第24話 「帝国の未来の為だ」
うん…いい天気だなぁ。
こういうのんびりとした旅も悪くない。
尤も…
「どうだ?」
「大丈夫だ。追手の気配は無い」
「よし。なら予定通りにこのままエストア公国を抜けて帝国に戻るぞ」
誘拐犯との旅なんだけど。
前回の襲撃犯から聞き出した情報によるとまだ後続の部隊が私…ジュンを誘拐する為に待機してる事が分かった。
そして白天騎士団は現在帝国の街ストークにいるらしい。
ならばワザと帝国の部隊に捕まって帝国まで連れて行ってもらおう、そして適当な所で脱走。
ストークに向えばいい、というノルンのが計画なのだ。
今はエストア公国…アデルフォン王国の南東、ファーブルネス帝国の東にある中立国。
そこを襲撃犯と一緒に馬車で移動中だ。
「しかしお前、随分簡単に捕まったな。街の外に一人で居たのも怪しいし…何か企んでるのか?」
「所詮まだ子供だ。大貴族のお坊ちゃんだし、周りが護ってくれると思ってたんだろう」
「すっかり怯えて黙り込んでるしな。『魔帝』と言えどもこんなものか。魔封じの腕輪も着けられては何も出来んようだな」
う~ん…ボロが出ないように黙ってるだけなんだけど。
敵国の貴族の子供を誘拐しようなんて奴らにしては甘いんだよな。
黒天騎士団の連中なら拘束した上でマヒ毒くらい使うぞ?
「いいか少年。そうやって大人しくしていれば危害は加えない。君の御父上との交渉材料になってもらうだけだ。その為にも無傷でいてもらう」
「我々は帝国騎士だ。本来ならこのような卑劣な手段、取りたくはない。だが…許せ。帝国の未来の為だ」
「ごめんね…何かあれば私に言って。可能な限り善処するから。私の名前はアトライアよ」
この馬車にいる襲撃犯は五人。
二人は馬車で御者をしてる。一人は商人のような恰好をしていて残りは冒険者のような恰好。
旅の商人と護衛の冒険者パーティーという設定か。
そしてアトライアと名乗ったこの女は、剣士風の冒険者の恰好だ。
桃色の髪でショートカット。優しそうに微笑むスタイルの良い女。
うん、美味しそう。
「な、何?」
「いや、何でも。エストア公国を通って帝国に行くのか?」
「そうよ。このまま真っ直ぐ西へ進むの」
「…たった五人で?」
「大丈夫。エストア公国は中立。アデルフォン王国の軍も大部隊を送り込んでは来れないし、帝国と敵対してもいない。道中に大きな危険は無いわ」
「君の誘拐が任務だった別部隊は攪乱の為に別ルートで帰還中だ。帝国に帰るまでの時間は稼いでくれる。助けが来る事は期待しない方がいいぞ」
「…だといいけど」
既にセバスチャン達は動いている筈。
彼らから逃げおおせる事が出来るかが最難関なんだけど…こいつら、弱そうなんだよな。
私なら素手でも簡単に制圧出来るぞ。
因みにノルンはこの馬車を追跡して近くに居る筈。
何処に隠れてるのかは知らないけど。
「お?クマか」
「狩っておくか。今日の夕食は熊肉の煮込みだな」
「よし。待ってろ坊や。うまいもん食わせてやるからな」
頭を撫でてから熊狩りに行く誘拐犯達。
なんか、こいつら今までの襲撃犯と違って良い奴っぽい。
国を想う騎士だけあって根は善人なのか。
脱走時には殺すつもりだったけど、やりにくくなったな。
気絶させるにとどめておくかな。
でも、熊ってそんなに美味しい?食べた事あるけどさ。
それよりもそんな事に時間を割いていいのかね。
「おーし。仕留めたぞ」
「解体するから、もう少し待っててくれ」
騎士だけあって只の熊には手古摺る事なく勝てたらしい。
だが一撃で仕留めてない。只の熊でも綺麗に仕留めれば毛皮もそれなりの値段で売れるのに。
勿体ない。
「あ、こんにちはー」
「やぁ、こんにちは」
熊の解体が終わって再び街道を普通に進んでいると別の商人の馬車とすれ違う。
自分から挨拶してたけど、こいつら自分達が誘拐犯で隠密行動中だって解ってるのかな?
社交性があるのは良い事だとは思うけど。
…まぁ、以前のステータスの私だったら同じ事してたかもしれないけど。
今の私の知力はジュンと同じだからこれくらいは解るのだ。
つまり、それがわからないこいつらは以前の私並にバカ?
いや、自分達が誘拐犯だっていう自覚が薄いのか。
「よし、今夜は此処で野営だ。コナー、料理を頼む。セルジュは川で水を汲んできてくれ。アトライアは馬の世話を。俺とテオドリックはテントを張るぞ」
「「「了解」」」
「じゃあ私は馬の世話してくるから。君は此処で大人しく待っててね」
「コナーの料理は旨いから、期待してていいぞ」
「はぁ」
警戒心無さすぎない?
見張りも立てずに…この間に私が逃げるとか、考えないのかな。
ん?
「ほら、腹が減ったろう。これでも食べてな」
「ど、どうも」
コナーがリンゴをくれた。
本当に誘拐犯とは思えないお人よしの集りだな。
そりゃ騎士なんだから人格者が求められるだろうけど…やり辛い。
いっそ悪人の方が遠慮なく騙して斬り伏せられるんだけど。
「水、汲んで来たぞ」
「ああ。そこに置いておいてくれ」
「ああ。それと…おい、お前。これをやろう」
「え?」
「川に行く途中で見つけた。野生の実だから旨いかどうかわからんがな」
今度はセルジュが木の実をくれた。
どうしよう、セルジュも多少口が悪いみたいだけど、良い奴っぽい。
「テントも終わったぞ」
「馬の世話も終わったわ。手伝いましょうか、コナー」
「いや、こっちはいい。セルジュと二人で十分だ」
「アトライアはあいつと遊んでやれよ」
「そうねぇ…でも何が出来るかしら?」
「トランプならあるぞ?」
トランプて!遠足気分か!
「トランプか。暇潰しにはなるな。オレも混ぜてくれ」
「オレも混ざろう」
「四人でやるならババ抜きね。ところで何故ジョーカーをババって言うのかしら?」
どーでもいい!すっげぇどーでもいい!
何なのこいつら!何でそんなにのほほんとしてるの!?
誘拐犯だよね、あんたら!
「ぬあああ!ババ引いたー!」
「ハッハッハッー!ビリは罰ゲームだからな!」
「アハハハ!ミゲルって隠し芸とかあるの?」
「まだ負けてない!ほら引け!」
仲良いな、こいつら…しかし、こんなんで襲撃あったら対応出来るのかね。
私が心配するのはおかしいけど、不安。
「あー!」
「ハッハァッ!アトライアには隠し芸はあるのかー?」
ほんと、大丈夫かな…
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