第28話 「突然なんです?」

「それでは作戦を開始する!アイシス、頼んだわよ!」


「はい」


 大森林の魔獣殲滅作戦。

これだけの大森林に生息する魔獣を殲滅するとなると、七天騎士団でも相応に被害が出る。


 普通にやれば。


「白天騎士団、蒼天騎士団、タッカー侯爵軍。行動開始しました」


「予定通りね?」


「はい。順調です」


 作戦はこうだ。

先ず白天騎士団と蒼天騎士団で大森林を半円状に囲む。

そして魔獣が嫌う香を炊きながら進み、風魔法を用いて奥より、奥に送る。

逆に森の中央には魔獣が好む香…血の匂いがする物を置いておく。

それはボクが事前に転移魔法でやっておいた。


 すると当然。

森にいる魔獣は中央、一ヵ所に集まるわけだ。


「ヒューゴ、どう?」


「順調よ~ん。予定地点に集まって乱痴気騒ぎね。美しくないわ~」


 バーラント団長がヒューゴと呼んだ人物は橙天騎士団の団長。

ヒューゴ・ニューゲイト。全身をオレンジ色で統一した服装。

上着はノースリーブのジャケットのみ。ズボンは短パン。靴はよくわからないヒラヒラとキラキラがついたロングブーツ。

髪型はオレンジ色に染めたアフロ。そして四角形のサングラス。

とても騎士団の団長には見えない。何処かのショーダンサーと言われた方が納得出来る。

更に意外なのが…ニューゲイト家は公爵家でヒューゴ団長はその次男だという事だ。


 そう、女性口調だがヒューゴ団長は男だ。

最初に挨拶した時、家名で呼んだのだけど「だめよ~ん。前にも言ったようにヒューゴ団長って呼びなさ~い」って言われたので、そう呼んでいる。


 橙天騎士団の役割は三つの部隊に別れて各軍のバックアップ。

ヒューゴ団長が此処に居るのはボク達の…いや、ボクの魔法の強化の為だ。


「そろそろ頃合いかしらね?」


「いいんじゃない?やっちゃいましょっ、アイシスちゃん」


「はい。御協力お願いします」


 飛行魔法で空中へ。

そして中央に向って魔法を…ナイトメアドリーミンという強制的に睡眠状態にする魔法を放つ。


 但し、ナイトメアドリーミンはただ眠らせる魔法だけあってそれほど強い魔法でも無いし、効果範囲は広くない。

だが、それを補う方法はある。


「アイシスちゃん!いっくわよ~マジックエクステンデット!」


「ありがとうございます!ナイトメアドリーミン!」


 マジックエクステンデット…支援魔法の一種で他者の魔法を強化、拡張する。

ボクも使えるのだが自分の魔法には適用出来ない。

そこで支援魔法の達人であるヒューゴ団長に協力をお願いしたわけだ。


「…どう?ヒューゴ」


「バッチオッケー!て感じ?今なら殆どの魔獣を無力化出来てる筈よん」


 さっきからバーラント団長がヒューゴ団長に森の様子を聞くのはヒューゴ団長が『千里眼』のアビリティを持っているからだ。

『千里眼』…ただ遠くの景色を見る事が出来るアビリティだが中々重宝されるアビリティだ。


「なら予定通りに進軍!中央に集まってる魔獣を殲滅せよ!」


「「「おおー!!」」」


 上手くいきそう…かな?

後は帝国軍の横やりが無ければ…問題無いだろう。

帝国軍の動きを牽制する為にタッカー侯爵軍が動いているし、行ける筈だ。


「あっそ~れ!ファイトファイト~!」


「「「ファイトファイト~!!」」」


「…力は強化されてるの実感出来るんだけど、何だかなー」


「同感。アイシスの支援魔法に慣れてる身としてはいま一つって思っちゃう」


「シッ、聞こえるわよ」


 森の奥へと進軍中、稀に睡眠魔法の範囲から漏れた魔獣が襲って来るのを撃退しながら進む。

それをヒューゴ団長を筆頭に橙天騎士団が白天騎士団を支援・強化をしてくれているのだけど…応援もしてくれている。それはいいのだけど…何となく気が抜けてしまう。

何故、扇を持って踊る必要が?


