第100話 「お前は今からヴィスだ!」
「団長。時間です」
「ええ。白天騎士団!進軍開始!」
オーク・ゴブリン連合討伐作戦。
私達白天騎士団は南から森の中を北上する。
翠天騎士団は北から南下。
グラウバーン公爵領軍と黄天騎士団は森の包囲だ。
「ん~…わかっちゃいたけど、鬱陶しい!」
「ザコばかりがワラワラと。これ、死体の始末だけでもかなりの労働になるね」
「親玉!早く出て来いってーの!」
「何言ってるの。群れのボスを先に倒したら他のは散り散りに逃げ出す。そうなったら厄介よ…ふっ!」
上位種が数多く存在すると言っても一番多いのは只のオークとゴブリンだ。
特にゴブリンの数が多く、散発的に襲って来る。
「体色が緑のゴブリンは森の中じゃ厄介だから、舐めてると痛い目を見るわよ…ところで、アイシス。その子、連れて来て大丈夫なの?」
『ピ?』
「うん。城で寂しそうにしてたって言うし、一緒に来たがってたらしいから」
デミ・バードはグラウハウトの城で預かってもらってたのだけど、ジュンが一度戻った時に連れて来た。
どうしても連れて行けとばかりにくっついて来たそうだ。
今は私の肩の上にいる。
「お腹でも空いたのかね」
「そういやジュンちゃんかアイシスの魔力が御飯なんだっけ。ところで名前は決めたの?」
「いや、まだ。中々良いのが浮かばなくて」
「シュナイダーとかルードヴィッヒとかはどうかしら?」
『ピピ』
「ちょっと鳥に付けるにはかっこ良すぎない?」
「ティータのネーミングはイマイチ、と」
「本人もイヤみたいだしね」
「悪かったわね…」
確かに、デミ・バードも首を振ってる。
それ以前に、この子は雄なのか雌なのか?
『ピ!』
「え?――おっと」
デミ・バードから何となく警告の意思が伝わって来た気がすると思ったら矢が飛んで来た。
粗悪な出来の御粗末な矢だ。当たってもどうと言う事も無かっただろうな。
『ピ!ピピ!』
「ん?えーと…あ!レティ!左斜め上!距離80!」
「ん!見つけた!」
今度は矢を射って来たゴブリンの凡その位置を伝えて来た。
鳥だけあって眼と感覚が鋭いらしい。
私やレティよりも早く敵の存在に気が付いていた。
「とはいえ、そんなの関係ないってくらいに一杯いるんだけど!」
「来た来た!今度は大物っぽいのも来たよ!」
「レティは木の上から援護して!アイシスは上位種を中心に狩って行って!」
散発的な襲撃から一転、今度は纏まった数で襲って来た。
ゴブリン・コマンダーやオーク・グラップラーなんかが居る。
それとちょっと厄介なのがゴブリン・ライダーだ。
猪型の魔獣や狼型の魔獣に乗って森の中を自由に駆け回る。
人間の足と比べて、かなり早い。
「団長、かなりの数が来ました。作戦を実行しますか?」
「ええ。総員!奴らにプレゼントを投げてやりなさい!」
団長の号令で、全員が小袋を投げる。
中身は前回の作戦でも使った唐辛子の粉だ。
今回は近くで使う為に少量だが。
『『『『プギャアアア!!』』』』
「おー…わかっちゃいたけど、効果覿面」
「ダイナ、アイシス。吸わないように気を付けなさい。レティは降りて来ちゃダメよ!」
「わかってるよー」
人より鋭い感覚を持つ獣人のレティが吸い込んだら酷い事になるだろうからね。
まともに吸ったゴブリンとオーク達は苦しみ悶えてる。
ゴブリン・ライダーの騎獣達も同様だ。
「そろそろ頃合いかな?」
「ええ。行きましょ」
「よし。お前は此処に入ってな」
『ピ』
デミ・バードは服の中に避難させて、と。
「てぇりゃ!そのまま悶えてろ!その苦しみから解放してやる!」
苦しみ悶えてるオークとゴブリンの首を刎ねるだけの簡単な作業。
こうなれば上位種だろうがなんだろうが関係ない。
「皆!遠くから矢と魔法が飛んで来るよ!」
「ダイナ!」
「おう!皆、私の後ろに!」
矢と魔法が飛んで来る。
その全てをダイナの盾が防いでくれる。
が、しかし…
「バカ共が!森の中で火魔法を使うヤツがあるか!」
「しかもこんな連発して!これじゃあっと言う間に延焼しちゃう!」
チッ!仕方ないなぁ!
