって、翠天騎士団は全員冷静。
特に慌てる事なく、問題も無く。
順調に進んでいた。
今の所、ボクに仕事は無い。
「他の魔獣や動物の姿が見えませんね」
「だね。やはりオークとゴブリンに大多数が狩られてしまったのだろうね。エサが無くなれば奴らは活動領域を広げる。ドノー以外の街も活動範囲に入るのは時間の問題だね」
「特にオークは何でも食べますからね…団長、この辺りで迎撃しましょう」
「そうだな。斥候から報告は?」
「ありました。千体規模が向かってるそうです」
「よし。奴らの大好きな粉袋を投げつけてやれ」
迎撃に選んだ場所は小さな川が流れてる場所。こちら側と対岸は木々が少なく、視界が開けてる。
迎撃するにはいい場所だろう。
「各隊、配置完了しました」
「うむ。姿を見せたら先ず粉袋を投げて無力化するぞ。その後は魔帝殿も攻撃に参加するといい。此処まで歩いてるだけだったから暇だろ?」
「そうですね。やります」
「じゃ、私達もですね~」
「…構わないぞ。それより、今更だが…メイド服で大丈夫か?」
「問題ありません!メイドの戦闘服はメイド服です!」
「いや、そもそもメイドは…まぁいい。それより、そこの君はいい加減出てきたらどう?」
『う…』
リーランド団長に言われ、渋々と言った感じでノルンが出て来た。
やはりリーランド団長はノルンの存在を完全に感知してたらしい。
勘や当てずっぽうでは無く。
「なんだ、影の中に居たのもメイドなのか」
「見えていたわけじゃないんですね。気配でも感じてたんですか?」
「うん。隠れるならもっと完全に気配を消して隠れなきゃね。もっと上手く隠れる魔獣はいくらでも居るよ」
「…精進します」
ノルンの気配の遮断は上出来だと思ってた。
実際、白天騎士団の人は全員気付かなかった。
「とは言えね。私や翠天騎士団の団員に何人か気付けるのが居るってだけだ。君は中々上手く隠れてる方だとは思うね。落ち込む事は無いよ…っと、来たね」
「来ましたね」
只のゴブリンが先陣を切り、川向こうから突っ込んで来た。
後ろには上位種もそこそこ見える。
「よし、奴らにプレゼントをくれてやれ!」
リーランド団長の号令で一斉に粉袋が投げられる。
トウガラシの粉袋が投げられ、川向こうは赤い煙で薄く染まる。
ゴブリンとオークは鼻が良いので少量の粉でのたうち回るのだ。
「よーし!攻撃開始!」
粉袋の次は魔法と弓矢で遠距離攻撃。
此処からはボクも参加だ。
「火魔法は森に火が点いちゃうし、水魔法と風魔法は粉をとばしちゃうから、此処はマジックショットでやろうかな」
「じゃあ私達もジュン様に倣って~」
トウガラシの粉を吸い込んで身動きが取れない所へ遠距離からの攻撃。
オークとゴブリンは無抵抗で死んでいく。
「ふうん?魔帝殿のマジックショットは変わってるな。大きさは小さな石のようなのに、随分貫通力があるようだね」
「一発で二、三匹貫いた後に木や岩すら貫通してますね」
「小さく凝縮する事で威力を上げたマジックショットですから」
色々と応用が利くのが無属性魔法の利点だしね。
大きさを変えるくらい容易い。
「あらかた片付いたかな」
「いえ、団長。まだ何かいます」
「アレは…?」
通常のゴブリンとオークと一緒に巨体な上位種と思われるものが数体。
森から出て来た。
その中に、これまで見た事のないオークが十体。
どこで調達したのか知らないが、大きな盾を持っている。
肌…いや、毛色か。
他のオークは茶色かこげ茶色なのだが、その十体の毛色は青。
顔つきも違うし、体躯も大きい。
「アレは…恐らく混ざりモノだね」
「混ざりモノ?」
「オークは他の種族とも子を成せる種族だからね。アレはオークとは別の種族との間に生まれた個体なんだろうね。何と混ざったのかはわからないけどね」
他種族との混血か。
ならその他種族の特徴とか特性とか、受け継いでいる?
「突っ込んで来ましたよ!」
「ふむ。盾を持たせた巨体の戦士を壁にして距離を詰めるつもりか。バカなりに頭を使ったじゃないか。だが、その程度の数ではな!総員!迎撃しろ!」
盾を構えながら突撃してくる混ざりモノ達。
だけどたった十体では幾ら盾を構えていようと直ぐにハチの巣に…ん?