「いやぁ~それにしても。アイシスちゃんてば本当に魔法が得意になっちゃったのね~…隠れアビリティの開示条件でも満たした?」


「え?と、突然なんです?」


「ああ、言いたくないならいいのよん?アビリティに関しては秘密にしたいって人は珍しくないから。ただねぇ…それにしたってアイシスちゃんの魔法の上達ぶりって異常だから。まるで噂に聞くガイン様の御子息。『魔帝』ジュン・グラウバーンちゃんみたいじゃない?」


 す、鋭い…只の変な人じゃなかった。


「それはヒューゴだけじゃなく白天騎士団の皆が思ってる事よ。でも、今は戦時下。騎士団に…いえ、王国の勝利の為に使うのではあれば深く追求はしないわ。いつか話てくれるのを期待してるけどね」


「ん~…あたしとしても無理強いはしないけど、本音で言えば今すぐ教えて欲しいとこだけど。仕方ないわね。ラティスんとこの子だしね」


「……」


 いっそ、此処で全て話してしまう、という考えも浮かばないわけじゃなかった。

しかし、ティータさんとも相談したが、もうなんとしてもこの秘密は守り通すべきだという結論に達している。


 というのも、この二年の間にボクの…正確にはアイシスさんのLVは99…この世界の生物が到達出来る最高LVに到達してしまった。

これはいくら戦争に参加してるからと言っても異常な速さで、しかもアイシスさんの『全魔法』アビリティもLV10になっていた。


 ボクのLVも92で『剣術』のLV10に。

つまりボクとアイシスさんは『剣帝』であり『魔帝』。

二人共二つの『帝』の称号を得ていた。


 その為ステータスの上昇が半端ない。

魅力と力以外のステータスはMAXである9999になってしまっていた。


 これは全世界の歴史でも例の無い事で、もしバレてしまったら…良くて英雄扱い。

悪ければ神の子チルドレン教会だけでなく世界中の国や機関から狙われ、利用しようと近づいてくる輩が大勢やって来る。


 例えば入れ替わりの条件をより深く解明してボクとアイシスさんだけでなく、もっと大勢を巻き込んで入れ替わる事が出来れば。

『剣帝』と『魔帝』の称号を持ちボクとアイシスさんと同等のステータスを持つ人間が量産出来てしまう。

その結果が招くのは恐らくは混沌。王国だけじゃなく世界の為にもならないだろうと、ティータさんは言っていた。


 そうでなくてもこの入れ替わりには対象とのキスが条件。

噂が広まって色んな人とキスするなんて事態は…嫌すぎる。

国王命令とか出されてどっかのおじさんとキスする事になったら…泣くよ?ボクは。


 従って。この秘密は極力洩らす訳には行かない。

アイシスさんも同じ結論に至ってるといいのだけど…


「ん~…順調ね。中央で眠ってた魔獣の始末は粗方終わったみたいよん」


「そう。どのくらいの数を始末出来たのかしら」


「さぁ~?でも大部分は始末出来たんじゃない?初日でこれだけの成果を出せたんだから、念の為にあと二、三回やればほぼほぼ一掃出来るわよ。ま、帝国が邪魔しなければだけど」


「そうね…蒼天騎士団とタッカー侯爵の方はどうかしら」


「今回は帝国軍は様子見に徹したみたいね。タッカー侯爵軍は初期位置から動いてないわね。クリスちゃん達は…ありゃ?なんかトラブってるわね」


 クリスちゃん…蒼天騎士団のクリス・ビッテンフェルト団長の事か。

…トラブル?今回、蒼天騎士団の役割は白天騎士団と同じで、そう難しい内容じゃない筈だけど。


 …何があった?

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