第95話 「一発かましてやれ」

「おーおー…わらわらと。よくも此処まで増えたものだね」


「これで片割れですからね。ザッと見て村の中に三千は居ますね。この数まで増えた事例はそうはありませんね」


「それにしては落ち着いてますね」


 ボクは今、リーランド団長と一緒にオーク達が占拠した村を上から一望出来る、少し高い丘の上にいる。


 ラティスさんも一緒だが、何故かボクもリーランド団長に付いて来るように言われた。


「あの…何故、ボクを連れて来たのです?」


「何、いい機会だから魔帝殿に翠天騎士団の力を見せてやろうとね。君の力を見てみたいというのもあるけどね」


「リーン、ジュン君はグラウバーン公爵家の嫡男であり男爵様です。危険な目に会わせるわけには…」


「わかっている。いざとなったら転移魔法で逃げてくれていい。だが此処はグラウバーン家の領地だ。勇猛さで知られるグラウバーン家の者が自分の領地で起きている事に、何もしない訳にもいかないだろう?」


「それは…」


「ラティスさん、ボクなら大丈夫です」


「それに彼には頼もしい護衛が付いているようだしね。忍術使いかな?」


「え?誰の事?」


「…気付いていたのですか?」


『……何故、バレたのでしょう。今まで誰にも気付かれた事は無いのですが』


 ボクの影にはノルンが潜んでいる。

ラティスさんには止められていたのだが、ボクの影に入って無理やりついて来た。


「それで実際どうだ?君にも手伝って貰いたいが」


「問題ありません。やりますよ」


 あの程度の数のオークならボク一人で全滅させる自信はある。

護る物が何も無ければ、魔法でどうとでもなる。


「よし。では魔帝殿のお手並みを拝見しようか」


「構いませんけど…何をすれば?」


「今、部下達が作戦の準備をしてる。準備が整い次第作戦を開始する。魔帝殿は合図したら魔法を放ってくれればいい。ただし、村の家屋は傷付けないようにね。でなければ、ここでまた村人が暮らす事が出来ないからね」


 つまり…この距離から家を傷付けずにオーク共だけを狙え、と。

随分とテクニカルな要求をしてくれるなぁ。


「リーランド団長。準備が整いました」


「よし。作戦開始だ!」


 翠天騎士団の副団長が音が出る矢を空に向けて放つ。

すると、村の周囲に潜んでいた翠天騎士団の団員達が村の中に何か煙が出てる物を投げ入れる。


「アレは?」


「硫黄や粉末状にした唐辛子だ。オーク共は鼻がいい。あんな刺激物を村の中に放り込まれたら…」


「…苦しみ悶えてるわね」


 …えげつない。

というか、アレはオークだけじゃなく大体の生物には有効なんじゃ?


「ちょっと、リーン。オークが村から出るわ。森に逃げ込まれたら厄介よ」


「大丈夫だ。森の方は風上だ。逃げるならこっち側だ。だが、その前に…出番だ、魔帝殿。一発かましてやれ」


「はい。行きます」


 家を壊さず、オークとゴブリンだけを狙う。

つまりは路地や広場だけを魔法の効果範囲に入れればいい。


 なら…この魔法でいくか。


「アイスピラー!」


『『『プギィギィィィ!!!』』』


 村の中に、家屋を避ける形で空中から氷の柱を落とす。

家屋の外に居たオーク達は氷の柱に貫かれ、大多数が絶命した。


「やはりこの距離で家屋を避けて、となると幾らかは取りこぼしてしまいましたね」


「……いや、凄いね。まさか一発の魔法で大半をヤってしまうとは思わなかった」


「それより、リーン。先にオークの始末よ」


「そうだね。よし、全軍!突撃するぞ!」


「煙を吸わないように気を付けて!森からオークの増援が来る事も頭に入れておくのよ!」


 リーランド団長を先頭に、翠天騎士団の先発隊二百名が突撃する。

その後ろに白天騎士団が続く形だ。


「ジュン君はどうする。ここで待ってる?」


「いえ、ボクも行きます」


「じゃあ、私から離れないでね」


 少し遅れてボクも村の中へ入る。

最初、村の中に居たオークとゴブリンの数は三千。

ボクの魔法で千は倒した。


 残り二千とは村の中で交戦中だ。

刺激物の効果がまだ残っているのか、オーク達はまともに応戦出来ずにいる。


 そんな中、リーランド団長が先頭で戦っているのだが。


「うー!にゃー!」


「でぇい!にゃー!」


「とぅりゃ!にゃー!」


 …可愛い。

魔獣と戦ってる姿なのに、可愛い。

何、あの可愛い戦う小動物。


『……ジュン様?』


 いや、ノルンもアレ見たら同意するよ?絶対。

ところでにゃーって何さ。猫獣人の血も混ざってるの?

