第26話 「…無事に見える?」

 どーしてこーなった。


「まだ追って来てるか!」


「来てる!むしろ増えてる!」


「コナー!飛ばせ!」


「わかってる!」


「ジース!グルト!御願い頑張って!」


 私は帝国の騎士達に捕まった風で帝国へ向かい、帝国騎士達と共に馬車で森を進んでいたのだが。

何故かオークの群れに追いかけられ森の中を爆走中だ。

因みにアトライアの言うジースとグルトとは馬の名前だ。


「もう!セルジュが当たりもしない弓なんて使うから!」


「悪かったって!」


 事の始まりは森の中の街道を進んでいる時、セルジュが鳥を発見。

仕留めて今日の夕飯にしようと言いだした。

そこで弓矢で仕留めようとしたのだが見事に大外れ。

そして外れた矢は森の奥へ飛んで行った。


 まぁそこまではいい。獲物を狙った矢が外れるなんて事はよくある事だ。

しかし、今回はその外れた矢が森を徘徊していたオークに命中。

怒ったオークが森から出て来た。

そこで仕留めればいいのにこいつらはめんどくさいからと馬車で走って振り切ろうとした。


 それを見たオークは自分に恐れをなして逃げたのだと思ったんだろう。

私達を丁度いい獲物と判断したオークは仲間を呼び、全力で追い始めた。


 そしてそのオークの集団が走ってるのを見たゴブリンが合流。

どうやらオークから獲物を横取りするつもりらしい。

つまりゴブリンも私達を狙ってるわけだ。


「何でこんなにオークとゴブリンが居るんだよ!」


「この国の冒険者は何やってんだ!」


 どうやらこの森には相当な数のオークとゴブリンが居たようで。

普通、森の中に街道が通ってたり、街道の傍にある森なんかの魔獣は安全確保の為に騎士団によって定期的な狩が行われたり冒険者によって常時討伐依頼が出てるものなんだが。

追って来てるオークとゴブリンの数は合わせて百を超えてる。

これが全てだと仮定しても、そこそこ大きな群れがこの森には存在する事になる。


「どうするミゲル!」


「逃げるしかないだろう!あんな数相手に五人で立ち向かえるもんか!」


「そうよ!人間には無理!」


 いやぁ…私なら一人で全殺出来ますけど?私、人間ですけど?


『どーでもいい事考えてないで。どうにかした方が良いんじゃないですか?』


 どうにかって言われてもなぁ。

流石に武器類は取られちゃってるし、魔封じの腕輪はされてるから魔法は使えないし。

ただのゴブリンやオークなら素手でも殺せると思うけど…あいつら臭いからあんまりやりたくないなぁ。


 う~ん…今のステータスならマジックショットでも何とかなると思うけど…腕輪、はずしてくれるかな?いや、流石にそんな馬鹿な真似しないか。でもまぁ、一応…


「えっと…腕輪をはずしてくれたら魔法で何とかするけど?」


「本当か!」


「流石魔帝!」


「ぜひやってくれ!ぜひやってくれ!」


 ……あっさりとはずしよった。

こいつらやっぱりただのおバカさんの集りなんじゃ……


 兎に角、此処はマジッショットの連射で。


「おお!」


「すげぇ!」


「これ、ウインドボールか何か?しかも無詠唱!」


「一撃で五、六匹吹き飛んでんぞ!しかも連射!」


 ウインドボールじゃなくてマジッショットだけどね。

『全魔法LV10』の能力の一つに呪文の詠唱破棄がある。

魔法名すら破棄して魔法を使えるのだ。

まぁマジックショットは元々呪文は不要だが。


 それにしても予想以上の威力。

ジュンに教えてもらって習得した時の威力はせいぜい木を削るくらいの威力でしか無かったのに。

今では数十倍の威力だ。

オークやゴブリン程度なら当たれば爆発四散する威力。

その為、街道はかなりグロい事になってる筈だが…そこはこの国の人に何とかしてもらおう。

よろしくお願いします!


「おお!逃げてくぞ!」


「た、助かったぁ」


「よくやったな、坊主!」


「ありがとう~!御手柄よ!」


「偉いぞ!」


「…ああ、うん。はい」


 何普通に喜んで褒めてるんだ?