水魔法で消すしかないか!
「アクアショット!アクアショット!アクア………あっ」
「ちょっとアイシス!もうちょっと加減しなよ!」
「火を消すのはいいけど、威力ありすぎて木が倒れてるよ!何本か纏めて!」
「巻き添えでシャーマン達も倒れたのは良かったけど…」
こ、こっちに倒れてたら味方が巻き添えになるとこだった。
危ない危ない…団長にどやされるとこだった。
「アイシス!火は私が消すからシャーマン共を倒しなさい!」
「りょ、りょーかい!」
団長は水魔法が使えるんだったか。
それと魔剣に宿ってる水の精霊「ネレイド」の力を使って消火してる。
流石に精霊は魔法の扱いが上手い。
「と、そんな事よりも、だ」
先にシャーマン共やアーチャーを始末しないと。
魔法…はさっき怒られたばっかりだし、ここは団長に倣って魔剣『エア』の力で。
「行け、エア!」
魔剣からウインドショットのような風の塊が複数飛び出す。
私達が使うウインドショットよりもずっと小さい、手の平サイズのウインドショットだ。
それが無軌道に飛び交う。
対象以外の木や岩は避けて。
「この魔法は確か…ウインドミサイルか」
「魔剣がこの威力の魔法を使うとか、便利ね」
魔剣に封入されてる魔法は通常一種類。
それを消費MPが極僅かで使え、魔法が使えない者でも使えるのが利点。
更に精霊、或るいは聖霊が宿っている魔剣は精霊か聖霊が魔法を使うので消費MPは0。
多様性に富んだ魔法が使える。
威力も他の魔剣とは段違いになる。
ま、それでもジュンと私が使った魔法の方が威力は高いのだけど。
「さて…粗方片付いたけど、まだ遠くに何匹か居るね」
「アレは逃げてるだけよ。ボスの下へ向かってるんだろうから、放って置いても…倒れたわね」
「ふっふ~ん!あたしからは逃げられないよ!」
逃げ出した奴らは木の上に居るレティが仕留めた。
『雷鳴の弓』を手に入れたレティの射程は三百メートルは軽い。
今のは百メートル前後の距離だったし、楽勝だったみたいだ。
「さて、次は?」
「…来ないみたいね」
「翠天騎士団側にも襲撃してる筈だし。そろそろ手が回らなくなったかね」
「そうなのかな。出て来ていいよ、デミ・バード」
『ピピ』
「…ねぇ、デミ・バードって呼び方は可哀想だしさ。早く名前付けてあげなよ」
「ボナンザなんてどうかしら」
…ティータは鳥に付ける名前だって解ってるのかな。
子供に付けるんじゃないんだからさ…
「あたしはヴィスなんていいんじゃないかなと、オススメする~」
「ヴィス?」
木から降りて来たレティが話に加わる。
ヴィス?悪くない響きだけども。
「何か意味があるの?」
「あたしの故郷に伝わってるんだけど、古代語では鳥の事を『アヴィス』って言うんだってさ。そこから取ってみました~」
なるほど。
ふむ…ヴィス…いいかもしんない。
「よし!レティの案を採用!お前は今からヴィスだ!」
『ピ!』
「…レオナルドとかポルナレフとか、カッコいいと思うのだけど…」
ティータはまだ言ってる。
さりげなく新アイディア出してるし。
ネーミングセンスがイマイチと言われたのがショックだったのかな。
「目的地は近い!各員、予定通りの位置に着きなさい!」
おっと。
目的地のエルフの村落跡地に着いたらしい。
そろそろ大詰めだな。
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