いや、純血の猫獣人だって「にゃー」とか叫ばないけど。


「それにしても…リーランド団長ってあんな斧もってましたっけ」


 リーランド団長は自分の身の丈よりも大きな斧を振り回してる。

明らかに斧の方が重いだろうに。よくアレで振り回されないな。


「リーンの武器は魔法武器。平時は手斧サイズに。戦時はあのサイズに出来るの。重さは変わらないけどね」


 つまり、斧を振り回してる力はリーランド団長の素?

自分の身長と体重を越える重さの武器を扱えるだけの力が?


「あの子はドワーフの血を引いてるのもあるけど、アビリティと称号にも恵まれてるから…ジュン君、左!」


「おっと」


 家屋から飛び出して来たゴブリンの攻撃を躱し、斬り伏せる。

ナイフを持ってるが、粗悪な出来の石のナイフだ。

毒を塗っているが、ステータスの差で攻撃を受けたとしても無傷で済んだだろうな。


「お見事。本当に腕を上げたわね」


「ありがとうございます」


 しかし、精神が入れ替わってボクがアイシスさんの身体を使っていた時の方が、剣の腕は上の気がする。


 以前指摘された経験の不足による隙なんかも無かったように思う。

もしかしたら、その辺りもあの入れ替わりによって共有していたのかもしれないな。


「お?居たなボス。私が相手になってやろう!」


 アレがボス?

オーク・デュエリストだったか。

確かに普通のオークよりかなりデカい。


 アレとリーランド団長が対峙すると…巨人と子犬だな。

…本当にアレとやるの?

いや、リーランド団長が弱いとは此処までの戦いを見て、思ってないけど。

どうしても不安になる。


「リーンなら大丈夫よ。翠天騎士団の誰も手助けしようとしないでしょう?」


 確かに誰も助けに行かない。

まだ皆戦闘中だという事もあるけれど、状況は圧倒的に優勢なのに。


 あ、いや。一人だけ居た。


「あ!居たー!リーランド団長!そいつは私にやらせてー!」


「ん?剣帝か。悪いね、こいつは私の獲物だ。君はまだそこらに居る小物で我慢したまえ」


「えー!そいつには借りがあるんだ!だから私が!」


「はいはい。諦めなさい、アイシス」


「すみせんでしたー」


「やっちゃってくださーい」


 アイシスさんがオーク・デュエリストとやろうとしてたがティータさん達に止められた、

借り?以前何かあったの?


「ふん。どうした?来ないのか?」


『ぷるああああああ!!!』


 睨み合っていたリーランド団長とオーク・デュエリストだが、先に動いたのはオーク・デュエリスト。


 オーク・デュエリストの武器は奇しくもリーランド団長と同じ斧…戦斧だ。

オーク・デュエリストは両手で戦斧を持ち連続攻撃を続けている。

その一発一発が、人間なんて簡単に両断出来るだろう一撃。

巨体のオーク・デュエリストなら家だって両断出来そうだ。


 そのオーク・デュエリストの攻撃をリーランド団長は捌き続けている。

片手で持った戦斧を使い、その場から一歩も動かずに。


「凄い…」


「リーンは『戦斧術』のアビリティを持つ、戦斧の達人。未だ『帝』にこそ至ってはいないものの、彼女の強さは本物。ジュン君やアイシスが出て来る前はリーンが次の『帝』だって言われてた程よ」


 リーランド団長が『帝』に至る…『戦斧術 LV10』を獲得して得られる称号は『戦帝』だったか。


 …リーランド団長に似合わない称号だなぁ。

 

『ぷふぅー…ぷふぅー…』


「もう疲れたのか?鍛錬不足だな。では、もう飽きたし、止めをくれてやる」


 両手で戦斧を持ったリーランド団長は高く飛び上がり、風車のように回転する。


「断空斬!」


『ぷっ!ぷおっ…』


 見た所、身体ごと回転する遠心力と戦斧の重さで対象を両断する技か。

オーク・デュエリストは自分の戦斧で受け止めようとしていたが、リーランド団長はその戦斧ごと、オーク・デュエリストを叩き斬った。


 頭から胴体を縦に真っ二つだ。


「断空斬は『戦斧術 LV3』で覚える事が出来るスキル。それほど高等な技じゃないのにオーク・デュエリストを一刀両断にする。流石ね」


 凄いな…歴代の翠天騎士団団長の中で最強と呼ばれるだけはある。


「ボスは仕留めた!残ったザコは逃げようとするぞ!一匹も逃がすな!」


「「「おお!」」」


 ボスを仕留めてもリーランド団長は冷静だ。

翠天騎士団はリーランド団長が言う前に殲滅に動いていたし、オーク達の行動が予測出来ているのだろう。


 流石は魔獣討伐のエキスパート集団だ。


「リーランド団長!森から別のオークの群れが来ます!ゴブリンも混ざってます!」


「それは恐らくは狩に行ってた連中だな。巣の異変に気付き戻って来たか。始末しろ!」


 追加が来たか。

最初の魔法以外活躍してないし、ボクもやるとしますか!

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