私、人質だよね?人質に助けられるってどうなのよ。


「で、だ…助けてもらっておいて申し訳ないんだが…」


「ごめんね!これ着けて!」


「あ」


 有無を言わさずに魔封じの腕輪を再び着けられた。

いや、いいんだけどね?此処でサヨナラなんてされたら逆に困るからさ。

私を帝国に連れて行く上で必要な処置だってわかるからいいんだけどさ。


「すまん!ほんとすまん!」


「だけどあの魔法を見た後じゃ怖くてしょうがないんだよ!」


「私達があんなのもらったら即死しちゃうから!ごめんなさい!」


「俺達は所詮凡人だから!許してくれ!」


「今夜は腕によりをかけて旨いもん作るからな!」


「…肉入りのクリームシチューとパンをリクエスト」


「「「「「喜んで!」」」」」


 ほんと、いいんだけどさ。

未だに悪い奴らに思えない、何なら普通に良い奴だと思い始めてるし。

敵国の人間じゃなかったら普通に友達になれた気がするくらいに良い奴らだと思うけどさ。


『…もう手遅れな気がしますが、情が移らないようにお願いしますね。最悪の場合は殺さなければならない人達なんですから』


 確かに手遅れだなぁ…私にはもうこいつらを殺す気なんて無いぞ。




 そして翌日。

昨日と違い今日は順調そのもの。

もう少しでエストア公国とファーブルネス帝国の国境が見えて来るという場所まで来た。


 あの橋を越えてもう少し進めば国境。もうすぐこいつらともさようなら…と思っていたのだが。

何だかおかしな連中が橋の手前でたむろしてる。

見た所、帝国騎士のようだが…とても友好的な雰囲気じゃない。

少なくとも仲間を出迎えに来たって様子じゃあない。

武器構えてるし。嫌らしい顔でニヤニヤしてるし。


「何であいつらが此処に…」


「知り合いか?」


「ああ…あいつらは同期だが一等騎士の家の出でな。二等騎士の俺らをいつもバカにして来るんだ」


「だからすげー仲が悪い。あいつらも今回はお前の拉致が任務で、現在は陽動の為別ルートで帰還中の筈だ」


「だからあいつらが此処にいるのはおかしい。任務を放棄して此処にいる事になるが…」


 うーん…仲が悪い連中が橋の手前で待ち伏せ。嫌な予感しかしない。


「…兎に角、話を聞くしかないだろう。テオドリック」


「ああ」


 待ち伏せしてる奴らの人数は五人。

一度停まった馬車を見てイラだった顔をしてたが、再び動き出したのを見てまたニヤニヤしだした。


「そこで停まれ!」


「お前ら、此処で何をしている?」


「おいおい…折角任務に成功した同期を祝おうと出迎えてやったのに随分な言いぐさじゃないか、ミゲルゥ?」


「祝おうって雰囲気じゃないなグレッド。お前らの任務は陽動に変更された筈だ。それなのに此処に居るのは任務を放棄…つまり命令違反。下手すれば極刑だぞ?どういうつもりなんだ?」


「ククク…そんなものはどうとでも言い逃れ出来るさ。敵の追跡を躱していたら偶然この道に出てしまったとかなんとかな。いや…そもそもそんな言い訳は必要無い。そのガキを連れて国に戻るのはオレ達だからな」


「…何?」


「相変わらず物分かりの悪い奴だな!そのガキを寄越せってんだよ!そしてお前らは此処で死ね!」


 …うわぁ。つまり味方の筈のミゲル達を殺して手柄を横取りしよう、と。

どうしようも無いクズだな。


「安心しろよぉ!ミゲル達は追手の王国軍と勇敢に戦いましたが力及ばずに全滅!救援に駆け付けた俺達が王国軍を撃退!ガキは確保しましたって報告してやるからよぉ!」


「バカが!そんなもん坊主…ジュンが真相を喋ったら簡単にバレるだろうが!」


「いいや大丈夫だね!喉を潰すし俺達に反抗しないように調教すっからなあ!それに…ハリーは美少年のケツが大好物っていうド変態でな!どうしても欲しいってんだよ!」


「グヘヘヘ…」


 ぞわあっとした!すんごいぞわあっとした!

やだ、近づきたくない!こっち見んな!


「話はわかったか?サッサとガキを渡せ!そうしたら苦しまないように殺してやる!ついでにアトライアは可愛がってから殺してやるから少しは長生き出来るぞ?」


「へへへ…いっぺんあのデカ乳を好きにしたかったんだよ」


「変態の集りだったのかお前らは!」


「うるせぇぞ!抵抗すんならしろよ。でも…わかってんだろ?お前達じゃ俺らには勝てねえって事をよ」


 グッと押し黙るミゲル達。

自分達ではあいつらに勝てないって認めてるみたいだ。

でも…そうかなぁ?私から見れば大差ないんだけど。


「強いのか?あいつら」


「ああ…いや、剣の腕は俺らの方が上だ。だがあいつらの武器と俺らの武器とじゃ差がありすぎる」


「あいつらの武器は親に用意してもらった魔法が付与された武器なんだ。魔法武器の中では最低ランクの武器だが、それでも俺達の武器とじゃ物が違う」


 ふむ、なるほど。武器の差か。

となると…どうするか。私なら簡単に始末出来るけど…そうなると…


『仕方ありません。やってしまいましょう』


 へ?ノルンからまさかのGOサイン。

ほんとにやっちゃっていいの?


