第94話 「せめて美少女と言え!」

「それではオーク・ゴブリン連合討伐作戦を会議を始める。議長は私、翠天騎士団団長リーン・リーナ・リーランドが務める」


「「「「………」」」」


 ドノーの防衛体制と周辺の村々の避難が完了した翌日。

グラウハウトから援軍に来たグラウバーン領所属騎士団と白天騎士団が到着。


 更にボクが転移魔法で翠天騎士団の団長と部下の五十名を先行して連れて来た。

魔獣討伐のエキスパート集団の翠天騎士団の団長故に、リーランド団長が討伐作戦の指揮を執る事に。


 即、各責任者を集めた会議の議長も引き受けてくれたのだが…会議に参加してる人の顔は不安げだ。かくいうボクも、初めて会った時は驚いた。


 何せ、リーランド団長の見た目は十歳前後の女の子。

深緑の髪をショートカットにしたつり眼の小柄。化粧をして厚底のブーツを履いて少しでも大人っぽくなるように見せてるのが逆に子供っぽい。


 しかし、あれでもリーランド団長は二十代後半。

現、七天騎士団団長の中では新米団長だが歴代翠天騎士団団長の中では最強の呼び声が高く、翠天騎士団自体も七天騎士団の中で最強と言う人もいるのだとか。


 …いやいや。自分で言っててなんだけど、とても疑わしい。


「(本当なんですか?翠天騎士団の事はいいとして、リーランド団長の事は。年齢とか年齢とか年齢とか!)」


「(…年齢だけが信じられないのね。本当よ。リーンの母親はドワーフとヒューマンのハーフで、父親はハーフエルフとハーフドワーフの両親を持つクォーターなの)」


 な、なるほど…そしてドワーフの血が一番強く出たのがリーランド団長なんですね。

そして本人は自分の見た目が幼い事を凄く気にしている、と。

…不憫。


「(リーンの家は男爵家で下級貴族の出、その容姿もあって舐められる事が多かったの。それら全てをリーンは実力で捻じ伏せて来た。だからあの子を侮るような発言はしない方がいいわよ)」


「(わ、わかりました)」


「そこ!何をブツブツ言っている!」


 あっ、と…ラティスさんと話して居たら怒られてしまった。

でも、怒ってる姿も幼い………ん?


「す、すみません!」


「申し訳ありません!……ですが」


「何だ?何か言いたい事でもあるのか?」


 おっと、違った。

ボク達じゃなかった。

アレはドノーの代官と守備隊の隊長か。


「あの……貴女は本当に翠天騎士団の団長…なのですか?」


「貴女のような幼女が……ジュン様が最年少で魔帝に至ったよりも信じ難いのですが」


「よ、幼女だとぅ!?」


 あ、逆鱗に触れた。しかもボクを引き合いに出した。

しかし、他の参加者も同じ事を思っていたようだ。

同意と言わんばかりに頷いている。


「きっ、貴っ様ぁ!よりによって幼女だと!?せめて美少女と言え!」


「いえ、団長。ツッコむところはそこじゃないです」


 リーランド団長の隣に居るのは翠天騎士団の副団長。

副団長は見た目通りの年齢らしく大人の女性という感じ。

リーランド団長と並ぶと余計に大人と子供にしか見えない。

下手をすれば親子だ。


「いいか!私は立派な大人!立派なレディだ!年齢は二十七!趣味は釣りとガーデニング!好きな飲み物はコーヒー!酒だって嗜むんだからな!」


「確かに団長の年齢は二十七ですが、まだ下の毛は生えていません。恐らく一生生えないでしょう。当然、処女です」


「なっ!?」


「趣味の釣りとガーデニングは大人っぽいからと始めたものの、あまり身が入っていません。本当は楽しくないのでしょう」


「おい!」


「コーヒーは砂糖とミルクをたっぷりいれないと飲めないし、お酒は甘い果実酒のみですね」


「余計な事言うな!」


 ああ…皆の眼が微笑ましいモノを見る眼に。

どう聞いても子供が背伸びして大人っぽく振舞おうとしてるようにしか聞こえない。


 あの副団長もわかっててからかってるな。


「何を笑っている!おい、バーラント団長!貴女からも言ってやってほしい!」


「あ、ああ、はいはい。皆さん、この子は確かに翠天騎士団の団長です。白天騎士団団長ラティス・バーラントが保障します」


「は、はぁ…」


「どーだ!わかったか!」


 わざわざ椅子の上に立って胸を張るリーランド団長。

そういうとこが子供っぽいです。


「全く…つまらん事で会議が中断されてしまったな。副団長、状況の説明の続きを」


「はい。えー…周辺の村々の避難は完了しました。ドノーの防衛体制も整いました。念の為、近くの街にも警戒するように伝達してあります。援軍はグラウバーン公爵様がグラウハウトで編成中。翠天騎士団も三日後にはドノーに到着の予定です」


「オーク共の状況はわかるか?」


「偵察隊からの情報が挙がりました。オーク共は避難して無人となった村を占拠。そこを新たな巣と定めたようです」


「まさか…もう巣別れが始まってるのか!」


「巣別れ?とは何ですかな、リーランド団長殿」


「巣別れというのはな…」


 巣別れ。

オークやゴブリンの群れはある程度増えると、巣の中でも強い個体を新たなボスとし。

群れを二つに分けるらしい。


 新たな群れは近場で巣を作り、元の群れと協力して群れを大きくしていく。

そして更に群れをわけて行き、最終的には大集落を作る。


「巣別れを行うという事は七、八千程度には増えたという事…ゴブリンも混ざっているからか、かなり群れが大きくなるのが早いな。いや、それにしても早い…」


「それに関してはうちの団員から報告があったわ。村を占拠したオークの部隊の中にオーク・デュエリストを確認したそうよ。ソレが巣別れした群れのボスだとしたら、元の群れのボスは更に上の存在という事になるのではないか、ってね」


「オーク・デュエリストよりも上位の存在だと?そんなもの…まさか、オーク・キングロードか!」


 オーク・キングロード…オーク種の中で最上位存在か。

オークはそれほど知能は高くない。

だけどオーク・キングは例外で知能は高く、その中でも特に高い力を持ったのがオーク・キングロード。


 もしも本当にオーク・キングロードが居るとしたら…日を追う毎にオークは増え続ける。

一刻も早い対処が求められる。


「そ、それが本当なら、もっと戦力を集める必要があるのでは?」


「ん?うむ…魔帝殿。公爵閣下はどれぐらいの援軍を率いて来るか、わかりますか」


「そうですね…恐らく、五千程度かと」


「五千…翠天騎士団と白天騎士団。それからドノーに駐留してる戦力を合わせても一万程度か。八千程度のオーク共を全滅させるには…過剰な戦力だな」


「…は?か、過剰?」


「ああ。例えオーク・キングロードが居ようと、これからも増え続けようと。翠天騎士団だけでも対処可能な事態だ。白天騎士団の協力があれば余裕だな。そうだよな、副団長」


「はい。まだ十分に対処可能かと。ですが念を入れて、援軍と翠天騎士団が到着する前に、その巣別れした群れを殲滅しておきましょう」


「そうだな。ではバーラント団長。すまないが私の指揮で動いてもらうぞ。先ずは群れの片割れを潰す」


「魔獣討伐に関しては翠天騎士団の団長に優先指揮権がある。気にしなくていいわ。了解よ」


 それから、守備隊の配備状況や偵察隊の報告確認をしてから会議は終わり。

明日の早朝、白天騎士団は出撃する事になった。


 そこでリーランド団長の実力を知る事になる。

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