第25話 「でも、それでも……すまん」
「うう~ん…ダメよ、そんなとこ触っちゃ…zzz」
「ギリギリギリギリ」
「ぐぉ~ぐが~」
「スゥ~…スゥ~…」
「……」
なんだ、この空間。
一つのテントで五人が寝るの仕方ない。
一応、私は囚われの身であるからして?一人で眠れるなんて思ってない。
でも、逃げようと思えばいつでも逃げれる。
「ふあ~あ…ん?どーした?眠れないのか?」
「いや、別に…」
見張りはいるけど…ヌルい。
簡単にヌけれる。しかし、ここはまだエストア公国。
予定では帝国内に入ってから逃げる事になってる。
ノルンは大人しく弱い子供を装って少しずつ油断させてくださいとか言ってたけど…初日からもう油断しまくりだな、こいつら。
つくづく誘拐なんて向いてない。
いや、騎士にすら向いてないんじゃないか?
それにしても…
「う、ううふあんんっ」
アトライア…爆乳だな!
これまで見て来た乳の中でも三本の指に入るデカさ…そして無防備!
くっ…こんな状況じゃなければ!
いや、乳を揉むくらい…
『…何してるんですか』
「うわおう!?」
「…?どうした?」
「い、いや、何でも!」
「?…ちゃんと寝ないと、明日が辛いぞ。早く寝ろ」
「あ、うん…」
今の声は…ノルン?何処からかノルンの声が…
『大声を出さないでください。ノルンの声はあなたにしか聞こえてません。少し打ち合わせがしたいので、一人になってください』
どうにかったって…一人にさせてくれるかな。
いくらなんでも逃げるって思われるんじゃ…
「ん?またか。どうかしたのか」
「えっとその…ト、トイレに…」
「何だ小便か。そこの森でして来いよ。奥には行くなよ。熊とか出るからな」
「…うん」
緩いなー…本当に。
こいつら私の事、仲間だと勘違いしてない?
「さて…もういいぞ、ノルン…って、うわお!」
「声が大きいです。大声を出さないでください」
「い、今何処から出て来た?」
「あなたの影です。忍術のスキルに『潜影』というモノがあります。それであなたの影にずっと潜んでいたのです」
「へー…全く気配を感じなかったな。便利なスキルだな」
「普通は長時間潜めないんですけどね。ま、ノルンは優秀なので」
自分で言っちゃうのか。
フフンって感じで胸張ってるし、アホ毛も揺れてる。
凄く得意気だ。
「それで、打ち合わせだっけ。何か方針の変更でも?」
「いえ、今の所順調ですし当初の予定に変更はありません。ありませんが…あの人達、どう思います?」
「良く言えば善人。悪く言えば間抜け」
「ですよね…そりゃ騎士なんてやってるんだから根が善人なのはわかりますが、もう少し緊張感を持てないのでしょうか。逃走する際は後腐れのないように始末するつもりでしたが…アレでは殺す気になれません」
「全くだ」
すっかり毒気が抜かれてしまった。
狙ってやってたなら大したモノだ。
「腕も大した事ないようですし。むしろ何かに襲われたら手助けが必要かと思ってしまうほどです。無事に帝国まで連れて行ってくれるのか、酷く不安です」
「ほんとにな」
「…ですが順調なのは確かです。予定通り、このまま帝国に入って適当な所で脱出。ジュン様が居る城塞都市ストークに向かうとしましょう」
「了解。それじゃ、そろそろ戻るよ」
「ええ」
ノルンは再び、私の影の中へ。
とぷんって水に沈む感じで。『潜影』ってあんな風に潜むのか。
影の中ってどうなってんだろ?
『言葉では説明しづらいですね。真っ暗な部屋の中から窓の外の景色を見てる感じ…でしょうか』
「おおう?何、私の考えが読めるのか?」
『影に入ってる間は、その影の主の思考を何となく感じる事が出来ます。いやらしい事考えてたらわかりますから、もうおかしな事考えないでくださいよ』
「…はい」
思考を感じる…やだなぁ、それ。
てゆーか!そんな事出来るのに無断で人の影に入らないで欲しい。
『他に手段はありません。我慢してください。あなたの身体がジュン様の身体である以上、傷一つ付けるわかにいきませんから、いざという時即座に守る為に必要な処置です。それに私の中であなたのプライバシーは優先順位が低い。そっちは守る気がサラサラありませんので、あしからず』
「こいつぅ…!!」
「何ぶつくさ言いながら歩いてんだ?ほれ、早く寝ろ」
ぐっ…くっ!いつか絶対泣かす!
『返り討ちにしてみせます。ほら、早く寝たらどうです?ノルンももう寝ます』
寝れるのか、影の中で。
『案外広くて快適ですよ。では、おやすみなさい』
普通は長時間潜めない影の中で睡眠…ノルンの言葉を信じるなら確かに優秀なんだろう。
でも、こいつも所詮駄メイドだからなぁ。
どこまで信じていいやら。
まぁいい、そろそろ寝よう。…zzz
「…」
「おはよう。よく眠れた?」
「…誰かの歯ぎしりとイビキが耳に残ってる」
「アハハ!だってさ!ミゲル!テオドリック!」
「そりゃ…悪かったよ」
「すまん…」
「ごめんね。あの二人が五月蠅いのは毎晩だから。悪いけど、慣れて」
慣れる…出来るかな。いや、慣れたくないな…何となく。
「…あんた達、随分仲が良いみたいだけど、どういう関係?」
「ん?そうね、子供の頃からずっと一緒に居るからね」
「オレ達は同じ孤児院で育ったんだ」
「勿論、他にも子供は居たが俺達は皆同い年でな。一緒に騎士になろうって誓いあって騎士学校に入ったんだ」
「孤児…」
「そうだ。だから俺達は二等騎士になる」
「一等騎士になって貴族になる。それが俺達の夢さ」
あ~…えっと、確か帝国の法では平民上がりの騎士は二等騎士、貴族家出身の騎士は一等騎士になる。
王国で言えば一等騎士は騎士爵になるか。
王国では騎士になれば騎士爵が与えられるが、平民から騎士になった者はその者に限る。
レティやダイナがそうで、仮に二人が子供を産んでも子供には騎士爵は受け継がれない。
二人の家が正式な騎士爵家になるには二人の子供と孫、三代続けて初めて子から子へ爵位が受け継がれる貴族家の末端に加えられる。
確かダイナは親も平民出の騎士だから、ダイナの子供が騎士になれば正式な騎士爵家として家名が与えられる筈だ。
「ま、はっきり言って二等騎士なんて、お偉い人達からしたら使い捨てのコマさ」
「だけど今回の任務に成功すれば…きっと一等騎士になれる」
「だから…悪いな。このまま大人しく帝国まで来てくれ」
「ごめんね…絶対に君を傷付けたりしないから」
「正直に言って国を想う心ってのは俺達は薄い。故郷だって認識があるのとダチや世話になった人達が居る国ってだけさ。帝国の勝ち目が薄いのも解ってる。でも、それでも……すまん」
「うっ…」
『……』
自分達の立身出世の為に、か。
だから私を…ジュンを誘拐した。
それは身勝手な悪党の思考そのものだけど…それでもこいつら悪人に思えないんだよなぁ。
ううん…単なる世間話として話題を振っただけだったんだけど、マズったかな。
ますますやり辛くなってしまった…
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