『こうなっては仕方ないです。ミゲル達とは事情を説明して交渉しましょう。それがダメなら、またその時に考えましょう。兎に角この場を切り抜けなければ話になりませんから』


 それもそうだな。お人好しなミゲル達なら交渉には乗ってくれそうだし。

じゃ、私が始末してしまおう。


「お?何だ?」


「おい、ジュン!馬車から降りるな!」


「まさか君…私達を助ける為に自分から!?」


「バ、バカ野郎!お前が自分を犠牲にしたってこいつらが見逃してくれるわけないだろうが!」


 いや、そんな美しい自己犠牲の精神に満ちた行動じゃないぞ、これ。

むしろ殺意に満ちた行動であって。自己犠牲とは真逆の考えで行動してます、はい。


「…ミゲル!」


「わかってる!こうなったらやるしかない!」


「それにもう…ジュンは俺達のダチだ!ダチを見捨てるわけにはいかねぇ!」


「誘拐任務なんてくそくらえだ!」


「やるぞ!」


「え」


『え』


 あれー?君達、そんな行動…国を裏切るつもり?

というか、いつから私は君達のダチに?いや友達になれたかもとか思ってたけどさ!


「へっ!バカが!何も守れずに惨めに死ねや!」


「へっへっへっ…楽しみだなぁ…」


「サッサと殺ってサッサとヤるぞ!」


「おう!行く…ぞ?」


「覚悟しろグレッ…ド?」


「「「あ?」」」


 ミゲル達とグレッド達。

正面から激突!となる寸前。

突然二組の間に何かが投げ込まれた。


 これは…もしかしなくても?


『爆裂系の魔法道具です!伏せて!』


「伏せろー!!!」


「「「「へあ?」」」」




  チュドン!チュドン!ドーーーーーン!




「「「「ぶあああああああ!!!!」」」


 立て続けに三回の爆発!一体何事!?


「ジュン様!ご無事ですかー!!!!」


『メリーアン先輩!?』


 セバスチャンも居る!此処で見つかってしまったのか!

てか、私も一緒に吹き飛ばすつもりか!?


「ジュン様!?ああ…なんて痛々しい御姿に!」


「メリーアン…お前達が来る直前までは無事だった気がするがなぁ…」


 私がズタボロになったのはメリーアン達が投げた魔法道具のせいだ。

100%間違いなく。一切合切の疑いの余地も無く!


「ご無事ですか、ジュン様」


「セバスチャン…無事に見える?」


「はい。御元気そうで何よりで御座います」


「…結構良い性格してるな、セバスチャン」


「お褒め頂き光栄ですな。ま…今回の事はジュン様が自ら望んだ結果のようで御座いますので。少々キツめのお仕置きをさせて頂きました。御分りいただけますか?」


「ぐっ…」


 つまりはワザとか…恐ろしい奴。


「ノルンもそこに居ますね?貴女もキツいお仕置きが待ってますから、覚悟するように」


『うっ…』


 全て、お見通しか…はぁ…ここまでか。


「セバスチャン様!この者達は如何しましょう!」


「全員気絶してますけど」


「全員連れ帰るのは手間ですね。殺して谷に捨ててしまいましょうか」


 あ!それはダメだ!グレッド達はどうでもいいけど!


「待ったー!セバスチャン、殺すのは待った!」


「ジュン様?」


「橋に近い方の奴ら五人はどうでもいいけど!冒険者風の恰好した奴らは殺さないでやって!そいつら良い奴らだから!わた…ボクを護る為に帝国を裏切るみたいな発言までしてたから!」


「ほう?そうでしたか。ならば彼らは王国へ亡命するのですか?」


「そこまでは考えてなかっただろうけど…それが現実的…なのかな?」


「畏まりました。ではこちらの五人は連れ帰ってグラウバーン家で働いてもらいましょう。旦那様には私からお知らせしておきます」


「お、おおう…随分あっさりと信じてくれるね?」


「ジュン様の御言葉ですから。当然暫くは監視を付けますが。ああ、ジュン様にもより厳しい監視が付きますので」


「あ、うん…」


『はぁ…もう少しだったのに…』


 ま、此処でセバスチャン達に追いつかれたって事はグレッド達が居なくても国境を越える前に捕まってただろうな。


「はい。ジュン様を連れて帝国に入るルートは限られています。その中でエストア公国を通って入るルートとなると、この橋を確実に通る事になりますので。追いつくのは簡単でした」


 とか言ってたし。


「では、丁度いい馬車が二台ありますし。これを頂いて帰りましょう」


「はーい」


「こっちの五人の始末は終わりましたー」


「やぁん、返り血あびちゃったぁ」


 …グレッド達はキッチリ殺した後谷底に捨てられてた。

ミゲル達が言ってたちょっと良い武器は回収されて。怖いくらいに手際いいな。

因みにミゲル達とは別の、もう一台の馬車はグレッド達の馬車の事だ。


「さ、帰りましょう」


「「「はーい」」」


 はぁ…今回の計画も失敗か。

やっぱり戦争が終わるのを待つしかないのかな。


 因みにミゲル達はグラウバーン家における私の…ジュン直属の配下の騎士という扱いになった。

帝国にいる時より待遇が良く、一生かけてつくします!なんて言ってたけど…ほんとにこれでよかったのかね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る