「ジュン様、アレ…すぐに傷が治ってませんか?」
「アレは…トロールの再生能力か。どうやらアレはオークとトロールの混ざりモノらしいね」
トロール…オークと同じく巨躯で怪力。
粗暴で希少の荒い二足歩行の怪物。非常に高い再生能力を持つ。
見た目は青い肌で醜悪な面構え。
髪の毛もあり、人間に近いと言えば近い見た目。
だが、れっきとした魔獣だ。
噂では世界の何処かにトロール・クイーンと呼ばれる、人間から見ても美人で意思の疎通も可能な存在も居るとか。
「そ、そんな事より!突っ込んで来ますよ!」
「慌てるな、メイド。接近戦になったとしても負けはしない。だが、そうだね。ジュン殿。魔法で奴らだけを燃やしてくれないか」
「燃やす、ですか」
火魔法で奴らだけ燃やせって事ですか。
トロールに対する戦法と同じですね。
「じゃ…ファイアボム!」
オーク達が河を渡り切る前に混ざりモノ達を火魔法で燃やす。
盾で防ごうが、ボクの魔法なら盾ごと燃やす事も出来る。
「どうです?」
「…うん。流石だね」
「普通は燃やし続けて再生能力を封じつつ、呼吸も封じて窒息させるのですが…一瞬で灰になっちゃいましたね」
「え?そうだったんですか?」
トロールには火魔法が最適だとしか聞いてなかったから、てっきり。
火魔法で一瞬で灰にするのがいいって意味だとばかり。
「それが出来るなら、そっちの方が手っ取り早いけどね…まぁいいさ。残りはザコだ!遠距離攻撃を継続!近づいて来たヤツだけ接近戦で対処だ!」
壁役が死んだ事で無防備になるオークとゴブリン達を殲滅する。
それなりの数が居るのでこちらまで辿り着く個体もいるが…
「うー!にゃー!」
『ぷぎぃ!』
と、リーランド団長が即座に排除してる。
他の翠天騎士団も別に接近戦に弱いわけではないので、順調に始末出来ているようだ。
「あ!避けるんだ!」
リーランド団長の警告で皆が一斉に木の陰に入る。
即座に何かが飛んで来る。
血をまき散らしながら飛んで来たそれは…ゴブリンの死体?
「死んだゴブリンを投げつけて来たのか!」
「隊列が乱れた隙に距離を詰めようと言う魂胆ですね。今回の敵は随分と頭を使いますね」
死んで走るのに邪魔になってる仲間の死体を投げつける…か。
人間には出来ない所業だな。
「チ…大分距離を詰められた。だが、まあ問題無い。総員!接近戦に移行だ!数はもう少ない!複数で囲んで始末しろ!」
「むしろ接近戦が得意な者ばかりですもんね。団長含め」
そうみたいですね。
接近戦の方が活き活きとしてる人が多い。
…ウチのメイド達含め。
「アハハハ。おっそ~い!」
「ゴブリンの返り血とか、臭そう~浴びないようにしなきゃ」
「そうねー返り血に塗れちゃったらジュン様にくっつけないしー」
「…先輩達!油断は禁物です!」
ほんとにね。
血塗れでくっついてくるのは勘弁してね。
それよりも、ボクも見てるだけじゃなく戦わなきゃ…お?
ちょうど手頃そうな相手が。
「あ?ちょっと、ジュン殿!」
オーク・グラップラーかな?
他のオークと比べて動きが俊敏で格闘戦を得意とする上位種。
『ぷぎぃああああ!!』
「悪いね。遅いよ…スキル!千刃!」
「え?」
オークが拳を振り抜くよりも速く。
千の斬撃でオークを斬り刻む。
『ぷぎぃ?…ぷ』
「残念だけど…君はもう死んでいる」
一瞬で千の斬撃を繰り出すスキル「千刃」。
オークに使えばオーバーキルもいいとこだな…ん?
「ジュ…ジュン殿。今のは『剣術LV8』で使える『千刃』だろう?君は『魔帝』でありながら剣の腕もそこまで高いというのか?」
「凄いですね…エメラルダ様もビックリでしょう。若干十四歳でそこまで…」
「ウチのジュン様は天才ですから!」
しまった…メイド達は知ってるけど、リーランド団長達はボクが剣も使える事は知らなかったか。
いや、問題は無い、か。
武芸大会には剣部門で出るんだし。『剣帝』にまで至ってると知られ無ければ。
「拙いですね、団長」
「…え?何がだ?」
「ジュン様の正妻になるには今の団長では釣り合いがとれません。翠天騎士団の団長である限りは伯爵位扱いですが…結婚して退役すれば意味がありませんし」
「……は!?」
「団長の実家は男爵家ですから残念ながら家格が釣り合いませんし…他の女性達とは違うアピールポイント…例えばそう!『戦帝』に至るとかすれば!」
「待て!バカを言うな!け、けけ、結婚とか!私はまだそんなの考えてない!」
「そんな事言ってると行き遅れになりますよ!もう既に十分に襲いのに!バーラント団長やクリムゾン団長みたいになりたいんですか!」
「副団長…お前、あの二人に聞かれたら殺されるぞ…」
本当に。
ボクなら怖くて絶対に言えないですよ。
例えどれだけ離れた位置に居たとしても。
「大丈夫です。ほら」
「ん?アレは…」
「白天騎士団が予定の位置に着いたみたいですね」
「先を越されてしまったか。こちらも急ごう」
白い煙が森から登ってる。
アレは白天騎士団が予定した位置に着いたという合図だ。
「我々が千体以上。向こうも同程度始末したとして、残り六千体ほどか」
「残りは巣に籠って迎え撃つつもりでしょうか。思ったより数が減らせませんでしたね」
「だな。だが問題無い。予定通りにやるぞ」
もうすぐ奴らの巣か。
討伐作戦も大詰めだな。もうすぐ作戦完了だ。
このまま何事も無ければ、だけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます